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「おーい! ダルジィ!」
勇者の従者さん達がやってきました。 どうやら一人も欠けていないようです。
あのご近所さん達を相手にすごい人たちです。
従者の中のエディオスさんが特に目立ちます。
千里眼越しで結構なお顔だと思っていましたが、直に見ると違います。
フェロモン的なオーラと美形の人達が持ってる後光が渾然一体となって、若干の神々しさすら感じます。
これはかなりの数の女性・・・ と男性のハートも鷲掴みしていそうです。
そのエディオスさんが此方に向かって猛然とダッシュしてきます。
彼の持ってるメイスには神剣レベルの聖なる力を感じます。
とても危険なので、スススっと勇者さんの後ろに隠れることにします。
『緊急待避♪ 緊急待避♪』
「大丈夫だ。 さっき魔王じゃなかったんで、保護したと連絡した。
あのオカマ野郎は帝国に引き渡せと言ってるが、絶対に渡さねぇから。」
勇者さんはダッシュで近づいてくるエディオスさんの後ろからスタスタと歩いてくる男か女かわからない人を睨んでいます。
私が持ってる鑑定の結果だと、蝸牛将軍と同じ両性具有です。
種族は私の知らない種族みたいなので、頭に浮かんでこないです。
ちなみに私は真田鑑定(マリア命名)という特殊能力を持っています。
普通は「何でも知ってるんですね」といわれると「知ってることだけですよ~」という
流れになるのですが、私の場合「何でも知ってるんですね」といわれると「大体知ってますね~」と胸を張って断言できます。
しかし、残念ながら、私の真田鑑定をもってしても、わからない不思議系種族のようです。
そして、何があったのか知りませんが、勇者さんは両性の人の事がものすごく嫌いなようで、オカマ野郎と呼んでいるようです。
両性具有ですから、女性でもあるわけで、『野郎』はおかしいのではないかと思います。
とりあえずこの人はオカマさんと呼んでおきましょう。
しかし、私を誰にも渡さないなんて、プロポーズでしょうか。
すごくうれしいです。
「外は終わったようだな「ダルジィ君!!」」
エディオスさんが勇者さんの胸に向かってジャンピングタックル抱擁をかましました。
「ダルジィ君のバカ!! どうして独りでつっこんでいくんだよ!」
「糞ガキババアから魔王・・・いやあいつが逃げるから急げって連絡があったんだよ」
潤んだ瞳で勇者さんに抱きつきながら怒っています。
エディオスさん、本当に男性ですよね?
真田鑑定が本当に合っているのか心配になりました。
勇者さんは私を魔王と呼んだ後、少し申し訳なさそうに私を見た後、言い直したところに優しさと誠実さを感じます。
魔王じゃない、人間だと私が3回も訴えたことを思い出したようです。
しかし、エディオスさんの勇者さんへの接し方から女性ではないかと少し不安になったので、改めて真田鑑定してみると、人族、男性と出ました。 勇者さんも当然男性です。
これは一体どういう関係なのでしょうか?
たしか、軍隊では同姓同士でお付き合いしている人たちがいるという話を聞いたことがあります。
この二人もそういう関係なのでしょうか?
これはとてもすごく気になる案件です。
『あの人、恋仇ですか?』
シャロンさんと昨夜うまくいかなかった理由に、実は女性に興味がないという可能性があります。
プライバシーに関するクリティカルな話題ですが、私の将来にも関わる問題なので、念話でこっそり質問します。
『ち、違います。 エ、エディオスは男だし、もう結婚してるわ。』
エディオスさんとご結婚されている猛女がいるようです。
はっきり言って彼は超美少女といっておかしくない容姿です。
少々、見栄えが良い程度の女子では彼と並んで町中を歩くとエディオスさんの方に殿方達は群れ集まり、女のプライドは間違いなくボロボロにされます。
私なら絶対にお断ります。
彼の結婚相手が務まるのは彼レベルの美女。
容姿が普通レベルならまさに鋼のメンタルを持つ勇者。
『鋼のメンタルを持つ勇者さんと結婚したのですね。 それとも彼レベルの美形さんですか?』
『ク、ク、ク、クヒンジは勇者じゃないわ・・・。
見た目は・・・わ、私はよくわからないけど、イ、イトウ君達は微・・普通って言ってたわ。
ただ・・・性格はものすごく、ものすごく、ものすごーーーーく、図太いけど・・・』
クヒンジ? さっきも出た名前ですね。
これは異世界の人の名前です。 シャロンさんはおそらく異世界人で召喚された勇者ではないということをいいたいのでしょう。
ただ、今の図太い発言と、ものすごく嫌な顔をしていることろを見ると、鋼のメンタルを持つ勇者さんであることは間違いないようです。
ただ、召喚勇者さんならもれなく容姿は整えられているので、普通と言うのもおかしいです。
となると、勇者召喚では無く、巻き添え召喚された異世界の人だと考えられます。
異世界の書物によると巻き添え召喚された方はあっさり死ぬか処刑される、もしくは奴隷同様の扱いを受けることが多いです。
ただ稀に苦労の末とてつもなく強くなる方がいます。
そして最終的には異性を侍らせてハーレムをつくる。
そうですね、強くなる一人というのは置いておいて、クヒンジという方は奴隷階級に落とされた異世界人と考えるのが妥当です。
そしてエディオスさんを鋼のメンタルでアタックし続けて彼を陥落させた。
と推察します。
普通の容姿、鋼のメンタル、美形攻略・・・
なるほど、とても好ましい人物の様です。
ただ嫌な事を思い出しました。
『彼は貴族でしょうか。
帝国では男性の結婚相手は一人だけということはないはずです。』
『エ、エディオスは男爵位を持ってるわね・・・』
危険です。 とてつもなく危険です。
勇者さんとの♂♂結婚をねらっている可能性があります。
勇者さんの身を案じている姿を見ると、エディオスさんは勇者さんには友情以上のものを持っているように見えます。
つまり、おそらく、奴隷となった異世界の人と結婚したのは、心の優しい勇者さんの気を引くためのパフォーマンスでかつ、自分はノーマルだと油断、安心させるための手段だと考えられます。
私の経験から、見た目が良い女は間違いなく心は腐っています。
貴族の令嬢ならばさらに心は腐ります。
例え性別が♂でも見た目が美少女なら完璧に腐りきってるに違いありません。
知識の源泉となった異世界本では、腐った女性は男と男がいちゃつくのを見て、カップリング行い発情しています。
私には理解できませんが、はぁはぁと発情していました。
勇者さんに抱き着いているエディオスさんは勇者に抱きついて、劣情からはぁはぁ、自分とカップリングすることでさらにはぁはぁと、男の娘によるハイブリッド腐女子化している可能性・・・、いや腐女子化しています。
そして彼は末永くはぁはぁするため、かならず勇者さんを手に入れて、自分を含めた色々な殿方と掛け合わせようとするはず。
危険です。
とても危険です。
私の胸がざわざわしてとても危険だと訴えています。
危険を回避するため、まずはクヒンジさんには我が家秘伝の夜伽で全て搾り取るテクニックをイラスト入りで記載されている本の写しを進呈し、そのあとは彼女と相談して対応することにします。
問題は危機感のないシャロンさんです。
彼女には勇者さんに口うるさいことを言って、うざがられるという役回りを期待したいので助言することにします。
『改めて、今、抱きついてる勇者さんと雄雄結婚しそうですが大丈夫ですかという質問をします。
見た目だけならどう見てもお似合いのカップルに見えます。
大丈夫なのですか? あなた、勇者さんと結婚する気なのですよね?』
シャロンさんの危機感と嫉妬心を煽りエディオスさんにけしかけます。
女同士(片方は男ですが・・・)の言い争いを見せると、ほとんどの男性は逃げ出します。その時うまく付いて行って、優しく相談にのってあげればライバルの好感度は下がり、私の好感度が上がります。
恋愛関係で困っている殿方の相談相手という、横取りを狙っている私にとって、最高のポジションを獲得します。
これは『学生時代』という少し危険な異世界本に書いてあった手法です。
結末は最悪でしたが、相手は妊娠したらすぐ捨てるようなクズ男ではなくダルジィさんです。
寝取った後の対応さえ間違わなければ大丈夫です。