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第三章 絶大な力の前に三人は大ピンチ


    1


「また消えた。リュウ、一体何者なんだ。一体何のためにエレクタクノロジーを探しているんだ」

「まぁ、あのような者にエレクタクノロジーを手にする資格があるとは思わないわ」

 リブたちを助けた謎の少女はその場に残っていた。そして、彼女の目的も何なのだろう。「ありがとう、助かったよ。君は、一体何者なの?」

「私は『エイ』という名前なの、よろしく」

「エイ・・・いい名前だね」

 よくあるRPGゲームのシチュエーションか。

「僕はリブ、隣にいるのがマス」

「リブとマスね、よろしく」

「あなたたち、エレクタクノロジーを探してるっていってたけど、目的は何なの?」

 リブは、リュウの攻撃から助けてくれたことから、エイを信頼してこれまでの経緯を全て話した。

「そう、村人が。それは災難だったわね」

「そうなんだ。村人を救出するために、エレクタクノロジーを手に入れるんだ」

リブが説明を終えた後、マスが口を開いた。

「ところで、君は何の目的でエレクタクノロジーを探しているの?」

「そうね、あなたたちがこれだけ話してくれたのなら、私も話さないわけにはいかないわね。ちょっと長くなるから、近くのお茶屋で話さない?」

 そう、デスリーンと対峙して脱出した建物の前で、リュウと戦い、エイが現れた。さらに、リブたちの旅の始まりを語っていた。時間にして一時間近くは経っていただろうか。しかしながら、牢屋の職員が一切出てこないのは、身の危険を案じてなのだろうか。

 マスが小さな集落の一つにコーヒーカップの絵が描いてある看板を見つけた。三人はそのお店に舞台を移し、エイの話を聞こうとした。

 お店はカウンター五席、ボックス四人掛けの席が三つと、こじんまりしている。お客さんの姿はない。ここでなら重要な話をしても差し支えはないだろうと判断した。

「ご注文は?」

 オールバックの中年紳士のような風貌のマスターに注文を聞かれたが、今はコーヒーの味を堪能している場合ではない。三人は水でも構わなかったが、お店のメンツを立てるため、『本日のおススメ』とメニューを見ないで頼んだ。

「さて、私の話をするわ・・・私は千年前の世界からこの時代にタイムスリップしてきたの」

「「え――――――!!!!!!」」

 リブとマスが偶然であるが完全にハモリを入れて叫んだ。ここにお客さんが変な目で見られるが、幸いこのお店にはマスター一人なのでおとがめなしである。

「じゃあ、エイは過去から来たってこと?」

 リブが会話の主導を握っているようだ。

「そうよ、いきなり千年前から来たって言っても、信じてくれる人なんかいないわ。私があなた達の立場だったら、信じないでしょうね。でも、これは事実なの」

「エイは僕たちを助けてくれたから、信じるよ。で、なんでこの時代にタイムスリップしてきたの?」

 エイは話の核心を話し始めた。


    2


――千年前、世は戦国時代であった。広いこの世界であったが、勢力が完全に二つに分かれていた。リブたちがいたエルニア国を東軍とするなら、リブたちが向かうゼレスは西軍と言ったところである。

 世界を巻き込む大戦の東軍の幹部として、エイはいたそうだ。先ほどリュウに向けた炎の威力から見ても、炎術者としての腕は確かなのであったのだろう。

東軍の領主である『ユウト』だが、身長一九〇センチメートルの長身で片方の目が前髪に隠れるほどの長髪であり、八等身と細身のスタイルでありながら筋肉質の体型であり、東軍で一番の戦闘力を誇っていたのがユウトである。

 さらに、ファッション誌の表紙でも、格闘技誌の表紙でも違和感のないビジュアルを誇っており、好きな男ランキングでは常に上位、腐女子には格好のターゲットとなるのがユウトである。エイといいユウトといい、千年前は男女ともになぜこんなにレベルが高いのか。ユウトはエイを信頼しており、またエイもユウトを信頼していたようだ。

 大戦の原因は双方の思想の違いである。よくいう宗教戦争といったところか。それがいつしか政治・倫理観・人種等、戦争する理由としては様々なものが入り混じっていた。いつの時代にもあるものだとリブたちは思った。

 東軍の領主のユウトは、常々エレクタクノロジーを口にしていたようだ。エレクタクノロジーがあれば、この大戦を終わらせることが出来、世界に平和が訪れるという思想があった。一方の西軍の領主『マルコル』は、エレクタクノロジーがあれば、世界を支配できるという思想があった。そのためには、幾人の血を流しても構わない冷徹人間であった。いつの時代にもいるものだとリブたちは思った。

 千年前の世界でもエレクタクノロジーは強大な力があると語られていた。そのため、各国でエレクタクノロジーを血眼に探していた。

「エレクタクノロジー、一体どのようなお宝なのであろうか。もし持つ者の理想郷を作り出す力があるとすれば、何としてもマルコルに渡すわけにはいかないな。なぁ、エイはどんな世界を作っていきたい?」

「私はユウト様と同じ答えで、世界の人々が平和である世界を望みます」

「それでよい。この半世紀余り続く戦争を早く終わらせ、人民の衣・食・住を満たすことを早急にしなければいけない。見よ、西軍の攻撃で人民はまたひとりふたりと命を失っていく。もう無駄死にする者は出したくないのだ」

 大戦はエイやユウトが生まれたときからすでに始まっていた。ユウトは何としてもこの戦争を終わらせることを常々エイに語っていた。どこまでこの争いが続くのかと不安になっていたが、その大戦は自軍の敗北という形であっけなく終わったようだ。

 ある日のこと、毎日続く争いにルーティンすら覚え始めていたが、西軍の動きがおかしいことにユウトが気が付いた。西軍の領主のマルコルの動きが尋常じゃない。東軍と西軍の力は五分五分であるはずなのに、マルコルが次々と東軍の兵士を斬り殺していく。マルコルの剣術は神足かのように素早く、その姿を人間の肉眼で捕えることは難しいことであった。斬られた兵士に駆け寄り抱きかかえるユウト。倒れて瀕死の重傷を負った兵士の話では、『俺は永遠の力を手に入れた』とマルコルが口走っていたようだ。その力は強大で、東軍の兵士では止める術がない。

「永遠の力だと・・・」

「そうだよ!」

 ユウトが独り言を口走ったのに対し、答えた者がいた。ハッとしたユウトが顔を上げると『永遠の力』となるものを手に入れたマルコルがいた。

「お前は、本当にマルコルか? いや、本当に人間か? なぜここまで人を殺す必要がある! この戦争はお互いの思想の違いがあるだけで、人殺しなど望んでなどいない。しかし、今のお前は明らかに人間を殺めることに快楽を佩びている。こんな真似は今すぐやめるんだ!!」

「説教は終わりか? この戦国時代は力ある者のみが生き残るのだよ。今日、お前はこの俺に全てを奪われる。これは歴史だよ。そして、エレクタクノロジーを我が物とし世界は俺が思い描いた世界になるのだ」

「俺を殺したところでエレクタクノロジーは手に入らないさ」

 ユウトは背筋が凍る思いでマルコルと対峙していた。これまで何度かマルコルの姿を見ているが、それまでの雰囲気とはまるで違っていることが肌で感じ取れたからである。姿はこれまでのマルコルとは変わらず、見た感じ普通の人間である。しかし、言動・醸し出す雰囲気・目つき・顔つき・言動全てが常軌を逸していた。まるでドラッグに手を染めたような不気味さがあった。

 マルコルが『お前は死ね』と言えば簡単に人間の魂など奪うことが出来るのであろう。その証拠に、次々とユウトの部下の屍を見せつけられたからである。この男には人を殺すことに何らためらいが感じられない。恐らくユウトが殺されれば、横にいるエイも迷わず殺すであろう。ユウトは一つの決断をした。

「エイ、このままだとみんな犬死になる。俺がマルコルの注意を引くから、その隙に逃げろ。そして、お前だけでも生き延びろ」

「いやだよ、ユウト様を置いてなんか行けないわ」

「ダメだ!! あのマルコルはもはや人間ではない。一刻も早くここから逃げなくてはならない」

 二人の会話を縫うように、マルコルの剣が割り込んできた。

「ところで、エレクタクノロジーのありかは知っているのか?」

「知っていたところで言うとでも思っているのか」

「ならば死ね」

 マルコルが剣を振った。咄嗟の判断でユウトは回避することが出来たが、剣の振りでかまいたちが出来、その衝撃で隆起していた山にぶつかり、辺りに噴石が降ってきたかのように石が降ってきた。

マルコルのこれだけの破壊力を見たユウトは、エイをこの化け物から離したい思いで必至となっていた。ユウトはエイから離れるように小高い崖の方へ向かっていった。振り返ったユウトの表情は軽く微笑んでいた。まるでこれがエイを見る最後であると決心したのであるように。ユウトは上手くエイから離れることが出来たが、マルコルに崖の上で完全に追い詰められてしまう。

「ククク、これで東軍の負けは決定だな、ユウトよ」

「くっ、おまえは人間なのか? 少なくとも、俺の目にはもはや人間を止めて悪魔に魂を売り渡した奴にしか見えない」

「そうさ、俺は永遠の力と命を手に入れたのさ。東軍の領主がこのざまとはな」

「どうやら、西軍の領主が悪魔になったことは、この星は化け物だらけになるってことだな」

 事態は深刻であった。東軍の領主であるユウトが見たものは、西軍の領主が人間とは思えないパワーとスピードでユウトの前に現れたのである。西軍の領主はユウトの前に剣を突き出し辞世の句を述べさせていた。

「最後に聞きたい、お前は今日突然人間とは思えないほどの強さで俺の目の前に現れた。一体何をしたんだ?」

「あの世で聞くんだな。と言いたいが、俺はもうあの世には行けないから一つ教えてやろう。俺は神のお告げを受けたのさ」

「やっぱり悪魔に魂を売り渡したのだな? 人間止めてまで何がしたいんだか。それとも、この俺を恐れて人間を止めたのか」

 ユウトがにやりとしたその時、西軍の領主がユウトの左胸を一突き! ユウトはそのまま絶滅した。

「さて、これで東軍との争いも終わり、世界は俺のものとなるのだ。ふふっ、ハハハッ・・・では、永遠の力をこの小娘にも試してみるか」

小娘・・・木に隠れる形で二人の戦いを見ていたのはエイであった。

「お前は殺すのは惜しい娘だが、この世界には生かしておけない」

 ユウトが殺されるのを目の前でエイは見ていた。怒りと悲しみに暮れるエイであったが、身の危険はすぐそばに迫っていた。マルコルがユウトを刺した刃をエイに向けていた。

そこから先は何が起こったかエイでもうまく説明できなかった。


    3


 千年前の大戦の話を聞かされたリブたちは、唖然としていた。目の前にいる女の子は、千年前の大戦の戦士であり、強大な力を持っていることが想像できなかった。しかし、リュウとの戦いを見ると、彼女が相当の戦士であることがはっきりとわかっているため、信じざるを得なかった。

 エイの大体の話が終わるころ、三人の前にもうひとり姿を現した。

「お待たせしました。本日のおススメであります、『スペシャルウルトラリンリンメリーゴーランドパフェ五段ミックス』でございます。

 突如、三人の前に高さ四〇センチメートルはあるかというパフェが出てきた。もはや一食分で晩御飯クラスメニューである。こんなものおススメにするな。三人は、次回からメニューに目を通して注文をしようと決めた後、再び本題を話し始めた。パフェを一口食べた後、リブが口を開いた。

「で、エイはこの時代に飛ばされてどれくらい経つの?」

「三日前かな。気が付いたらここから少し離れた街で倒れていたらしいの。私と同じ年くらいの女性が面倒を見てくれたの」

「じゃあ、その格好はもしかしてこの時代のもの?」

「そう、彼女からもらったものよ。あの子、『この服チョーかわいいんだけど』って言いながら色々試着させてくれたわ。あと『ヤッパ今は茶髪っしょ、チョーかわいいんだけど』って言いながら私の髪を整えてくれたわ」

 今どきのファッション姿、面倒を見てくれた『彼女』の言動を言いながらパフェを食べるエイを見てると、完全に今どきの女子高生にしか見えなかった。とても三日前まで世界大戦の戦士とは誰が信じられようか。

「で、なんで俺たちを助けてくれたんだ?」

 今度はマスが口を開いた。

「あなたたち、エレクタクノロジーを探してるって口にしてたじゃない。つまり、千年経ってもエレクタクノロジーはまだ見つかっていないことになるわ。だったら、目的は同じだと思ったの。今の私はエレクタクノロジーを探すこと以外、生きることに対しての目的はないわ」

 エレクタクノロジーを共に探す人がいる。しかし、同じ目的であるにも関わらず共闘を拒否する者もいる。世の中には様々な思想があふれていると悟った瞬間でもあった。

「エイ、僕たちについてきてくれる? エレクタクノロジーを見つけるためには、エイなしでは難しいよ。何より、戦闘の経験が僕にもマスにもない。お願いするよ」

「もちろんよ。共にエレクタクノロジーを見つけましょう」

 エイが仲間になった。(パッパラパラ~♪)よくあるRPGゲームの展開である。

「ところで、エイはエレクタクノロジーってどんなものか知ってる?」

「私もよくは分からないわ。ユウト様がよく知っていたようだけど、詳しくは聞かされていなかったし」

「実は、さっき僕たちが戦っていたところの建物で、『シェイン』とかいうやつがエレクタクノロジーについて知っているって聞いたばかりなんだ」

 知っていると答えたリブの言葉に驚きを隠せず、エイはまあるい目をさらに大きくまあるを描いた目をした。

「何ですって? じゃ、そのシェインに会えば、エレクタクノロジーの真相にたどり着けるのね。こうしちゃいられないわ、早くシェインに会いに行かなくちゃ」

 エイは慌てて席を立とうとしたが、『本日のおススメ』のパフェが残っている。三人は巨大なパフェをまるで早食い王座決定戦のテレビでも見ているかのように、すごい勢いで『本日のおススメ』を完食した。さすがのマスターも脱帽の様子だ。

「ありがとうございました」

 マスターの感謝のこもった言葉を受けたあと、三人はシェインを探しに旅立った。マスターが三人を丁寧に見送った後、電話を取り出す。

「もしもし、シェイン様へ一報です。例のエレクタクノロジーを握る二人の少年ですが、捕まえた牢屋から脱走した模様です。私の店に来てました」

「何だって? フン、処刑場の奴らは役に立たない愚か者だ。で、奴らはこれからどこに向かうと言っていた」

「どうやらシェイン様に会うと申しておりました」

「ほぅ、なら好都合だ。この手で奴らを始末することが出来ることには変わりないからな」

「あと、例の二人のほかに、女性の姿もありましたが、何やら過去から来たと語っておりました」

「そんなたわごとを信じるバカがどこにいる? まぁ、頭の片隅にでも残しておくか」

「シェイン様、実はもう一つ重要な情報があります」

「なんだそれは、エレクタクノロジーの新しい情報か?」

「いえ、彼ら『スペシャルウルトラリンリンメリーゴーランドパフェ五段ミックス』を完食していきました」

「ガチャッ、ツーツーツー・・・」

 電話が切られたのも無理はない。これは、あなたが部下を預かる上司の身になればよくわかる出来事だ。

「そんなどうでもいい情報を受けるなんて、シェインとやらも気の毒ね」

 シェインに電話を切られ落胆しているマスター、その声に振り向くと先ほど『スペシャルウルトラリンリンメリーゴーランドパフェ五段ミックス』を完食した三人がいた。

「な、なぜお前たちがここに戻ってきた!」

「さっきの『本日のおススメ』をおかわりしに来たと思うの? 生憎だけど、そんな食欲はないわ。しいて言うなら、あなたが怪しいから様子を見に来たのよ」

「そう、僕とマスは一切気にしていなかったけど、さすが数日前まで大戦に居た身だけあって、危険の察知に関しては抜群だよ」

「なんでも、さっきまで大々的にリュウたちと戦っていたのに、まるで何事もなかったかのような振る舞い。そして、処刑場のような建物の前にこじんまりとした集落。そんなの村全体があの建物の関係者に決まってるわ」

 驚きのマスターは開いた口がふさがらない。まるで探偵小説の推理のように、素性がばれていく。

「よく、見破ったな。俺は今この店のマスターとして細々とやっているが・・・」

「昔はあの処刑場みたいな建物の関係者だって言いたいんでしょ?」

「!! なぜわかった」

「その右腕の傷、拳銃か何かで撃たれたんでしょ? そんな痛々しい傷、普通の喫茶店の人がどうやったらできるのかしら。そんな傷ができる環境は、あの建物の中で発砲する人じゃなきゃこの辺りではないわ」

 エイの洞察力は並大抵のものではない。千年前の人であるが、しっかり現代に適応した考えを持っている。

「さぁマスター、おかわりをお願いするかな。この町とシェインの情報を追加でもらおうか」

 マスの発言から二〇秒間、あまりに寒いセリフに身震いと呆れで全員固まっていたが、マスターがようやく口を開いたことで解凍となった。

「そうさ、俺はかつてあの建物、通称『生けざる者の巣窟』と呼ばれる処刑場の監視員としていた。ある日、脱走した奴らを捕まえようとしたときに、味方に脱走者とともに撃たれたのさ。その時だ、どっちが正義でどっちが悪か分からなくなったんだ。それから俺は身を引き、この店を始めた」

 観念したマスターが半生を語り始めた。主要な部分のみ聞きたかったため、マスがところどころ突っ込む

「何でお前は村を出ないんだ?」

「俺たち全員がシェイン様に監視されている。シェイン様の力は強大だ。逆らえば殺される。だから、俺はこの村から出ることが出来なかったんだ。お前らが束になってもシェイン様に勝てるかどうか」

「わかった、どっちが正義でどっちが悪か、直接シェインに聞こうじゃねーか」

「バカな、そんなことが出来るわけないだろ」

「いずれにせよ、エレクタクノロジーの情報を持ってるんだ。奴に会うのは必須だよ。さぁ、シェインの居所を教えてもらおうか」

「そうか、君たちに賭けてみよう。シェインはここから車で五時間近くの場所にある城にいる。その城はシェインがその強さで手に入れた奴隷によって成り立っている」

「そこまではどうやって行けばいいんだ?」

「それなら俺の車を使うといい」

「車だって!!?」

 その単語にマスが喜びをあらわにした。リブはまた、マスが無謀な運転をしないか心配になった。いや、するに決まっている。

「シェインの場所はこの地図に記した。あとは、任せたよ」

「情報ありがとう。あなたもお幸せに」

 三人はシェインの根城へと向かった。エイが言った一言が身に染みたのか、涙を浮かべるマスターであった。

「俺はこの場所で待っていたのかもしれない、シェインという強大な力を持った奴を倒してくれるヒーローを・・・」


    4


 マスターから譲り受けた車は、RV車の形をしており、どんな悪路にも対応出来るようである。乗員数は五人乗りであり、右ハンドル。ディーゼルエンジンの排気量四〇〇〇ccの高トルクであり・・・おっと、説明が過ぎたようだ。

「ねぇ、この大きい箱が走るの?」

 疑問に思ったエイである。なにせ千年前の移動する手段は動物を使うしかなかった。それが車という機械の移動手段を見せられ、さぞ驚きを隠せないようであった。

「そうさ、この車は馬よりも速いんだ。そして、俺の操縦なら、光よりも速く」

「しなくていい」

 すかさずリブが突っ込む。せっかくの移動手段を廃車にされてはたまったものじゃない。ともかく、準備の整った三人は車を発進させ、処刑場の地区を後にする。

「すごーい、こんな大きな箱が動くんだ。それに、そのおおきな箱を操縦するマスって素敵♪」

 キャバ嬢にでももてなされているかのようなエイの言葉に、マスはニヤつきを隠せない。ちなみに、世の男性のほとんどが女性に『すごーい』と喜ばれるために日夜努力しているのだ。

 シェインの城を目指す三人は、地図を頼りに車を走らせている。地図を見ると、今の場所から西に一直線のところに、シェインの城がある。ところで、ここは世界地図のどこに位置しているのだろうか。リブが疑問に思い現在地を地図で調べると。殴られた港から約一〇〇キロメートル西の方に位置していた。ゼレスに向かうには好都合であった。だが、ゼレスまでの道のりはまだまだ長い。エルニア国からここまでの距離の何十倍はあろうかというところに、村人たちはいるというのだ。

 つい数日前まではエルニア国にしか世界がなかったリブとマス。初めて見た外の世界は奇しくも処刑場であったが、今は自分たちの意思で世界を見ている。そして、つい数日前までは千年前の世界で戦っていたエイ。彼女はタイムスリップされたこの世界で、エレクタクノロジーだけを頼りに動き出す。

「じゃあ、千年前は戦国時代で、東西軍のどちらが勝つことによって未来が大きく変わるってこと?」

「そう、世はまさに天秤にかけられていたの」

 千年前の世界についてリブとエイで話していた。

「生まれた時から戦いの場にいたんだね」

「毎日戦っていたわ。来る日も来る日も西軍の部隊がやってくるの。仲間もたくさん死んだわ」

「それじゃ、エイから見た千年後の世界って、平和に見えるよね」

「えぇ、でもみんな自分を持っていないわ。まるで巨大な力に押さえつけられて自分という個性を出せないみたいね。さっきのマスターがいい例だわ」

「・・・・・・・」

「でも、あなた方のように、自分の意思で未来を掴もうとしている人たちもいる。世の中は捨てたものじゃないわ」

「ポジティブ思考だね、エイは。ねぇ、千年前の世界に帰りたい?」

「もちろん帰りたいわ。だけど、ユウト様がいない今となっては、千年前も今の世界も変わりないわ」

 エイの表情にリブは、あることに気が付いたようだ。

「好きだったの?」

「どうかな。ユウト様は三〇歳で結婚もしてたから恋愛対象ではなかったけど」

 結ばれぬ恋か・・・エイにも重たいものを背負って生きているようである。リブは空気が重いと察知して話題を変えるべく、エイと会ってから頭から離れない疑問を打ち明ける。

「千年前の世界は炎術者ってエイ以外にもいたの? 炎術者って、先祖代々続いていたら、その・・・エイがもしかしたら僕の先祖じゃないかなって」

 リブに意外な質問に、エイが驚きのあまり普段でもまあるい目をさらに大きくまあるくした。

「おもしろいわその考え。可能性はあるわね。でもそれは私が千年前の世界に戻らないと実現しないわ」

 リブの推理も可能性としてあるものの、実際のところは誰にも分からなかった。


 車を飛ばすこと二時間が経過しようとしていた。ひたすら山道を登り、辺りの森林が途切れ、崖の上からの見晴らしが絶景なカーブにさしかかったときである。

「車を止めて!!」

 突然エイが叫んだ。マスは何事かと驚き、急ブレーキをかけた。エイがすぐさま車から飛び出し、崖の上から絶景を見渡す。

「エイ、この景色を見たくて車を止めたのか?」

「いえ、違うわ。見覚えがあるのよ、この高台からの景色が」

「「何だって!?」」

 リブとマスがハモってしまった。いや、リブとマスの立場なら誰もが口にすることである。この世界に来てまだ三日しかないエイが、この景色に見覚えがあると言っているのである。

 景色を見渡すと、夕陽を隠しそうな高い山が一つ。その山のふもとには湖がある。山の横にはなだらかな平地が続いており、地平線が見えている。崖の後ろ、先ほど通ってきた道を見ると森の入り口が顔を出していた。これだけの特徴を確認して、エイは確信した。

「この場所、千年前にユウト様が殺され、私がこの世界へ飛ばされた場所だわ」

「「何だって!?」」

 リブとマスがまたもやハモってしまった。いや、リブとマスの立場なら誰もが口にすることである。にしても、人間想定外のこととなると、個性がなくなることがわかった。

「そう、この崖の上でユウト様は殺され、私は未来へ飛ばされたわ。前にはマルコル、後ろは崖、逃げ道はなかったわ」

 喫茶店でのエイの話では、西の領主のマルコルが人間とは思えない力でエイたちを追い詰めたと語っていた。エイが辺りを見渡して、先ほど通って来た道を戻り森の中に入っていった。

「どこ行くんだい?」

「ユウト様や東軍の痕跡がないかあたってみたいの。千年前と世界がほとんど変わらないということは、もしかしたら何か残ってるかもしれないわ」

 マスの問いかけに対して、エイは森の中へと走っていった。マスは車のエンジンを止めて、リブと二人でエイを追いかけた。森は手入れをしていないのか、雑草があちこちに伸びており、草刈りなど一切していなかった。木の根元には毒キノコと思われる物体があちこちに生えていた。折れた枝や落ち葉が散乱していることから見ても、何年も人が入った形跡がないことが読み取れた。

 この場所に手がかりなんてあるはずないと、リブとマスは思っていたが、エイが何かを見つけて佇んでいるのを見つけた。手がかりはあっさりと三人の前に現れた。周りの森林に似つかわしくない高さが一メートルくらいある石板があった。明らかに人の手で作られたものだ。

「・・・ユウト・・・様」

 エイが石板に書かれている掠れていた文字をつぶやいた。状況から、この石板はユウトの位牌であると判断した。恐らく、東の領主のユウトが殺され、実力者のエイもいなくなっては、東軍の負けは濃厚であったのだろう。位牌を立てるのも、敵軍に見つからない場所で立てなければならなかったのだ。そして、東の領主のユウトは、誰の目にも触れられることなく、森の中でひっそりと永遠の眠りについていたのだ。

 そんな千年前の位牌が都合よく残っているのか? との疑問が残るかもしれないが、日本にある『清水寺』は千年以上も前に建てられている。だから、位牌が残されていても不思議ではないだろう。

「エイの言っていたとおりだ。確かに千年前の痕跡があった。それも、ユウト様の位牌があったなんて」

「リブと同感だよ。これは東軍の誇りじゃないのかな」

「本当ね、きっと東軍の取り残された人たちが立ててくれたのだわ」

 エイの目には、うっすらと光るものがあった。

「ユウト様、私は今あの戦いから千年後の世界へ飛ばされてしまいました。しかし、千年後の世界でもエレクタクノロジーは見つかっていません。だから、冥土の土産として私がこの世界でエレクタクノロジーを見つけ出します」

 エイがユウトに千年後の世界に飛ばされたことについて報告すべく、両手を合わせてつぶやいた。後ろでリブとマスも手を合わせていた。


『ブロロロロロロロ!!』

 ふと、遠くからヘリコプターのローター音が聞こえてきた。マスがヘリコプターの音がする方角を見ると、ヘリコプターが飛んでいた。

何の変哲もないヘリコプターであったが、その真下に煙がモクモクと立ち込めているのを見つけた。

 山火事? マスがリブとエイを呼びヘリコプターの方を指さすと、今度は爆弾が爆発したような轟音が聞こえてた。

「あれは、鳥のような乗り物から爆発物を落としているんだわ」

 エイの言う通り、ヘリコプターから爆弾を落としていたのだ。それも、ヘリコプターの経路一体に煙が上がっている。

「おい、あのヘリコプター、こっちに近づいてくるぞ!」

「まずい。マス、エイ、早くここから逃げろ!!」

 三人は急いで森の奥へと走っていった。ヘリコプターの航路からすると、ユウトの位牌があった場所がちょうど真下となっている。三人の近くにヘリコプターが迫ってきた時、ヘリコプターから爆弾が落ちてきた。その爆弾はユウトの位牌の近くで爆発した。

『ドオオオオォォォォォンンンン!!!!!!!!』

 爆発から半径二〇メートルはチリと化した。三人は爆発からは何とか逃れることが出来た。ただ、エイには見てほしくない世界がそこにはあった。

「あぁ・・・あ・・ぁ・・・ユウト様の位牌があぁぁ・・・あぁ・・・」

 ユウトの位牌の真上で爆弾が爆発したことにより、位牌が跡形もなく吹き飛んでしまった。かろうじて位牌の根元は残っていたのが救いであった。

「誰がこんなひどいことを」

「おい、あのヘリコプター、シェインの城へと向かってるぞ」

 マスが指さす方にヘリコプターは走っていた。方向はシェインの城であったが、途中に村があるのを三人は見つけた。

「おい、まさかあの村に爆弾を落とすんじゃないだろうな」

「何だって? そんなことがあっていいのか!」

 リブとマスの予想が的中してほしくはないが、事態は最悪の結果を迎える。シェインの城へと走っていたヘリコプターは、途中の村めがけて爆弾を落としたのである。

『ドオオオオォォォォォンンンン!!!!!!!!』

 崖の上にいた三人の目には、村が爆発するのをただ見るだけしかできなかった。

「何なんだよあのヘリコプター。村を次々と破壊していきやがって。まさか、シェインの城も破壊してはくれないよな」

 マスは推理したが、村や森を破壊している以上、人道的ではない者の犯行であるが、宿敵となるシェインを討伐するのであれば、この周辺の治安は守れるのかもしれない。最も、さらなる軍事国家になることは間違いないが。さて、ここではシェインの城を破壊すればの話である。ヘリコプター爆弾魔についてもう一つの可能性がある。

「マス、もしかしたら、あのヘリコプターがシェインの仲間で、シェインの城に戻っていくとしたら」

 ヘリコプター爆弾魔がシェインの仲間だとすると、もはやこの辺りに安息の地などどこにもない。常にシェインに見張られ、さらに空から爆弾が降ってくる。明日を生きることが出来る保証などどこにもないのだ。二人はハッとして、エイの方を振り向くと、そこには人懐っこい女の子の姿はなかった。怒りの狂気と泣きじゃくる悲しい思いの亡者と化していた。

「許さないわ。もし無差別に殺人をしているのだとしたら、絶対に許せないわ!!」

 リブとマスもエイと同じ思いであった。村や森を無差別に次々と破壊した忌まわしきヘリコプター。仮にシェインの仲間のものであったら、一刻も早く止めなければならない。

「とにかく、その村に行ってみよう。もしかしたら生存者がいるかもしれないよ」

 リブの一言により、三人は襲撃された村へ急ぐ。


    5


「お前。それは本当のことなんだろうな? 嘘をついていたらこの場で殺すぞ。分かってるんだろうな?」

「は、はい。本当ですぅ」

 なにやら高校生のカツアゲのような見出しである。いつからこの『エレクタクノロジー』はVシネやら暴力小説となってしまったのだろうか。確かにそのようにも聞こえるが、実際は高校生のカツアゲの現場ではなく、デスリーンを要する処刑場でのリュウと看守の会話であった。

 事の発端はリブたちが車でシェインの城に向かってすぐ、リュウが真相を確かめるために、リブたち が捕まっていた処刑場に単身乗り込んだことから始まる。リュウの見た目は金髪の民族衣装を身にまとっているため、すぐさま看守一〇数名がリュウを不審者として取り囲んだ。

「お前は何者だ? 何の目的で忍び込んだ」

「これはこれは、大した歓迎だな。シェインってやつがエレクタクノロジーの情報を掴んでるって話は、本当か?」

「何? こいつ機密レベル三を知っているぞ。構わん、こいつをデスリーンのもとへ送れ!」

「やれやれ、今の俺はあのねーちゃんの炎で剣がなくなって機嫌が悪いんだ。しかも機密やらデスなんちゃらとか、訳が分からん事ばかり。憂さ晴らしに久々に肉体で戦うとするか」

 一〇秒後、暴れるリュウは誰にも止められず、看守はあっさりと全員気絶してしまった。

「命知らずが。正門の前での俺の戦いを見ていなかったのか?」

 どうやらリュウを取り囲んだ看守たちは、先ほど正門の前でリブたちと戦ったことは知らされていなかったようだ。上層部は部下を見殺しにしたのだろうか。

リュウは事情を聞くため看守の一人を壁にほおり投げ叩き起こし、壁に看守を押し付けて尋問を始めた。

「俺の質問に答えろ。シェインって奴がエレクタクノロジーについて何か知ってるってのは本当か?」

「シェイン『殿』だ」

 絶体絶命の看守であったが、こんな時でも上司を立てる部下を持ったシェインはさぞ指導者として恵まれているのであろう。はて? どこかで聞いたセリフだ・・・

 しかし、看守の発言にリュウは憤りのあまり、壁にめがけてパンチをした。その衝撃で、看守の後ろにあった壁の一部が砕け、破片が看守に当たる。看守が驚きのあまり手足をバタつかせるも、リュウがナイフを看守に突き付けおとなしくさせた。

「最後だ、シェイン『ドゥオノォ』ってのがエレクタクノロジーを知ってるんだな?」

「あぁ・・・そ、そうだ・・・」

 リュウがナイフの先端を看守の目の先に当てた。

「それは本当のことなんだろうな? 嘘をついていたらこの場で殺すぞ」

「は、はい。本当ですぅ」

「それともう一つ、さっきまでこの建物にいたリブとマスは何をしていたんだ?」

「奴らは、処刑物デスリーンから逃げ出したんだ」

 いまいち事情が呑み込めないリュウは、デスリーンを見る必要があると判断した。

「わかった、お前は今すぐ俺の前から消えろ」

 リュウは看守を放り投げ、看守は焦ってリュウの前から手足をバタつかせ逃げていった。

「な、な、な、なんで今日はこんな目にあわされるんだ。さっきの囚人といいこいつといい・・・チクショ―――!! エレクタクノロジーなんかなくなっちまえ!!!!」

 この看守はそのまま辞表を出しかねないが、この町はシェインに見張られているということは、この村から出ることはできないらしい。となると、リブたちがお邪魔した喫茶店のマスターのところにお世話になるのであろうか。残念ながら、この展開は本編で語られることはない。

「さて、ここの処刑人・・・人じゃないな、処刑物をお目見えするとするか」

 リュウは処刑物となるデスリーンを探しに、処刑場の内部へと入っていき、『猛獣注意』と書かれた張り紙のドアを開けた。三〇〇メートル近くある長い廊下を渡ると、待っていたのは変形したドアであった。リュウがドアを調べると炎で溶かされた形跡があった。

「おそらく、リブが溶かしたのだろうな」

 リュウの推理は当たっていた。ただ、誰も答えを教えてくれはしないが。リュウがドアを蹴破り、お目見えしたのはデスリーンであった。リブたちと対峙したデスリーンであったが、ダメージはほとんど受けておらず、次のターゲットをリュウに向けていた。

「奴ら、この程度の化け物から逃げ出したのか? だらしない。期待した俺がバカだったな」

 リュウはドアの前で佇みながら呆れていた。デスリーンの迫力に臆することないどころか、完全に格下扱いをしていた。

「お前には何の恨みもないが、このまま生かされても殺戮の道具として使われるだけだ。お前もそんな生き方を望んではいないだろう。俺が終わらせてやるよ」

『ドン!!!!!!』

 リュウが放った炎は、デスリーンの脳天を貫通した。急所に炎がさく裂したため辺りは血のしぶきが溢れ、デスリーンは断末魔の叫びをあげたのち絶滅した。リブの炎でもマスの剣でもビクともしなかったデスリーンが、リュウの放った炎一発で絶滅したのである。

先ほどの戦いでは隠していたが、リュウも炎術者であった。

「これで、この建物から不要な処刑は減るな。にしても、シェインがエレクタクノロジーを狙ってるって? あれは人間にしか使えない代物のはずだが・・・」




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