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3/12

第二章 世界の現実と現世に迷い込んだ少女


    1


 リブとマスは、ゼレスへと向かうために、港で船を探していた。二人が住むエルニア国は島国であり、ゼレスに向かうためには、海を越えていかなければならない。しかし、村人全員がいないため、自力でエルニア国からゼレスへと続く大陸へ渡らなければならない。

「なぁ、マスの家に船ってないのか? うちみたいなビンボーと違って、お金持ちだろ?」

「さすがに船はないよ」

 あてもなく港をさまよう二人であった。その港で、リブがエンジンキーを付けたままの船を見つけた。

「この船で海を渡れるんじゃないか」

「よく見つけたな。実は、船は何度か運転したことがあるんだ。運転は俺に任せてよ」

 船といってもモーターボートに毛が生えた程度のものであり、マスの船の運転も実際には遊園地のモーターボートであった。

 二人は、他人の船を『村人を助けるため』と称して、勝手に乗り込み、エンジンをかけた。

『ドゥルルルルルルルル!!!!!!!』

「かかった―――――――!!!!」

 最近の船は便利である。十五歳の少年が簡単にエンジンをかけることが出来るためである。エンジンをかけることが出来たマスを横目に、リブは唖然としていた。

「しかし、本当にこの小さな船で大陸まで行くのか。不安でしょうがないよ」

「何言ってるんだ? 俺の運転にかかれば簡単につくぜ」

 どうやら、マスはハンドルを握ると人が変わるタイプであるようだ。

「この船、一度自分が運転したことがある型だよ。ハンドルとアクセルとブレーキさえしっかりすれば、走れるよ」

 最近の船は便利である。自動車のオートマ車を運転するかのような簡単な運転であるためである。

「準備はいい?」

「大丈夫だ。じゃあ、ここからは俺の運転に任せな!!」

 マスの運転で、船がゆっくりと動き出す。やがて、徐々に二人の故郷のエルニア国が小さくなっていく。一〇分くらいたった頃には、三六〇度が海に囲まれていた。

「マス、怖くない?」

「何言ってんだ? 俺の運転に文句あるのか?」

「違うよ。昨日から全てが変わったんだ。家族も村人もいなくなって、その村人たちを自分たちで救うんだよ。そして、出たことのないエルニア国から旅立って、見たことのない大陸に向かう。今だって、見渡す限り海と空だけの景色なんて初めて見るよ。これから起こること全てが非日常へと変わるんだよ」

「そうだな・・・俺だって怖いよ。だけど、ワクワクもしている。冒険心ってやつかな?」

「船から降りても、その言葉でいられるかな?」

マスの運転する船は、それから数時間かけて大陸が見るところまできた。

「あれが大陸か、この先に何が待っているんだろう・・・」

船の先端から、リブが大陸を眺めていた。ふと下を見ると、海面から影が見えた。その影は段々大きく、濃くなっていくのを目にした。

「何だこの影は!!?」

 リブが叫んだ束の間、海面から全長三メートル近くあるモンスターが現れた。熊のような体格にワニのような大きな口に鋭い牙をもち、噛まれたら一溜りもないだろう。モンスターは、船に乗り込み、リブとマスを睨んでいる。今にも襲うような体勢をとっていた。

「な、なんだあれは?」

「も、モンスター・・・明らかに俺とリブを食べようとしてるよな」

 リブが炎を作り出そうとするも、突然のことでうまく作り出せない。マスのレジェンドソードも運転席から離れた場所においてあり、取りに行くまでに襲われてしまう。もはや絶体絶命であった。

 モンスターが大きな口を開けて二人に向かってきた時、一筋の光が見えたと同時に、モンスターの身体が真っ二つになった。モンスターは、そのまま海へと落ちていった。

「い、今のは何だ!? 僕が炎を出す前にモンスターが海に・・・」

『俺が助けてやった』

 謎の声に、二人が振り向くと、一人の青年が船の上に立っていた。身長一七五センチメートル程度の細身ながら筋肉質であり金髪の長髪。服装は民族衣装のようなものを身にまとい、胸のあたりには、ピラミットを彷彿させるかのような紋章が描かれている。見た目からすると一七歳前後といったところだろうか。

「君は一体・・・」

「俺の名前はリュウ」

 リブの問いかけに、『リュウ』という青年は淡々と答える。

「どうして僕たちを助けてくれたの?」

「別に、ただの通りすがりなだけさ。たまたまお前らが襲われそうだったから助けた、それだけだ。それより、これから大陸に着く。大陸にはさっきのモンスターがウヨウヨしてるから、せいぜい気を付けるんだな」

 リュウは、二人に助言したのち、船から飛び降り姿を消した。リブ周りを見渡すが、リュウの行方は分からなかった。

「消えちゃった。リュウは一体何の目的で現れたのか」

「まぁ、助けてくれたからいいんじゃない? それより、もうすぐで大陸の港に着くぞ。俺の運転でちゃんとエルニア国から大陸までたどり着けたじゃないか」

 他人の船で大陸まで来れたという実感があまりわかないリブだが、さっきのモンスターとリュウの存在が頭から離れないのが原因かもしれない。

 港では、誘導員が停泊の指示を出しており、マスの運転で港に停泊した。やがて、係員が船に乗り込み、入国の手続きを始めた。

「入国審査の関係で、船の中を調べさせていただきます」

「はい、どうぞこち・・・」

『ゴツッ!!!!』

 鈍い音とともにリブとマスは倒れた。入国審査の係員が持っていた警棒で頭を叩かれ、意識を失ったのだ。

「フフフ、悪く思うなよ。これも『あの方』のご命令なのでね」

 リブとマスは、意識を失ったまま港に停めてあった車に乗せられ、連れ去られていった。


    2


「いてて、ここはどこだ?」

 襲われてから数時間が経過したころであった。リブが目を覚ますと、目の前には鉄格子があった。その周りには壁でおおわれている。一目でわかった。ここは牢屋であると。一瞬エルニア国の強制収容所に戻されたとヒヤリとしたが、この牢屋はエルニア国と違い太陽からの光が射しており、さらに周りの壁の色から見て、違う場所であると判断した。どうやら、牢屋の内装は国によって異なることをトリビアとして得た。リブが隣で倒れているマスに気が付き、起こそうとする。

「マス、おい! 起きろ!!」

 ゆすってもマスは目を覚まさない。身体を確認すると外傷は見当たらない。これなら多少強くゆすっても大丈夫であろう。

「起きろ―――!!!!」

 強くゆすっても起きない。マスに気合を入れると称して、とっておきの闘魂注入(単なるビンタ)を仕掛けるため、右手を振りかぶった。

「うっ・・・」

 マスが目を覚ましてしまった。闘魂注入のために大きく振りかぶった右手はスピードに乗って、止めることなど不可能であった。方向転換もできなかったため、マスの頬をめがけて一直線。ぶつかる! とおもわれた右手は、マスの左頬の横を通り床にぶつかった。

 間一髪のところでマスに闘魂が注入されるところであった。ただし、男二人が『壁ドン』ならぬ『床ドン』の格好になってしまった。

「なにやってんだ?」

「い、いやぁ、マスが目を覚まさないから、心配だなぁと」

「その割には、さっきビンタしようとしてなかったか?」

「き・の・せ・い・だ!」

「それより、ここはどこだ? もしかして、また閉じ込められたのか」

「恐らくな。だが、エルニア国の強制収容所でないことは確かだ」

 二人で、状況を整理する。大陸に着いてから、後ろから襲われ気を失ったこと。目を覚ましたら、牢屋に入れられていたこと。ここ数日で二度目の投獄。そして、ここから脱出すること。

「エルニア国の時は、リブの服に見取り図があったからうまくいったけど、今回はそんなものがないから、結構厳しいぞ」

「いや、僕には炎、マスにはレジェンドソードがある。この組み合わせなら簡単にここから抜け出せるよ」

 見回りの看守がいないことを確認した後、手始めにリブはエルニア国の強制収容所と同じく、鉄格子にむけて炎を当てた。数秒後に鉄格子が溶け、牢屋からの脱出は容易であった。

 鉄格子から出た二人であったが、エルニア国の強制収容所の間取りとは大きく異なり、まるで迷路であるかのように扉がいくつもあった。その扉は、脱出につながる扉か、他の人たちも捕まっている扉か。

 看守があちこちにいるのだろう。『カツッ』という靴音があちこちから聞こえてくる。見渡すと一番近い扉で一〇メートル先にあるのが見えた。

「まずは一番手前の部屋に入ろう」

 マスの判断にリブは任せ、自分たちの牢屋からその一〇メートル先の扉に入った。看守には見つかっていないようだ。

扉の先には、細長い廊下があった。周りが暗いため、先端に何があるかは分からなかった。

「怪しいな、ここは引き返した方が身のためだな」

 リブの言葉にマスが来た扉のドアノブに触れたとき―

「さっきの不法入国者がいないぞ―――!!!!」

「「バレたか!!!」」

 リブとマスが向かい合って叫んだ。マスは扉にしっかり鍵をかけて、二人で奥のほそみちへと走った。どのみち看守が気づくことは遅かれ早かれ必ずあると、腹をくくっていた二人であったが、もう少し遅く気が付いてくれと思うばかりであった。

 細長い道を走ること一〇〇メートル、二〇〇メートルと、どこまでも続く道に不気味さを覚え始めた。後ろから追手は来ないようだ。

「なぁ、この道いくら何でも長くないか」

「リブもそう思うか。実は自分もそう思っていたところだよ。薄々気味が悪くなってきた」

 先ほどから走っている道だったが、三〇〇メートルあたりを走ってようやくドアが見えた。

「やけに長い道だったな。だけど、やっと次の扉についた」

「シッ! 後ろから何かが聞こえる・・・」

 リブが、何かを感じたかのように耳を澄ます。マスもリブの言葉に耳を澄ますと・・・

『カツッカツッカツッ』

 どこかで聞いたことのある音だ。まるで足音のような・・・ん!!? 足音!!?

「「さっきの看守の足音だ!!!」」

 ここまで分岐はない一直線の道。このままでは袋のネズミとなってしまう。

「急ごう、早く次の扉に」

 マスは扉を勢いよく開け、次の一歩を地面に・・・踏めなかった。勇みよく踏み出した一歩は空を切っていた。何度も片足で地面の感触を確かめたが、全て空振りに終わった。なんと地面などなく、しいて言えば、ビルの非常扉に足場がない状態で、二人は勢いよく飛び込んでしまった。

「「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・」」

 瞬く間に二人は扉から落ちてしまった。

 少しして、看守数人が二人が落ちた現場にたどり着いた。

「ククク、運よく脱出できたと思ったら、運悪く処刑台の扉を選ぶなんてな」

「この先は、人間など一口で食べられる化け物のいる部屋に通じているのさ。この道は処刑人が通る道で、どこまでも続く長い道は、罪人の恐怖心を最大限に煽ることと、化け物が外に出ないように鉄壁の状態にしているのさ」

「俺だったら、自分が死ぬ前にこんな長い道を歩かされたら、それだけで発狂しちまうな。さぁ、やつら二人は死んだ、と帰って報告書作りだ」

 閉められた扉には『猛獣注意』の張り紙が書かれていた。

 そんな処刑台への道へと続くと知っていたら、絶対にこの扉を選択することはなかったであろう。しかし、二人はこの先人を丸呑みする化け物へと続くなど知る由もない。


『ドスン!!』


 周りはコンクリートの壁で覆われ、体育館一つ分くらいの広さである部屋に、一〇メートルくらいの高さから二人は落ちた。なのに無傷であった。

「助かったぁ、何か下にクッションみたいなやわらかいものがあって」

 リブが無傷となった恩恵をたたえるべく、下にあるやわらかいものを見ると、大きな目がギロリと、こちらを見ていた。

「わあああぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 驚いたのもつかの間、その化け物は大きな口を開けリブを丸呑みしようとしていた。

「させるか!!」

 マスがレジェンドソードを振り下すと、化け物の舌を切り裂いた。

『ギィィシャアァ』

 化け物が暴れ、リブがその衝撃で落下する。体勢を整え改めて化け物を確認すると、全長が三メートルの四本足で歩行であり、灰色の身体で大きな口を持ち、牙が数えただけでも一〇本近くある。マスが先ほど切り落とした舌の長さが一メートルを超えていることを見ても、その巨大さが実感できた。トリケラトップスを現代の科学で凶暴化させたかのような風貌の前に、リブとマスがいた。

「フハハハ、お前らは我が科学が作り出した魔獣『デスリーン』の餌食となるんじゃ。このデスリーンから逃れられたものは誰一人としておらんわい。すなわち、お前らに待っているのは『死』のみじゃ! フハハハハハ」

 上についてるスピーカーから、それはそれはゲスな声が響いてきた。居酒屋でさえないサラリーマンが、会社の愚痴を延々と語ってるような濁声と口調である。

「黙れ!!!」

 リブの炎が、スピーカーを直撃して燃えて落ちた。よくやった。

「しかし、明らかに俺たちを食べようとしているよな、このデスリーンとやらは」

「これだけ大きな化け物、僕の炎で焼き尽くせるのか」

 倒し方を模索している中、デスリーンが突進してきた。マスは右側へ、リブが左側へ避ける。デスリーンは、そのまま壁に向かって突進してぶつかった。

 辺りに大きな衝撃音がこだました。コンクリートで固められた外壁がパラパラと、崩れている。この暴れ技による壁の破壊で表に出さないよう、三〇〇メートル近くの壁で覆っているのも納得できる。

 周りの壁は、このデスリーンが暴れまわっているためであろう、壁が穴だらけである。

「あんな突進まともに受けたら即死だろ」

「いや、体は固くても中身は大したことはない。現に奴は、マスの剣でダメージを受けている。勝機はあるよ」

 壁に突進した後、振り返ったデスリーン。再び二人を睨み突進する構えを見せた。

「今度突進して来たら、僕の炎を食らわせてやる」

 デスリーンが右前足を【ジリッ、ジリッ】とばたつかせ、突進の準備をしている。リブが手の平に炎を集中させ、いつでも発射できる状態である。西部劇でガンマンの速打ちのような緊迫感に、デスリーンも多少は理解しているのだろうか。

 デスリーンがリブにめがけて突進した。リブも同時に自身の炎を化け物に向けた。デスリーンとリブの炎がぶつかり、辺りは激しい閃光に包まれ、視界が遮られていた。

「やったか?」

 思いも虚しく、デスリーンが閃光の中からリブへと突進してきた。

「効いてなかったか!!」

 リブがすぐさま横に飛び、デスリーンの突進を交わした。

『ドスンッッッッッッ!!!!!』

 コンクリートに覆われた壁に、また一つ大きなくぼみができた。パラパラと、コンクリート片が霧のように降ってくる。

「この化け物、疲れを知らないのか? こんなのと付き合ってたら、こっちの身が持たないぜ」

「ならば、次は俺の番だ」

マスが勢いよく飛び、レジェンドソードをデスリーンに振り下ろす。

「ジャンプ斬りをくらえ―――!!!」

『ガツッッッッ!!!!!』

 マスが勢いよくデスリーンにジャンプ斬りをしたが、化け物の固い皮膚の前に斬りつけることが出来ず、恐らくデスリーンの脂肪のところで剣が止まってる状態となった。当の本体はケロッとしており、マスのもとへ【ジリッ、ジリッ】と前足をバタつかせた後、突進してきた。

「マス、危ない!!」

リブが咄嗟にデスリーンに炎の球を当てた。デスリーンの身体の横に直撃した結果、マスへの突進のコースがずれてマスへの進路からわずかに外れた。デスリーンはまたしてもコンクリートの壁に突撃した。

「こんな化け物とやりあってたら、いつか潰されるのがオチだ。何か方法はないのか?」

「おいマス、あれを見てみろよ」

リブが指さしたところに、高さ三メートルほどにあるドアがあった。

「あのドア、俺たちが落ちたドア同じ形だよな。あのドアに何とか掴まれば、この部屋から脱出できるぞ」

「だけど、あの高さにどうやって上ることができる。ここにははしごのような登るようなものなんかないし」

「あるじゃない、そのはしごの代わりとなるものが」

「他には自分とリブと、あの化け物しか」

「あの化け物を使えばいいじゃない」

「え―――――!!!!?」

 またしてもリブの奇想天外な案に、驚くばかりのマスであった。

「あんな化け物にどうやってドアを開けてくださいって、頼むんだよ」

「そんなことができたら、一番早いだろうな。だが、僕の考えはちゃんと理にかなったものさ」

 リブがいうには名案というのだが、いまはただ従うばかりのマスであった。リブがマスを連れて、三メートル上のドアの真下まで来た。

「いいかい、やつの行動を見てたけど、ほとんど、標的に向かっての突進だけ。それも一直線で方向転換がきかない。つまり、このドアの真下に立っていれば、あの化け物はここに・・・」

『ズドドドドドドッッッ!!!』

「ほぉら、あの化け物が俺たちをめがけて突進してきた。また、ギリギリで突進からかわすぞ」

 デスリーンは、他に手がないのか、ワンパターンの攻撃で、リブとマスをめがけて突進するも、難なくかわされた。

「ここでこの化け物は、自分の突進した衝撃で一時的に動きが止まる。マス、この化け物の上に乗るぞ」

「何だって?」

 化け物の上によじ登ると、初心者向けのロッククライミングかのように、掴みやすい皮膚のため、二人は難なくデスリーンの上、しいて言えば四本足の動物のため、背中の上という表現がしっくりくるか。

「さぁ、扉は目の前だ」

 デスリーンが突進したコースは、ちょうど扉の真下であり、リブが扉のドアノブを回した。運よくカギがかかっておらず、二人はすぐさま扉の向こうに飛び込んだ。

 リブが勢いよくドアを閉め、念のためにカギをかけた。さらに保険を掛けるべく、ドアノブめがけて炎をあぶり、ドアを変形させて二度と開かなくした。

「ここまですれば、いくら何でもあの化け物がここに来ることはないだろう」

「ドア変形させたら、カギかける意味あったのか?」

 余計な言葉について、一切の排除をリブはした。


    3


 二人は、先ほど通った廊下とは違う全長約三〇〇メートル近くある廊下を再び渡り、改めて外に脱出するルートを探した。

 長い廊下の先には、銃を持った看守が七、八名待ち構えていた。どうやら二人の遺体の確認でデスリーンの部屋に行く途中であったようだ。二人が生きていると驚きながらも、すぐに職務に戻る看守にこっちが驚く。どこかの企業も見習った方がよさそうだ。

 二人は引き返すにも、後ろにはデスリーンが待ち構えている。しかも、デスリーンと再び対峙するには、先ほどリブが変形させたドアをこじ開けなくてはならない。

「無駄な抵抗はやめて、おとなしく降参するんだな」

「無駄な抵抗だって? じゃあ、無駄じゃない抵抗というものを今から見せてやるよ!!」

 リブが中途半端な決め台詞を決めた後、看守に向かって炎の球をぶち当てた。

「ぐわぁぁ」

先頭にいた看守数名がひるんだ隙に、レジェンドソードを持つマスが突進する。

「俺も忘れちゃ困るぜ」

 マスも中途半端な決め台詞を口にしたと同時に残りの看守の銃を切り刻んだ。

「ちぃぃ、まだだ、このグレネードで」

『カチャッ』

 マスがレジェンドソードの先端を抵抗しようとした看守の右頬にあてた。

「まだ反抗するつもりか? そうだな、俺たちを捕まえた首謀者は誰だ? それに捕まえた目的は何だ?」

「そんなに質問されちゃ、俺の頭がまわらんなぁ」

『カチャッ』

 マスがレジェンドソードを九〇度ひねり、あと数ミリで看守の頬に到達しそうであった。

「俺は気が短いんでな。早く答えてもらおうか」

「わ、わか、わかった、いういういういう、いいいいいいいいいます。俺たちの親分は『シェイン』殿だ。捕まえた理由はよく聞いちゃいねぇが、たしか『エレクなんちゃら』とかいうものを握る奴らだから捕まえろとか言ってたな」

「何だって!!!!!?」

 マスは驚きのあまり、レジェンドソードを突き付けていた壁にめがけて突きをした。その衝撃で、看守の後ろにあった壁の一部が砕け、破片が看守に当たる。看守が驚きのあまり手足をバタつかせるも、マスが再びレジェンドソードを看守に突き付けおとなしくさせた。

「その話は本当なんだろうな。シェインとやらがエレクタクノロジーを知ってるんだな?」

「シェイン『殿』だ」

 絶体絶命の看守であったが、こんな時でも上司を立てる部下を持ったシェインはさぞ指導者として恵まれているのであろう。しかし、看守の発言にマスは憤りのあまり、レジェンドソードを突き付けていた壁にめがけて突きをした。その衝撃で、看守の後ろにあった壁の一部が砕け、破片が看守に当たる。看守が驚きのあまり手足をバタつかせるも、マスが三度レジェンドソードを看守に突き付けおとなしくさせた。

「最後だ、シェイン『ドゥオノォ』ってのがエレクタクノロジーを知ってるんだな?」

「あぁ・・・そ、そうだ・・・」

「わかった、お前は今すぐ俺の前から消えろ」

 看守は焦ってマスの前から手足をバタつかせ逃げていった。

「いやぁ、リブ、とっておきの情報が手に入ったよ。まさか俺たちを捕まえた奴がエレクタクノロジーを知ってたなんてな」

「怖かったよ、マス・・・」

 さっきの尋問は一体どっちが悪者か、マスの味方であるはずのリブですら分からなかった。マスはハンドルだけでなく、剣を握っても人が変わることがわかった。このタイプの人間は決して怒らせてはいけないと、リブはしみじみ思った。

「さぁ、看守は全ていなくなった。ここから出よう」

 マスは先ほどの看守の尋問で自信が付いたのか、この建物の中では敵なしの状態と化していた。それなら今すぐさっきまで逃げていたデスリーンを退治していただきたい。二人を恐れてか、デスリーンと対峙して生き残った者は彼らだけだったのだろう(退却を除く)。看守だけで彼らを捕まえることは不可能であった。



    4


 二人は難なく捕えられていた牢屋を脱出することが出来た。ここは一体どこであろうかと、辺りを見渡していた。目の前には小さな集落があり、後ろには先ほど捕えられていた建物があった。デスリーンを入れておくくらいの建物のため、一八〇度が壁一面に広がる世界であった。きっと土地広さを示すことがテレビであるとすれば、東京ドーム三〇個分とかいうのであろう。

 マスがその東京ドーム三〇個分の建物の上を何気に見ていた。さすが、広大な土地だけあって、建物の高さも十分ある。一〇階建てのビルと同じくらいの高さであろうか。屋根の頂上を見ていると、小さなアンテナみたいのが目に入った。

 よく目立つアンテナであった。普通のアンテナは灰色や無地系の色である。しかし、マスが見つけたのは先端が黄色か金色系の明るい色であった。『異色の先端』のアンテナの根元をたどると、ピラミットのような模様が目に入った。

はて、どこかで見たことがあるような・・・

 マスが見つけた異色のアンテナは、一瞬ぐらりと揺れた後、空から降ってきた。それもリブたちの目の前にだ。

『ドスッ!!』

 辺りが一瞬砂ぼこりで視界が遮られたが、異色のアンテナの色彩のためよく目立つのであろう、嫌でもそのアンテナが視界に入ってきた。

「お前ら、こんなとこで何油売ってんだ?」

 アンテナがしゃべったぁぁぁぁ!!! いや、これはアンテナではない、二人はその存在を大陸に上陸する前に船の上で見た姿であった。その名前をはっきりと憶えていたリブがつぶやいた。

「リュウ・・・」

「名前を憶えていて光栄と言いたいところだが、何だお前らのだらしなさは? 気を付けろと忠告してすぐに捕まるって、バカじゃないのか」

「お前は、俺たちが捕まるってことを知ってたのか?」

「あの入国審査と称してる奴ならいることは知ってたさ。だけど、あんな奴らごときに簡単に捕まることに幻滅しただけだ」

「大変だったんだぞ。デスリーンとかいう化け物に食べられそうになったりしたんだ」

「それはお前らの自業自得だ。捕虜になったのなら一切の権限はないことは当然のことだ」

 熱くなっているマスに代わって、リブが冷静に考える。

「リュウ、君は僕たちの味方なのか、それとも敵なのか?」

「さぁな。だが、今のお前らでは味方にはしたくないな、足手まといになる」

ムッとしているマスを横目にリブが淡々とリュウに尋ねる。

「じゃあ、リュウの目的って何?」

「俺は、エレクタクノロジーを追っている」

「何だって!?」

 ごく一部の人しか分からないはずの『エレクタクノロジー』だが、二人の反応から恐らく知っていると判断したリュウは、少しばかり驚いた。

「ほう、まさかお前らがエレクタクノロジーを知っていたとはな」

「別に知りたくはなかったさ。けど、僕たちもエレクタクノロジーを探しているんだ。リュウ、目的が同じなら一緒にエレクタクノロジーを探さないか?」

 リブの奇想天外な発想に残りの二人が唖然とした。

「おいリブ、この男は俺たちを見殺しにすらしない冷徹な奴だぞ。そんな奴と一緒に旅なんかできるわけないだろ」

「何やら味方に反対されているようだが、その意見は俺も同感だ。お前らと旅したら、俺まで獄中にぶちこまれちまう」

 返す言葉見当たらない。確かに、この数日で二回も捕えられた身である。もしかすると、またどこかの村で捕えられるのかもしれない。

「あるいは・・・」

 リュウがふと漏らした言葉と同時に、突如剣を出しマスに向かっていた。その初速は早く固定カメラを置いていたら、一瞬にしてリュウはカメラの前から姿を消したように見えるだろう。

「なっ・・・」

 マスは何とか見えていたリュウの突進から避けるため横に飛び、着地と同時にレジェンドソード構えた。

「いきなり何するんだ!!」

「ほぉ、レジェンドソードか・・・だが、隙が多い。お前がその伝説の剣を扱えるのには、少々時間がかかるようだな」

「剣のことは何だっていい、なぜ俺たちを襲うんだ?」

「しいて言うなら、エレクタクノロジーを探す目的の邪魔になるってところか。いずれにせよ、目的が同じならお前らとはこの先も会うことになるだろう。エレクタクノロジーは、他にも屈強な強者どもが血眼になって探している。奴らと対峙したとき、お前らのせいで命を落とすのはごめんだ。だから、この場で始末してやるよ」

「な、何だって!? そんな自分勝手なことで殺されてたまるか!!」

 今度はマスがリュウに向けて剣を振りかざした。リュウにはマスの攻撃が全て見通されているように見えた。

 マスの一振りを柳のように交わしたリュウ、マスはレジェンドソードを振り下ろした後の攻撃は一切考えていなかったようで、体が無防備な状態となった。当然リュウはその隙を逃すことなく、マスの腹部にリュウの蹴りがさく裂した。

「ぐぅはっ!!」

 リュウに蹴り飛ばされたマスは、先ほど自分たちが捕まっていた建物の壁にぶち当たった。そう、彼らはまだリブたちが捕まった牢屋がある建物の前で戦っている。当然、牢屋の所員はこの戦いに気が付いている。だが、先ほどのデスリーンから生き残った奇跡の二人が劣勢であることを見ると、手出ししない方が賢明と判断して見て見ぬふりをしている。

 壁に激突したマスは、その衝撃で動けなかった。だが、エルニア国の時とは違い、今回は意識がはっきりとしている。

「レジェンドソードを使ってこのざまか。おい、そこのお前」

 リュウがリブを指さして勝気な口調で話す。

「お前は炎術者だろう? なら、その炎を俺に当ててみな」

「言われなくてもお前に炎を撃ってやるさ。よくもマスをこんな目に」

 手のひらに赤く熱い炎の球が現れ、リュウに向かってリブが投げた。その大きさは、エルニア国で強制収容所を焼いた時より二倍程度大きな炎であった。恐らくマスを傷つけた怒りで炎が大きくなったのだろう。

 リュウは余裕があるのか、リブが撃った炎の前に逃げるそぶりを見せない。やがて、リブの撃った炎がリュウに当たる直前に、リュウは自分の剣で炎を一振り。その一振りであっけなくリブの炎はかき消されてしまった。

「何? 僕の炎が、消されただって」

「弱い。中々お目にかかれない炎術者に会えたのはよかったが、この程度の炎しか出せないのか? これじゃ、近所のマジックショークラスの炎じゃないか」

 図星のリブであった。ただし、本人は過去にマジックショーで失敗した炎の何倍も大きな炎だ! と言いたかったが、笑われるのがオチなので、反論はしなかった。

「さぁ、年貢の納め時だ。わかっただろう、お前たちだけではエレクタクノロジーを手に入れられないということが。このままエルニア国におとなしく戻るというのなら、この場を見逃してもいいがな」

「その答えに従うと思うか。僕とマスはエルニア国の村人を救うためにエレクタクノロジーを探しているんだ。お前のような身勝手な理由なんかじゃないよ」

「ほぅ、俺にたてつくか・・・ならば死ね!!!!」

 リュウは渾身の一撃をリブに向けた時だった。どこからともなく炎がリュウの剣に当たった。その炎はリブの炎より半分程度小さかったが、リュウの剣を瞬く間に溶かしてしまった。攻撃を受けたリュウは何のことか、事態を飲み込むまで数秒を要した。リュウの持っていた剣が取っ手の先から溶けてなくなっていた。

「誰だ!?」

 炎が出された方を見ると、ひとりの少女が立っていた。身長は一六八センチメートル程度と女性としては大きく、すらりとしたモデル体型である。つぶらな瞳に薄い唇、髪は茶色く肩にかかる程度の長さでありその見た目から一八歳辺りであろうか。ファッションセンスはかなりのもので、雑誌の表紙からそのまま出てきたような、この時代の最先端のファッションを身にまとっている。

 さらに八等身はあろうかという抜群なプロポーションを持ち、スリーサイズは上から・・・おっと、このままでは単なるエロ親父が説明しているように思われる。

 と、ともかく、炎が出された方向を見ると、その少女しか立っていない。まさか、この少女がリブの何倍も強力な炎を持ち、さらにリュウの剣も溶かしたというのか。その事実に納得のいかないリュウであった。

「お前の炎で、俺の剣を溶かしたというのか?」

「えぇ、そうよ」

「炎術者が目の前に二人も現れるとは、滅多にない機会だ。だが、なぜそのひ弱な炎術者を助けた?」

「あなたたちが、先ほどからエレクタクノロジーについて話していたのを聞いていたのよ。私もエレクタクノロジーを探しているの」

「「「なんだって!!!」」」

 リブ、マス、リュウの三人がややハモったかのように叫んだ。

「ですが、私は炎術者。同志の味方であることに決まっているわ。さらに、あなたのような外道者にエレクタクノロジーを渡すわけにはいかないわ」

「ほぉ、そうか・・・じゃ、エレクタクノロジーを探す奴として始末していいということか。だが、お前を殺すには時間がかかるようだ。今の俺には時間がない、この場は退却とするか」

「おい、リュウ待ってくれ。僕の話を聞いてくれ。リュウは、本当に僕たちを殺すつもりなのか?」

「・・・話にならんな」

 リュウは、最初にマスが運転する船で会った時と同じように、一瞬で視界から姿を消した。




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