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「風俗のお店に対する締め付けが厳しくなってきたので、元々お店をたたむ準備をパパがしていましたから、予定が早まっただけです。」
「それでご両親はどうしてる?」
シャロンさんは幸せそうに笑みを浮かべながらぽーっとダルジィさんの顔を見つめています。
多分私の話など聞こえていないと思われます。
おそらくエッチなことを考えているのでしょう。
しかしダルジィさんはかなり真剣に私の話に耳を傾けています。
そして、私の両親を心配してくれてるようです。
「戦争に巻き込まれて・・・」
パパとママとお店のみんなで入植した開拓村は私以外全員死んでしまいました。
あれは開拓村の収穫が終わり、冬支度を始めていた時でした。
アザレア市に住んでいたときのお店の近くに住んでいたリリアという女の子が、父親と共に行商に来ていました。
ダルジィさんと同じで顔は見たことはある程度の関係でしたが、開拓村に来たリリアちゃんは私に積極的に話しかけてくれました。
恋人のノロケ話が時々混ざるのが気になりましたが、私と友達になりたいと想っているいるのが伝わってきたのがうれしくて、私も頑張って色々お話すと、すっかり打ち解けて、初めて同年代の友達が出来るかもしれないと感じました。
外で二人で遊んでいると突然雪が降り出し、その後目の前が真っ白になりました。
気がついたら、リリアちゃんも村の人たち、そしてパパもママもみんな氷像のように凍りついていました。
はじめて同年代の友達がでるかもしれないと思ったのに、即、その場でお亡くなりになりました。
その後のことは覚えていません。
そして気がついたら、開拓村から遠く離れた森の中に今の姿で倒れていましたから。
私の姿が大きく変わってしまっていることが、村の人たちが凍り付いた原因に関係しているのではないかと、確証はありませんがとても不安です。
このことを、伝えて大丈夫なのでしょうか。
私の研ぎ澄まされたセブンセンシズがなぜか『黙ってろ』とささやきます。
開拓村を全滅させたのは私と言うことにされるのではないかという危険性を感じます。
異世界の本に書いてある頭がおかしいヒロインが可愛いと服と眼帯を装備して『我の中に封印されている何かが解放されたー』と怪しげなポーズを取りながら言えば、そこはかとなくいい雰囲気で意中の男性にコツンと頭を叩かれ『HAHAHAーー』と笑って冗談で済みますが、私の場合は被害が大きいのでそのまま難癖付けられて『討伐』される可能性もあります。
あの後、開拓村は都市連合軍と帝国軍で激しい戦闘が行われたらしいので、とりあえず、両親の事は戦争に巻き込まれたとこの場では言っておきます。
「そうか、大変だったな・・・
呪いは特科兵団に呪術を得意としてる連中がいるから、まずはそいつらの所に行こう」
「ありがとうございます。
でも、帝国は大丈夫なのですか?」
ちらりとオカマさんのほうを見ながら聞いてみます。
詳しくは知りませんが、ご近所さんの軍勢にいつも帝国軍の人たちがひどい目にあっているらしいです。
ご近所さんとは無関係で魔王ではないと言い張ってはいますが、神殿が私を魔王認定し討伐すべき対象としている以上、何かしら危害を加えてきてもおかしくはありません。
「帝国や神殿が何て言おうが都市連合軍は市民は守る。
それに都市連合にある神殿に市民を討伐対象にするのか部下に確認させている」
頼もしいです・・・
ダルジィさん自体は心配なさそうですが、彼が都市連合軍でどれぐらいの権力を持っているのかが気になります。
私にとって最高の展開は・・・
① ダルジィさんが軍の説得に失敗。
② 責任を感じる彼はシャロンさんを捨てて、私を守るために軍から離脱する。
③ どこか遠くに逃げて仲睦まじく二人で暮らし始める。
うん、素晴らしい! これが一番です。
「神殿はどこも同じだと思います。
私・・・私、とても怖いんです。」
とりあえず、ダルジィさんに神殿の説得は難しいということを伝えつつ、か弱いところを見せて、私は保護対象であることを刷り込んでおきます。
神殿が味方するのは明確な悪事を行っていない限り、献金額が多い順だとパパはぼやいていました。
私の場合は魔王扱いですので、どんなにお金を積んでも難しいです。
「その時は殺人教唆で全員現行犯逮捕するように言ってある」
「現行犯逮捕ですか? そんな事できるのですか。 相手は神殿・・・」
まじですか?
都市連合は商人と神殿が力を持つ国。
軍は彼らの身分と財産を外敵から守るための用心棒のような組織だとお店のお姉さん達は言っていた。
守らないといけない人達に害をなす行為が行われるとは思えないです。
「ん? ああ、1年前に軍がクーデター起こしてな、うまくいったんだ。
昔のように神殿と豪商共のやりたい放題の国じゃなくなってる」
なるほど、つまり都市連合は今、軍事政権と言うことですか。
基本的に引きこもっていたので知りませんでした。
雑誌類は結構貰って読んでるのですけど、全く載ってません。
どうしてでしょうか?
「ダルジィは連合軍事会議のメンバーだ。こいつに文句を言える奴はそう多くないから安心していい」
全身フルプレートに巨大な盾を持ったガーディアンさんが私の危惧している事を察したかのように、説明してくれました。
ところで連合? 救国じゃないんですね・・・。
どこかのネタの様な会議名ですが、それなりにダルジィさんは権力を持っているようですので、二人で逃避行というのは難しそうです。
とても残念です。