銃をも恐れぬ殴り込み
肩で風を切りながら、男二人が巨大ビルへと迫る。
「あの中にその、なんとかユウキというのがいるのか」
「ああ。けどもう多分、侵入者が来たことは気付かれとるな。ビル内部へはワープで飛べんようブロックされとる」
「そんなことまで出来るのか」
「出来るさ。やつはこのシミュレーションを生み出したメインコンピュータ本体と繋がっとるからな」
「なるほど、だからここからは歩きか。しかしだとしたら下手なことを言おうものなら強制退却させられるんじゃないか?」
「そのときはそのときや。まあアイツの性格上、話くらいは聞いてくれると思うで」
「ふーん。それで、そのユウキってのは美人なのか?」
「お前なあ。まあボチボチやと思うで」
「ただの冗談だ。さて、護衛が思いっきり睨んでるぞ」
「平気平気。俺らに向こうの武器は通じひん。構うことあらへんて」
衛兵たちは横一列に並び、二人の行く手を阻んでいた。
ハルドは何食わぬ顔でそこに向かって真っすぐ、前進を継続した。
躊躇なく一斉に、ライフル弾がハルドの身に襲い掛かる。
しかしそれらは見えない壁によって悉く阻まれ、一発たりとも命中することはなかった。
「な、この通り。物理攻撃はバリアが弾いてくれるから安心やで」
「なるほどな。けどあいつらの顔、体張ってでも通してくれそうもない感じだぞ」
「んー、ハルド空間内なら火球飛ばして威嚇の一つでも出来るんやけどな。ちょっと待ってや。4uu92,@^.n9e2-@……。よしナラドゥ、適当に空気殴ってみ」
「こ、こうか?」
ナラドゥはおそるおそる、拳を前方に突き出した。
すると二十メートルほどは先にいた衛兵たちの体が宙へと打ち上げられ、なんらかの力によって豪快に吹き飛ばされた。
「おおっ、爽快」
「バリアの出力設定弄って一時的にナラドゥの拳から衝撃波が出るように調整したで」
「暴れてもいいのか?」
「奴らが逃げ出したくなるくらい、適当にビビらしたってや」
ナラドゥはニヤリと笑い、見えない殴打、および蹴撃を繰り返した。
衝撃波は嵐となり植木や電灯を次々となぎ倒していく。
衛兵はただ顔を青くし、次第に銃を構えることすらしなくなった。
「ハハハ! 連中には魔法に見えてるんじゃないか? エッチな経験期待してここに来たが、こういうのも悪くねえな」
「ナラドゥ、そこらへんにしとき。奴らは戦意喪失しとる。これ以上は瓦礫が当たって犠牲者が出るで」
「でもこいつらプログラムなんだろ? そんなことを考慮する必要があるのか」
「前回やらかした俺が言うのもなんやけど、この世界の人間には愛着があるんや。それに、程々のところで止めた方が、圧倒的な力の差を見せ付けてるみたいでかっこええやろ」
「まあ、お前がそう言うならこれぐらいで勘弁しといてやるぜ」
震える衛兵たちの横を悠々と素通りし、二人はビル内部へと侵入した。
「しかし素晴らしく美しい建築物だな。アナクロだが、エクスカリボーグにはない趣がある」
「大理石の壁面も赤絨毯も、向こうにはないもんやしな。そら初見で見たら感動するか」
「このエレベーターも原理は古臭そうだが、無骨でなかなかいいデザインだ」
「やろ。ほんでもここはこの世界の建造物としては最新式なんやで」
エレベーターがゆっくりと減速し、扉が開く。
目の前に広がる豪勢な広間で待ち構えていたのは、またもやハルドの実によく知る人物だった。
「うふ、待っていましたよハルド。私です」
「イレーヌ……」
スーツ姿のイレーヌは腰をくねらせ、自慢のくびれを見せ付けるかのごとくモデル立ちを披露していた。
 




