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『ありがとうございます。 お薬はいらないのですか?』
『け、欠損部位を回復するような、す、すごいお薬作れるんですね・・・』
『あまり自慢できるようなものではありませんが可能です。』
異能が顕現したときに得たスキルや知識でポーションだけではなく、色々作ることはできるようになりました。
我ながら若干微妙なものが出来上がりますが、逃がしてもらえるようですし、作成して進呈することにします。
『あ、あの、胸を小さくするお薬あります?』
ほう? そんなレジェンダリなお薬作れる訳ないのですが・・
大体、体形がいい方に変わる薬作れるのでしたら、私の今のこの姿を何とかしてます。
でも、私には同年代の女の子の友人はいません。 シャロンさんは嘘発見などレアなスキル持っていて大変便利そうです。
それに勇者のお嫁さんなら社会的な地位も高いはず。
ここは今後のことも考えて、あわよくば友人となるべくキチンと対応しておこう思います。
『肩こり? それともその若さで乳と尻が垂れ始めてるのですか?』
『た、垂れてません・・・』
シャロンさんはなぜか私の事を睨んでいますが、本人が認めたくない事実を述べると不快に思うことは良くあります。
身体的な問題はクリティカルな案件ですので致し方なしです。
しかし、クライアントの要望はしっかり把握する必要がありますので、ヒアリングを続けます。
『ほう、でわ詳しくお願いします。』
『・・・』
シャロンさんは私の事を睨んだままです。 彼女は詰まりながら話す事が多く、気が弱く内向的な性格のようですので、すこし背中を押そうと思います。
『オープンユアマインド。 恥ずかしがって大事な情報伝えて頂けないのでしたら、最適な解決方法を見つける事ができません。身体的な悩みでしたら、この姿を見てもらえればわかると思いますが、とてもよく理解できると思います。』
しつこく聞くとクライアントの信頼を損ないますので、共感を得つつ、やんわりと聞いてみると、どうやら警戒を解いて教えてくれそうです。
『か、彼、ス、ス、スレンダーな人が好きみたいなの』
スレンダー? つまり無乳の女性が好きということですしょうか?
勇者さんの外見的な嗜好という貴重で私に取ってとても有用な情報が手に入りました。
もしかしたら私の色仕掛けで有利な状況作ることができるかもしれません。
シャロンさんをじろじろと嘗め回すように見ましたが、特に太ってはいないです。
でも、つやっつやの鎧の上からでは、詳しくわからないので昨夜、勇者さんに迫っていた時の姿を思い出します。
流石に全裸ではありませんでしたが、つぶらな瞳のクマヘルに体型がよくわかる露出の高い服でした。
胸は・・・ムカつくぐらい大きかった。
腰は・・・イラつくくぐらい細かった。
尻は・・・腹ただしい位いい形でした。
どうしましょう。 助けたくありません。
むしろムカムカするので意地悪をしたくなります。
『それは、私のような体形が好きだということですね? 私にもワンチャンあるようです。』
『ワ、ワンチャンってなに言ってるの!? さささ、流石に、あなたみたいな起伏が全く無い体形は絶対に無理よ! 絶対にダメ、不可能、ありえません!』
な・ん・で・す・と!?
先ほど無乳が好みだと言ったのに、起伏がない体形は絶対無理?
そして、親身に対応したのにディスられました?
そういえば、ご近所さん達も怖いから色々親切にしてあげたのに、私が音声付き千里眼というスキルを持っているのを知らないのか陰で好き放題言っていました。
・魔王様って、女性だったの? てっきりお仲間(雌雄同体)だと・・・
(異性が居ない永遠の独身貴族。蝸牛将軍)
・魔王様って、蛇に手足が生えたようなあの体型、私、とても不憫で・・・(笑)
(豊満3段腹のインプ長官)
・魔王様には雌のミノタウロスの胸を移植して差し上げようと思うのじゃが、皆はどう思う(一同爆笑)
(死体愛好家でゾンビキメラ職人の死霊元帥)
そうか、この女も奴らと同類。 私の容姿を笑いものにしているゴミ、クズ共!!
くそう! 叩き潰して塵にしてくれようか!!
「む、どうした?」
あ、いけない。 ちょっと殺気立ってしまいました。
シャロンさんやご近所さん達に喧嘩売ったら、酷いめに会うのは私。
妄想で憂さ晴らしするのは止めないといけません。
むぅ、また警戒しているようですね。
うまく言い訳しないと駄目です。
「ちょっと私の姿を蔑む人のことを考えてたら、ムカッときてしまいました・・・」
少し下を向いて、辛そうに答えると、警戒が緩んだようです。
やはりチョロいです。
しかし、無乳でスレンダーな体型が良いとはこの勇者さん、見所があります。
この広い世界には私のようにまっすぐな体形でも受け入れてくれる男性がきっといると思っていました。
この勇者さんはその選ばれし漢の一人ということです。
後は、尻尾や角や鱗肌に抵抗がなければ、ひょっとしたら、もしかしたら私と結ばれる・・・ かも?
まぁ、あり得ないです。
速やかに逃がしてもらって、地下都市に逃げ込むのが無難です。
甘い期待は厳禁なのです。
「ところでおまえのその姿は病気か? それとも呪いをかけられてるのか?」
「呪い・・・ そんなものです。 私のこと心配してくれたんですね。 ありがとうございます。」
私がお礼を言うと、勇者さんはポイっと神剣をシャロンさんに投げ渡したました。
腕を組んで偉そう姿勢で心配してくれているようです。
神剣をシャロンさんに渡したということは、もう襲ってこないという意思表明でしょうか。
それなら大変助かります。
「俺は都市連合の軍人だ。
市民を守る義務と責任がある。
悪かった。
そして安心しろ俺が呪いを解く方法を探してやる。
それに帝国の連中には絶対に手を出させない」
えっと・・・
ほんの少しだけ助けてほしいな、と思っていましたが、本当に言ってくれるとは・・・
とてもうれしいです。
「本当?」
とは言え、所詮はいつ破られてもおかしくはない程度の口約束。
ここは無い色気を振り絞り、あざとく上目遣いで念押しをします。
すると勇者さんはにっこりと笑い頷きました。
嬉しいです。 少し信じようと思います。
「まぁ、俺に任せておけ・・・
って泣くな。 必ずお前を助けてやるから!」
ああ、計算外出したが、いい感じで涙が出ていたようです。
そうですね、確か嬉しくても涙が出るんですよね。 初めてかもしれないです。
決めました。 勇者さんに一生ついてきます。
ふふふ、私も大分チョロいのですね。
「ダルジィ。 あなた、人が良すぎるわ。」
シャロンさんも警戒を解いてくれたようです。
しかし、まさか、逃亡ではなくて、勇者さんに市民として保護してもらえるとは。
「あの、不束者ですが、お世話になります。『呉越同舟♪ 呉越同舟♪』」
頭を下げてお願いすると、勇者さんは大ききく頷きました。
フクゾーは私の頭の上に飛んできて、角の上に止まりました。
空気が読めるフクゾーが飛んできたと言うことは、もう安全と判断したようです。
安心しました。
ところで呉越同舟?
勇者さんは私を助けてくれる素敵な旦那様@予定ですよ?
敵ではありません。