プロローグ
プロローグ
幼いころ、誰もが一度冒険をしたいと思うものである。それは全世界を我が物としまだ見ぬ秘境を旅する壮大な物語もあり、近場の裏山での探検もまたひとつ。けれど、非日常を体験することでは、どちらも同じものと捉えてよいだろう。
では、何のために冒険に出るのか。それは『宝探しだ』と、答える人はまばらだろうか。だが、間違いなく冒険の目的ランキング堂々の三位以内には入るであろう。あとの上位は、世界の平和を守るためであろうか。
では、そのお宝の価値は一体どれほどのものであろう。お金? 何でも願いが叶う魔法のランプ? 特別な魔法? 名声?・・・人それぞれでお宝を探す目的が異なるかも知れないが、ロールプレイイングゲームの主人公で例えると、探しているお宝の実態は知らないまま冒険に出ていることの方が多いのである。
冒険に出る。それは時に、自らの願望でなく運命で決まることもある。誰も運命からは逃れることはできず、否応がなしに冒険に出る選択を余儀なくされる。
この全世界を我が物としまだ見ぬ秘境を旅する人でしか訪れることはないであろう、辺境の地『エルニア国』で運命に捕らわれし者がいる。それも、二人同時にだ。
運命に睨まれたからには、どれだけ酷な出来事が待ち構えていようとも、立ち向かわなければいけない。
運命に翻弄される物語の始まりは、今から千年も前にさかのぼる・・・
当時の世界は東軍と西軍の二大勢力の世界大戦となっていた。政治・宗教・倫理観・人種等、戦争する理由としては様々なものが入り混じっていた。事態は泥沼化しており、相手のこと全て反対や拒絶という、離婚直前の夫婦そのものとなっていた。
両軍が争う火種の一つに、幻のお宝である【エレクタクノロジー】を手に入れることもあった。最も、両軍ともにどんなお宝でどれだけの力があるかは分からなかった。ただし、このお宝一つでこの戦争の勝敗が左右されるほどの強力な力があることだけはハッキリしていた。
すでに世界大戦の勃発から半世紀余りの時が経っていた。お互いの戦力は非常にバランスしており、どちらも簡単には降参は示さない。そのせいか、人々の暮らしは食糧危機や、『名誉の死』と謳われた戦死者は世界の約半分となり、やがてこの星から人類が滅亡することすら感じられた。
両軍の領主、つまり将軍に位置する者は、常に相手に隙を見せないことを頭に入れており、奇襲にはまず引っかからない。領主の死=自軍の敗北となり、方程式はやがて全国民の死と変換される。
しかし、たった一瞬のとある出来事で、長く続いた世界大戦はあっけないほどの幕切れとなってしまった。
「ククク、これで東軍の負けは決定だな、ユウトよ」
「くっ、おまえは人間なのか? 少なくとも、俺の目にはもはや人間を止めて悪魔に魂を売り渡した奴にしか見えない」
「そうさ、俺は永遠の力と命を手に入れたのさ。東軍の領主がこのざまとはな」
「どうやら、西軍の領主が悪魔になったことは、この星は化け物だらけになるってことだな」
事態は深刻であった。東軍の領主であるユウトが見たものは、西軍の領主が人間とは思えないパワーとスピードでユウトの前に現れたのである。
夕陽を隠しそうな高い山が一つ。その山のふもとには湖がある。山の横にはなだらかな平地が続いており、地平線が見えている。崖の上で西軍の領主はユウトの前に剣を突き出し辞世の句を述べさせていた。
「最後に聞きたい、お前は今日突然人間とは思えないほどの強さで俺の目の前に現れた。一体何をしたんだ?」
「あの世で聞くんだな。と言いたいが、俺はもうあの世には行けないから一つ教えてやろう。俺は神のお告げを受けたのさ」
「やっぱり悪魔に魂を売り渡したのだな? 人間止めてまで何がしたいんだか。それとも、この俺を恐れて人間を止めたのか」
ユウトがにやりとしたその時、西軍の領主がユウトの左胸を一突き! ユウトはそのまま絶滅した。
「さて、これで東軍との争いも終わり、世界は俺のものとなるのだ。ふふっ、ハハハッ・・・」