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魔法の箱庭  作者: 翡翠さん
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1章 春、麗らかに響く part3

最近随分と暑いですね。皆さん体調に気をつけてくださいね。part3です。

 市立三岳高等学校は、大江山を背にして立っている、創立70年の古い学校だ。1日中、日が窓から入り込み学校全体が暖かい空気で満ちている。

 ただ、校則が少し不思議で、創設時に校長をしていた人が、とても生徒の意見を大事にしていたらしく、制服は存在するが基本服装は自由、学生生活を謳歌することという謎のきまりごとが提起されている。そんな学校に僕は、黒のタートルネックのセーターに、カーキー色のパンツと至って地味な服を毎日着ている。もちろん洗濯しているが。

 ほんのりと桜の甘い香りがする。4月ということもあり、ちょうど見頃を迎えていた。

「やっぱり綺麗だな」

こうした日本独自の美しさというのは、いつまでも心惹かれるもので、個人的にはとても好きである。

自宅から約1時間。少し古びた、大きな校舎が見えてきた。この校舎の4階の端に僕達の教室がある。1学年4クラスほどしかなく、市内でも珍しいほどに人数が少ない。そのせいか、学年全員の顔を見ることが多かった気がする。ただ、あまり人と会話することがなかったため、名前などはほとんど覚えていない。そも、覚える努力をしなかった気がする。こんなことを言うと怒られるだろうけど。

 時間が刻刻と過ぎていく。何の変化もなく、平穏に何事も起こらない。普通とはきっとそんなもののことなんだろう。そんな空気が、僕にとってはとても幸せに感じられた。元々1度死にかけた人間なのだし、そう感じるのは案外当然のことかもしれない。でも…

「相変わらず誰もいない、か」

こうして屋上に上がり、向こうの景色を見て、一生死にたいと思うことはないのだと思う。

「それはそうと、昼食べないとな」

時刻は12時を少し過ぎたくらいだった。下のほうからは生徒達の話声が聞こえる。それを耳で聞きながら、弁当箱を開ける。中身は至って簡単なものしか詰め合わせていないが、腹が満たされるのならなんでもよかった。そんな昼の時間もいつもなら、このまま食べ終えて風景を眺めているのだがこの日は違った。

おかずの1つ目に手を伸ばしたとき、ぎぃ、と唯一ある扉が開く音がした。

「…………」

ここに人が来ること自体が意外だったので、しばらく2人でお互いを見つめあってしまった。

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