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地球という仮想現実をプレイしている男、ネットで煽られたから世界を滅ぼす  作者: 武藤一光
 第二章 終わりゆく世界と、現れし勇者?
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暇を持て余したシミュレーションマスターの遊び

 ハルド空間内部は、陰気で薄暗い。

 イレーヌはこの暗黒空間の中を泳ぐように飛び回っては、時折大きなあくびを見せていた。


「ただいまイレーヌ。帰ってきたでぇ~」


 目深帽とサングラスを着用したハルドが、両手一杯に持ったレジ袋を床に下ろした。

 彼のいる場所はほんの数秒前までは、なにもない空間であった。

 つまりハルドの出現は空間転移コマンドの使用によるものである。


「急に大声を出さないでくださいよ。せっかくウトウトとお昼寝できそうだったのに。ビックリするじゃあないですか」

「ほう、そんなら無言でぬっと背後に立たれる方がええんか」

「いえ。それはそれで嫌ですが」


 ハルドはなにやら袋の中身を漁っていた。

 その瞳にはあの配信時と同じような、生き生きとした光が宿っていた。


「なんだか嬉しそうですね。良い物でも見つけましたか」

「嬉しそうなのは単に久々に吸った外の空気が美味かったからやろな。ここんとこずっとこの空間に引き籠りっぱなしやったやんか。わざわざ買い物に出んでもここにおれば物に不自由はせえへんけども、たまには外も出んと心身が腐ってしまうわ」


 イレーヌとハルドの声には温度差があった。

 イレーヌはそんなハルドを至極つまらなさそうな目で見ながら言った。


「いい性格してますね。この空間から出られない私への当てつけですか?」

「ああ、そういや電子生命体のお前は外出出来ないんやったな。別に他意はないんや。気を悪くしたならすまんかった」

「別にいいですけど。それにしても、その仰々しい変装要ります? 多少人気配信者になった程度で自意識過剰では?」

「そうかも知れへんけど……。まあそう拗ねるなって。良い物買うてきたねん」


 ハルドはやや勿体つけながら小さな箱を見せた。

 イレーヌは小首を傾げ、怪訝そうに箱を見つめる。


「なんですか、それ?」

「巷で大人気のカードゲームや。おもろいで、多分」

「なんのためにそんなものを?」

「そら遊ぶためやろ」

「へぇー……。そんなもの、誰とやるんです?」

「そんなん俺とお前しかおらんやろ」


 ハルドが自らと彼女を順に指差した瞬間、プイッとイレーヌがそっぽを向いた。


「待って、頼むから相手してや! ソシャゲの話する仲間もいなくなってつまらんのや! 世界を滅亡させる破壊者は孤独なんや! 次の配信まで暇ですることないんや!」

「だったら最初からそういう態度で言って下さいよ。まったく、面倒くさい生みの親ですね」


 面倒そうな顔をしながらも、イレーヌはルールブックを手に取り、目を通す。


「おお、やってくれる気になったか?」

「ハルドが私を生み出した本当の理由って、詰まるところ寂しさを紛らわすためですよね」

「なにを言う……いや、あながち間違っとらんか」

「否定しないんですね」

「俺が思い描く理想の人類滅亡という目的を達するためには、それなりに時間が掛かるからな。はっきりいって長丁場や。その間ずっと一人というのもなかなかに堪える。つまり、モチベ維持のためにも遊び相手は必要やねん」 


 気怠そうな目で、イレーヌは活字を追う。

 しかしながらその尻尾は小刻みに揺れていた。


「何度も言うようですが、ハルドの目的ってただの私怨ですよね。ネットで煽られたから世界滅ぼすって、やはり身勝手だと思うのですが」

「ふん。またその話かい」


 ハルドは溜め息混じりに答えた。


「何度も言うようやがそれは単なるきっかけに過ぎんのや。人類は自らの種を繁栄させ、暮らしを豊かにするために生きるけども俺に言わせるとな、その営みは弱者を淘汰し、他者を容赦なく蹴落とした者のみが繁栄がする業の連鎖や。歴史がただその繰り返しであることを、俺は散々見てきたで」

「だから負の連鎖を断ち切るべきだと?」

「せや。やつらの中には悪事を働くと死後地獄にいくと信じとるもんもおるようやが、この世こそが真の地獄やで。人は生きとる限り、永久に恐れと不安に縛られながら、無自覚に他者を蹴落とす。そんな生物が存在を繋ぎ止めて、いったいなんになるっちゅうねん」


 ハルドの言葉には一切の、迷いによって生じる間が存在していなかった。


「凄くラスボスっぽいようなことを言っていますが、きっかけがなんていうか、関西弁も相まって凄くダサいです」

「関西弁は関係ないやろ。関西に住んでる人に失礼やぞ」

「関西出身でもない癖に。本当、面倒くさい人ですね」


 最後のページを読み終えるや、イレーヌがルールブックを放り投げる。


「ルールは大体把握出来ました」

「お、早速やるか?」

「いえ、眠いのでひと眠りした後で」

「やらんのかーい! なんや間が悪いやっちゃな」


 そうこうしている間にも、件の動画は着々と、再生数を重ねていた。



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