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作戦会議

 ナラドゥはさながら高校球児のごとく、皺ひとつない純白の羽毛布団に頭からダイブした。


「おおっ! なんだこれは、ふっかふかじゃないか」

「はしゃぐなナラドゥ。いい年した大人がみっともない」

「だってよ。こんなデカくてふかふかなの、エクスカリボーグの光学式浮遊ベッドにはなかったろ」

「まあ確かにな。ここまで豪勢な部屋にはなかなか泊まれんわ」


 ハルドはアンティーク調の椅子に腰を下ろし、あらためて内装を見渡した。

 広さこそ劣るものの、絢爛さはユウキのビルと比べても遜色がないものである。


「ふふ、お二人とも感謝して下さいよ。こうして最高級の五つ星ホテルに泊まれるのもすべて、私のお給金のお陰なんですから」


 イレーヌは奇抜な形状の間接照明に手を掛け、誇らしそうに言った。

 鏡に向かって絶賛悩ましげなポーズをしているものの、ギャラリーの視線は皆無である。


「そのお給金の出所が聖刃ユウキっつうのがなんとも言えん話やけどな。でもほんまに助かるわ。お前がおらんかったら、まずは仕事を探すとこから始めなならんかったしな」

「お金を出すコマンドも使えなくなったんですよね」

「せや。前やったらそもそもホテルなんか借りんでも、なんでもありのハルド空間を本拠地にすればええだけの話やったんやけど」

「不便ですね」 


 ハルドはコマンドで光の文字の羅列を出現させると、一言一句確認するように目を通した。


「今回は前回と違って、使える能力に制限がある」

「使える能力といいますと、今はどんなコマンドが使えるんです?」

「目立って使えそうなものはワープ機能だけやな。後は知っての通り護身用のバリアとか、命を守る最低限のものに限られとる……って、ナラドゥはさっきから寝とるんか?」

「起きてるぞ。こうしてもふもふを堪能してはいるが、話はちゃんと耳に入れている」


 聞いていますと言わんばかりに、ナラドゥの手が上がる。

 しかしその身体はというと、うつ伏せになったまま全くもって起きる気配がなかった。


「あらら、相当お疲れのようですね」

「まあ相当歩いたからな。それで、イレーヌの方はどんな力が使えるんや? ハルド空間外でも動けるようになったくらいやから、なんか能力の方も変化したんやろ」

「いえ、そちらはさほど変化ありませんよ。私の持つ力はまずは飛行能力、そして戦闘能力。さらになんといっても、淫魔には欠かせない能力、魅了です」

「どれもリアルファイトが起こったときぐらいにしか使えなさそうな能力やな」

「もしかして私の魅了を馬鹿にしてます? 私が本気を出せばナラドゥさん程度なら、簡単に骨抜きに出来ますよ」

「いやあいつは元からチョロいから参考にならんやろ」

「そうかもですね」


 二人の目が揃って屍のように動かないナラドゥの方へ向く。


「ま、何が言いたいかっちゅうと今回はコマンドの超能力頼りの強引なやり方はできひんってことや。地道に正攻法で視聴者を増やすしかない」

「あの、そんなハルドに言わなくてはならないことがあるんですが」

「なんや」


 イレーヌは言いづらそうに一呼吸置いた。


「実は今現在、すべての動画配信サイトはユウキさんに潰されて存在していないんです」

「は、なんやて?」

「正確に言うとあるにはあるんですが、それもすべてユウキさんの息の掛かった聖刃党による政治的な放送だけで投稿者が自由に動画投稿できるシステムがないんです」


 イレーヌは胸の谷間からスマートフォンを取り出すと、ハルドに手渡した。

 そのかつて動画サイトであったページの画面にて意地悪に主張するは、「not fund」の文字である。


「おのれ奴め。まさかここまで手を回しとるとは。ていうかイレーヌもこういう大事なことは最初に言えや」

「すみません、言うタイミングがなくて。さらに言いますとSNSも監視、制限されてますから、仮に投稿出来たとしてもバズらないと思いますよ。皆さんは権力に恐怖して、おそらくハルドの動画が面白かったなんて口に出さないかと」

「ほほう。上等やんか」

「どうするおつもりですか」


 ハルドは俯いていた顔を上げ、きっぱりと言った。


「決まっとる。それでも方針に変更はなしや。ネオハルド団チャンネルは視聴者を楽しませるエンターテイメントを全世界に発信するで」

「ですが、肝心の動画サイトがなくては」

「一応、その手のことに強い人物にあてがあってな。なんとかなる思う。まあ頼むときに少しばかりイレーヌの力を借りることになるかも知れへんけどな」


 イレーヌは一瞬固まるも、すぐに笑って答えた。


「ふふ、私はハルドのサポートをするために生まれましたからね。私に出来ることなら喜んで手伝いましょう」

「おお。それでこそ我が相棒や」

「それで、私は誰を骨抜きにすればいいんですか」

「は? ああいや、セクシーポーズ取っとるとこ悪いが魅了の力は多分借りんと思うで」


 いつのまにかゾンビのごとく体を起こしたナラドゥが、イレーヌのヒップラインに熱視線を送っている。

 ハルドはそれを目で牽制し、続けた。


「動画の投稿方法の問題はおそらくなんとかなるとして、それと同時にこれから放送するネタも集めんとならん」

「一言でエンターテイメントと言いましても、色々あり過ぎてフワフワしてますよね。気になっていたのはそこなんですよ」

「前の世界のときに俺とお前で音楽やら映画やら、世界中のあらゆる文化を味わい尽くしたことがあったろ」

「懐かしいですね。あの、世界を滅ぼす前に美しい文化は記憶に留めておこうとか言って調子に乗ってたやつですね」

「ああいうお宝を今度は、世界各地に行って自力で集めるんや。ジャングルにエロ本が落ちてたくらいやから、きっと財宝はあちこちに眠っとるはずやで」

「その中にはエッチなやつも含むのか!?」


 横から質問をしたのは、言わずもがなナラドゥである。


「ナラドゥさん……」

「まあ、いずれはそういう攻めた番組もありやと思うが、まずは過激なものは後回しや。多くの人に受け入れられるようなものを放送し、ユウキの政策で疲弊した人々の心に楽しみという癒しの光を与える。それが本計画の趣旨や」

「ということはつまりだ。いずれはそういうピンクなものもやるんだな。よし、そのための準備は俺に任せろ」

「好きにせい。とりあえず、番組のネタ集めと機材集め、それから動画投稿プラットホームの確保。それらが当面のやるべきことやな」

「なるほど。おおまかな活動方針は見えてきましたね。それで、そのネタや機材を集める手段はどうするんです」

「それなんやが、コマンドが使えん以上、ネタも機材も全部自腹で買わなならんねん」

「ということは、まさか」

「そういうことや。イレーヌ様、お金貸してください!」


 ハルドは膝を床に付き、躊躇いもなく頭を下げた。


「はぁ。まったく、少し見ないうちにますます駄目男ぶりが増しましたね。少しは自分で汗水流して働いたらどうです?」

「せやな……。すまんかった。お前がそう言うんならまず仕事を探すとこからやな」

「嘘ですよ」

「イレーヌ?」

「ふふ、駄目男に頼られるというのも悪くない気分ですね。いいですよ、当てにしてください。なんなら私のお金も、大して汗水流さないで手に入れましたし」


 イレーヌはまたもや胸の谷間から預金通帳を取り出し、得意げに見せびらかした。

 そこには十桁の数字が、燦然と輝いていた。

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