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地球という仮想現実をプレイしている男、ネットで煽られたから世界を滅ぼす  作者: 武藤一光
第一章 闇落ち、魔王化、そして配信開始
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恐怖の人類滅ぼす系動画配信者、爆誕

「ハルドチャンネル……なんの捻りもないネーミングですね。それでチャンネルを開設して、具体的にどんなことをするんですか?」


 ハルドは自信満々に口を開く。


「まずは人類どもに俺という存在の恐ろしさを思い知らせたる。奴らは愚かゆえ、力のある者の言うことしか聞かへん。最初に人智を越えた力をみせることによって、俺がいかに恐るべき存在か知らしめるんや」

「なるほど、のっけから大虐殺でも見せつけて恐怖の大王にでもおなりになると?」

「アホか。それじゃ奴らは俺を共通の敵と認識して見せ掛けの団結を作るか、ただビビって俺の言うことに従うだけや。それじゃ意味がない。"敵か味方か分からない、超凄い力を持つ俺"をアピールすることが大事なんや」


 ハルドは頷き、自画自賛するかのように言い放った。


「いまいち意図が分かりませんが。彼らに自ら滅びの道を辿らせるために、まずはハルドがカリスマ的存在になる必要があるってことですか?」

「せや。そのための配信や」

「わざわざそんな回りくどいことをしなくても、人類の危機を救う救世主のふりをして人気を集めればいいのでは?」

「その危機はどないするんや」

「お得意のコマンドで設定弄れば天変地異でもなんでも起こせるのでしょ。そこは自演でいいでしょう」

「お、お前中々にゲスやな。引くわ」

「悪魔将姫ですからね。私自身は人類に愛着もクソもありませんし。でもハルドに言われたくないですよ」


 口を動かしながらも、イレーヌはずっとハルドの顔を見ていた。

 先程からその表情は崩れることなく、じと目はぴくりとも動かない。


「ま、どのみちお前の言う救世主プレイは却下やな。最初はやってて気持ちいいかも知れへんが、どうせやつらの期待に応える善人であり続けることが後々窮屈になってくる。いざ好きに悪人として動こうと思ってもなかなか動き出しづらくなんねん」

「まあ、言いたいことはわからなくもないですが」

「そんでもって表面では俺を崇拝したふりをしながら、やつらは水面下で下らない争いを続けるだけやて。もう分かってんのや」


 ハルドはなにか嫌なことでも思い出したかのように、表情を曇らせた。


「まるで経験したかのような口ぶりですね」

「実際経験したんや。ちやほやされたいがためにチートコマンドを多用して、ざっと150年くらい大国の王やっとったからな。もう通った道や」

「え、やったんですか。実際に?」

「信じられんっちゅうなら証拠持ってきたろか。俺の部屋にごっつい王冠やら財宝やらあるで」


 自慢げに語るハルドに対して、イレーヌは冷ややかな目を向けた。

 咳ばらいをし、ハルドは続けた。


「話を戻すが、とにかく極悪になりきらない程度の邪悪さを維持しつつ、奴等にすり寄り過ぎない程度に神秘的で強キャラ的なポジションを確立するんや。それが配信における基本的なイメージ戦略や」

「まあ、一応了解しましたと言っておきましょう」

「よっしゃ、じゃあ早速配信を開始するで」

「え、もう? 段取りはどうするんです?」

「大丈夫や。ここに完璧に入っとる」

 

 ハルドは人差し指で自身の頭を指した。


「ところでイレーヌ、俺の顔の印象はどうや?」

「ごく普通の平均的な日本人顔だと思いますが。強いて言えばちょっと地味目でしょうかね」

「やろ。そんな顔の奴がこの格好で顔出し配信したらさすがに面白いやろ。はぁああああああ…………」


 ハルドは腹の下あたりにぐっと力を込め、気功でやるような細く長い息を吐いた。

 そして次の瞬間、彼はなんとトゲ付き肩パットが特徴的な黒マント衣装に変身していた。


「芸人にでもなりたいんですか?」

「分かっとらんな、掴みが肝心なんや。この見た目で笑い者にしようとしてきた奴らに俺の凄さを見せ付ける。これぞ痛快ってもんやろ」

「はあ」

「イレーヌは合図したら入ってきてくれたらええ。あとは流れで適当に喋ってくれてかまへん」

「いいんでしょうかね。そんな適当で」

「既に炎上したSNSでチャンネルの宣伝はしておいた! くっくっく、俺のことを誹謗中傷した野郎共め! 地獄のレスバトルの続きをしようやないか!」


 こうしてハルドチャンネルの記念すべき、最初の配信が始まった。



 * * * *



 床から立ち込めるスモークと、背景に降ろされた紫色のカーテン。

 髑髏のついたおどろおどろしいソファに座る、黒マント姿のハルド。

 この時点で絵面のインパクトが十分であることは、火を見るよりも明らかである。

 カメラの画角外に置かれたモニターが指し示す入場者数を目にし、ハルドは震えた。


「くっくっく。我が名はハルド。この世界の元傍観者にして、今は世界を滅ぼす者だ」


 地声よりも若干低い、明らかに無理して作ったような声で、ハルドは第一声を放った。

 反射的に、コメント欄に多量の文字が流れ出る。

 吹き荒れたのは語尾に「w」のおまけの付いた、罵倒という名の野次の嵐であった。


「諸君。無知であるがゆえ、誰とも知らずこの私を叩いてくれていたようだが、後悔することになるだろう。これより示す我が真なる力を目にしてな」


 悪辣なコメントの弾幕は止まる気配がない。

 しかしそれは空気の悪さは兎も角として、見方によっては場が盛り上がっているとも言えなくもなかった。


「まずこの場所は何処か。というところから説明しよう。このハルド空間なる異空間は、君たちの常識とは剥離した場所にある。ここでの私の力は絶対だ。君たちがおおよそ超能力と呼ぶような力を、遺憾なく発揮することができるのだ」


 ハルドはこれでもかというくらい芝居がかった口調で言い放った。

 画面では、人をおちょくったような顔文字が貼られるばかりである。


「見るがいい! 我が力を! そして怖れよ! 魔王ハルドの覚醒を! ……ふんぬっ!」


 ハルドの掌から極小サイズのブラックホールが繰り出され、ゆっくりと浮き上がった。


「はぁあああああああ!!!」


 ブラックホールは小さな竜巻を纏いながら、激しく回転をしている。

 アンチばかりに見られているとは知る由もなく、それは我が物顔で回っていた。


「どうだ、凄いだろう。なにっ、インチキだ!? 貴様らこれを見て、下らん映像エフェクトの類いだと言い張るのか! ならばこれならどうだ、ぬんっ!」


 ハルドは大きく息を呑み込み、口から勢いよく炎を吹き出した。

 炎は昇竜のごとく蜷局を巻きながら寒色ばかりの画面を彩り、瞬く間に髑髏のオブジェを塵と化した。


「今度こそ驚いたか! なっ、これもしょーもないトリックやと?! 大道芸の方がマシ!? なんでや、ちゃんと燃えとるやろ! 言い掛かりもええ加減にせいや!!」

「関西弁関西弁。キャラが崩れてますよ」

「おっと、そうだった。……って、イレーヌ! 勝手に喋るなや!」


 フレーム外に向かって発せられた、ハルドの怒鳴り声。

 荒らし一辺倒だったコメント欄の流れが変わったのは、この謎の女性の声の乱入の直後からだった。

 もはや眼前の痛々しい男の挙動など知ったことかと言わんばかりに、コメント欄は一瞬にして声の主の話題で溢れかえった。


「そろそろ私の出番なんじゃないですか。みなさんお待ちかねみたいですよ」


 ハルドは頭を掻き、少し間を置いて発語した。


「当初の段取りとは違うがしゃーない。イレーヌ、入ってこい」


 空気がさらに大きく変化したのは、そこからであった。


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