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怪盗 シンデレラ  作者: 卯月 淳
第1章 新月の夜会には、ご用心
5/6

第5話 明かされる真実 前編


その日の夜、ハンナは久しぶりに夢を見た。

眠る彼女の脇に聖女が降り立ち、真っ直ぐに彼女を見つめていた。

その両目は涙で濡れ、悲しそうに揺れていた。


『あなたにだって、幸せになる権利があるわ。』


聖女はそう言うと、彼女の額に自身の額を寄せた。


『だから、最後まで諦めてはいけませんよ。』


言った瞬間、魔法をかけたように聖女の姿は忽然と消えた。

その跡は、金の粉が舞い散るように、きらきらと煌めいて見えた。




美しく、どこか懐かしさを覚えるその光景は、


不思議と、心地よかった。




♢ ♢ ♢ 


― 久々に、落ち着いて眠れた気がするわ…


次の日の朝、いつもより早くに目が覚めたハンナは、余裕を持って支度をすることができた。

すっきりと目覚められたのは、彼女の淹れてくれたカモミールティーのおかげだろう。

室内にかすかに残る優しい香りが、昨日の出来事を思い起こさせた。


「不思議な子…」


思わずそう言葉を漏らして、ハンナは洗ってあった紅茶のカップを片付けた。

花のような笑顔を見せる彼女は、この国では珍しい、暗い色の瞳をしていた。

そういえば、名前だってまだ知らない。


「お礼、しなくちゃね。」


臨時で雇われたと聞いていたから、今後もここで働き続けるのかどうかは分からない。

今日、時間が取れた時にでも、あの子の部屋を訪ねてみよう。

昨晩、部屋の前で倒れていたと聞いたから、大体の場所は見当がついている。

それに…



男爵の機嫌次第では、自分はもう、

この土地を離れなければならないかもしれないのだから……



♢ ♢ ♢


夜会当日は、いつにも増して忙しさを極めた。

屋敷の端から端まで走り回り、全ての準備を終えた頃には、既に夜会が始まっていた。

厨房担当(キッチンメイド)同士での交代の休憩時間をもらえた頃には、23時を回っていた。


― こんな時間に訪ねたら、逆に迷惑ね


自室に戻ったハンナは、訪ねる代わりに、手紙を書くことにした。

小さな紙に、簡単なお礼の言葉をしたため、自室を出た。



「ハンナ、あんた、そんなとこで何やってんだい?」


手紙を持って、目的の部屋の前をうろうろしていると、同僚のメイドに話し掛けられた。


「実は昨日、ここの部屋の子にお世話になったの。お礼の手紙を持ってきたのだけれど…」

「ここの?」


ハンナの答えを聞いて、メイドは一瞬きょとんとした後、大声で笑い出した。


「あ、あんた、本気で言ってるの?」

「ちょっと!もし寝ていたら、起こしちゃうじゃない!」

「そんなこと、ないに決まってるさ。だって、ほら。」


そう言うと、メイドは目の前の部屋のドアを開けた。


「ここらの部屋は全部、()()()になってるんだから。起こせるものなんて、ありゃあしないよ。」

「え…?」


ハンナも部屋を覗くと、そこに人が住んでいる面影は全く見えなかった。

それどころか、床用のモップやブラシなどの掃除用具や、火掻き棒、アイロンなどがあるのが見えた。


「ここら辺、って…?」

「寮の入り口付近の部屋は使わないことになっているらしいのさ。なんでも昔に、強盗に入られたヤツがいるらしくて、それ以来倉庫にしてるって聞いたよ。」


まあ、最近の話じゃないから、あんたは知らなくて当然だ、とメイドは笑いかけたが、ハンナはそれどころではなかった。


「じゃ、じゃあ、最近、新しく入ったメイドのことは知らない?」

「新しいメイド?」

「そう!珍しい、暗い青色の瞳を持った可愛い女の子なんだけど!」


ハンナは必死に訴えかけたが、同僚は馬鹿にしたように取り合わなかった。


「そんな子、いたらこっちがお目にかかりたいね。第一、あたしらの給料でさえ少ないのに、新しく雇う余裕があるとは思えないけど。」

「っ!」

「あんた、変な夢でも見たんじゃないのかい?」


ハンナには、同僚の声は全く聞こえていなかった。

言われてみれば、確かに変だ。

あんなにケチで、金を自分のことにしか使わない男爵が、忙しいからという理由で新しいメイドを急に雇うだろうか。

それに、あの少女は、ほとんど自分が1人の時にしか、姿を現さなかった。




― それなら、あの子はいったい……?





「じゃあ、あたしは先に行ってるよ。あんたも気が済んだら、さっさと来るんだね。」


唖然とするハンナを置いて、同僚は屋敷の方へ戻って行った。


ハンナはしばらく、その場から動くことはできなかった。






いつも読んでくださり、ありがとうございます!

面白かったとき、評価ポイントいただけると、うれしいです(^^)/


*少し長めだったので、元の5話を前編と後編に分けました。


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