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地球という仮想現実をプレイしている男、ネットで煽られたから世界を滅ぼす  作者: 武藤一光
第一章 闇落ち、魔王化、そして配信開始
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男による恐るべきアンチの黙らせ方

 イレーヌは登場すると同時に画面中央を占拠し、ゲームのキャラボイスのような可愛らしい声を発した。


「はいどうもー! 悪魔将姫、イレーヌでーっす!」


 コメント欄は困惑していた。

 彼女の正体が質のいいコスプレなのか、はたまたよく出来たCGなのか、判断が付いていないようである。

 イレーヌは両手を水平に広げた。すると彼女の背中からまさしく悪魔のそれと呼ぶに相応しい、黒く立派な翼が生えた。

 イレーヌはそのまま宙を舞い、カメラの目と鼻の先まで肉薄。

 ”自身の間近から見た質感”を、情熱的な腰振りダンスの接写にて疲労した。


「ふふふ、見よ! この淡く輝く艶かしい肢体を。実物にしてはあまりに儚げで、CGにしてはあまりに現実味を帯びているだろう。元ネタを知っている者なら尚更、その再現度に驚いたはずである! あらためて紹介しよう、彼女イレーヌはこの私がハルド空間内に生み出した超エネルギー生命体なのだ!」


 これまで悪態ばかりだったアンチたちのその時の掌返しといえば、酷いものである。

 大真面目にハルドの解説を聞いている者など、恐らくいない。

 ただただ眼前に繰り広げられるあり得ない光景に対する動揺と、エロティシズムに対する狂ったような賛美が、あちらこちからから噴出していた。


「ふふ、私の存在は概ね彼が説明した通りですが、性格が親に似たのか皆さんの注目されることが大好きです。ということでセクシーダンス、BANされないギリギリの所をせめて攻めていきまーす」


 イレーヌがなにか挙動を見せるたび、面白いようにコメント欄は反応を見せた。

 前提として、よく出来た3Dモデルというのが視聴者の共通認識であるらしい。

 しかし、だとしても既存の物とは一線を画したクオリティであることは違わず、徐々にこの大口を叩く変な恰好をした男が、実は凄い技術力を持った人物なのではと敬服する声も現れた。


「おいイレーヌ、いつまでそうやっているんだ」

「あら。ですが皆さん喜んでますよ」

「主役は俺だと言ったはずだ。お前がそこに居たら映らないだろ」


 ぬっと、ハルドの顔が再びカメラ中央に映り込む。

 途端に引っ込めだの、もう一度女を写せだの、暴言じみた野次が再燃した。

 ハルドはそれらをねっとりした視線で見つめながら、満を持してと言わんばかりに口を開いた。


「諸君らの中には私の力を少しは理解してくれた者もいるようだが……。だが、諸君らが私の本当の恐ろしさを知るのはここからなのだ!」


 一呼吸をおき、この世のすべてを見下したような薄笑いとともにハルドは続けた。


「そこ、さっきから五月蠅いぞ。大阪府大阪市在住の“鎌田大輔”くん」


 唐突に、コメント欄が静まり返る。

 熱帯のジャングルが一瞬にして氷浸けになってしまったような不気味な静寂が、その場の空気を包み込んだ。


「いま画面上に出ている私を中傷する残酷な言葉。これらはすべて君の仕業だろう? 数ある心無い暴言の中でも君の言葉が最も酷い」


 視聴者たちの配信画面上では、まさに奇妙な出来事が起っていた。

 ハルドの指摘した人物の書き込みと思われる卑劣な言葉の文字群が、暗黒のオーラを纏った輝きを放ち、ディスプレイから飛び出すように浮かび上がっていた。

 無論、このような機能は本来のUIにはあり得ない。

 さらに極めつけとして、その鎌田という男の職業、年齢、および顔写真までもが、ワイプとしてでかでかと表示されている。

 それ以降、視聴数は増加の一途を辿っていたにもかかわらず、ピタリと誰も書き込みをしなくなってしまった。


「おいおいさっきまでの威勢はどうした、アンチ諸君。さあ思う存分叩くがいい。まさかとは思うが、身バレ程度で日和るような覚悟で他人様に言葉の刃を向けていたのか? まあ、そうだろうな。そういう生き物だものなあ、所詮人間は」


 ハルドはこの上なく痛快そうな顔をしている。


「貴様らが私を叩くのはストレスが溜まってるからだろう? 人生、上手く行ってないんだろう? 君らは身バレによる社会的失墜を恐れて急に大人しくなったが、それこそが君たちを縛るストレスの元凶なのだ。社会から孤立することへの怖れの感情は誰しもが持っている。だがそれは、誰が悪い訳でもない。人間の本質そのものが悪いのだ。私はこれからそれを滅ぼす。なに悪い話ではない。お前たちはこの世に生きるという地獄のような苦しみの連鎖から、今まさに解き放たれようとしているのだ」


 誰一人として何も書き込まない、まるでお通夜のような空気が続く。

 その空気の中、男は一人笑い、語っていた。


「あの、皆さん何も言わないなかハルド一人だけが喋って放送事故みたいになってますよ」

「……ふむ。まあこれから我がチャンネルはゆっくりと人類滅亡に向けての活動をしていくつもりなので、よろしくと言っておこう」


 後に投稿されたこのやり取りの様子を収めた動画はそれなりの反響を呼び、特に好奇心旺盛な若者たちの間で大いに話題となった。


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