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土産の品

 異種族二人がフードを外して正体をあらわにし……。

 ついでとばかりに、イヴも髪の偽装を解除して普段通り派手な七色に輝かせる。


「ほう……」


 これを見て、師の反応はと言えば淡白なものであったが……。

 村の姉弟のそれは、劇的なものであった。


「すっげー! こんなキツネみたいな耳した人や、とんがった耳の人間なんて世の中にいたんだ!?

 なあなあ? お姉ちゃんたち、ちょっと触らせておくれよ!?」


「ふふ……。

 あまり強く触らなければ、いいですよ」


「オレは勘弁してくれ。

 エルフの耳は敏感なんだ」


「あ、あたしは……その……。

 ちょっとだけ、髪の毛を触らせてもらってもいいですか?」


「イエス。

 キューティクルには絶対の自信があります」


 わいわい、きゃいきゃいと……。

 好奇心のままに話しかけては、特徴的な獣耳や髪を触らせてもらっている。

 俺も、「キューティクルって何?」と聞きたいところだが……ここは空気を読んで我慢することにしよう。


「二人とも、驚くにはまだ早い……。

 ここにいるアスル君……。

 歴史について教えた時、王族の名前にも触れていたから、第三王子と同じ名前なのは気づいていただろう?」


「うん! 例のアッパラパーな王子だろ?」


 どうにかしてエンテの耳に触ろうとし、両腕でそれを防がれているジャンが振り向きながらそう答えた。


「アッパラパーとは教えてないが、ともかく……。

 何を隠そう、このアスル君こそが我が国の第三王子アスル・ロンバルド殿下その人なのだよ……」


「「え?」」


 それを聞いて、エンテと格闘するジャンと、不思議そうにイヴの髪をなでていたサシャがぴたりと動きを止める。

 そして、ギギギ……と、錆びついた扉のような動きをしながら、二人そろって俺の方を見やった。


「どうも……元だけど、第三王子のアスルです」


 それを受けて、あらためて本当の素性を述べると……サシャが目にも止まらぬ俊敏な動きでジャンの首根っこを引っつかみ、自分共々平伏させたのである。


「し、知らぬこととはいえ大変なご無礼を……!

 ほら、ジャン! あんたもちゃんと謝りなさい」


「え? いや、そう言われても……。

 兄ちゃんって、えらい人なのか?」


「そんな呼び方するんじゃないの!」


 この反応……ベルクとお忍びで街に繰り出した時、色々あって正体がばれた時のことを思い出すなあ。

 ともかく、非もないのにそうやすやすと頭を下げるものではない。

 俺は自身も膝をつき、務めて優しい声を作った。


「いいんだよ、兄ちゃんで……。

 俺など、そう大した人間ではないんだ。

 まして、お前たちとは同じ人物に師事した者同士……。

 言うなれば、俺が兄弟子であり、お前たちは妹弟子と弟弟子ということになる。

 兄弟同士は、そうかしこまらないもんだ。お前たちがそうであるようにな。そうだろう?」


「そ、そうおっしゃっていただけるのでしたら……」


「じゃあ! これからも兄ちゃんって呼んでいいのか!?」


 サシャが気をゆるめたスキを突き、頭を上げたジャンがそう訊ねる。


「あんたは! 調子に乗らないの!」


 それをサシャはしかりつけたが、俺を含む他の人間は笑い声を上げたのである。




--




 隠れ里で得られる砂糖などを使った料理に慣れつつある舌にとっては、ずいぶんと素朴というか、いかにも調味料の足りぬ味わいに思えてしまうが……。

 サシャが持ってきてくれた玉ねぎパイは、いかにも家庭的な……田舎民の味という品であり、人生半分の地点まで来てなお、この国には俺の知らぬことが山ほどあるのだと思わされた。


 そのようなパイに舌鼓を打ちながら、温められた新鮮なミルクで喉をうるおし……。

 俺は先生に、王宮を出てからの顛末を語っていた。


「――……と、ここまでが、私が『死の大地』で超古代の遺物を発見してからの経緯となります」


「ふうむ……」


 すっかり年老いてしまった先生であるが、健啖(けんたん)さが変わっていないことに関してはほっとする。

 切り分けられたパイをきれいに平らげた先生は、ミルクに口をつけながらしばし考え込んでいた。


「その、『マミヤ』とやらに秘蔵されていた数々の超技術……。

 君のお父上ではないが、話を聞いただけではにわかに信じられぬ……。

 しかし、そちらのお嬢さん――イヴさんを見れば、これは事実として信じる他にないのだろうね」


 常に色彩を変化させながら、輝き続けるイヴの髪……。

 これを見やりながら、先生があごをなでる。

 彼女の髪は既存のいかなる種族にも該当せぬ特徴であり、なるほど、初見でこれは衝撃を受けるだろう。


「軽装であり、ここへ持ち込んできたのはほんの一端に過ぎませぬが……。

 どうぞ、これらをご覧ください」


 俺は机の上に、懐へしまったブラスターや携帯端末、ついでにお土産として持ってきた品々を背嚢(はいのう)から取り出して並べる。

 土産の品は、端的に述べるならば――食料品だ。

 ただし、ただの食料ではない。


 缶詰め、レトルト食品、カップ麺、ビニール袋で包装された菓子類など……。

 いずれも、『マミヤ』から得られた技術を用いて作成された、常温で長期間保存可能な品々である。

 ちなみに、缶詰めに関してはプルタブ方式というのを採用していた。


「なんか、変な道具だなー。

 この変な筒とか、なんに使うんだ?」


 ブラスターに手を伸ばそうとしたジャンを、そっと手で制する。


「それは、極めて強力な殺傷力を持つ飛び道具だ。

 見せはしたが、触らない方がいい。

 それより、本命はこちらの品々だな」


 俺が食料品類を手で示すと、サシャが恐る恐るといった風に手を伸ばして一つ一つ確かめた。


「鉄……? ううん、ちょっと違う……。

 それに、見たこともない袋に包まれてますけど、これは書いてある通り食べ物なんですか?」


「ふむ……。

 サシャ、ちょっと開けてみてくれるかね?」


「はい」


 先生に言われ、サシャが缶詰めを開けようと試みる。

 なるほど、先生から教わった読み書きはしっかり身についているらしく、俺が説明せずとも缶に書かれた説明文を読み解き、どうにかこれを開封することに成功した。

 ちなみに、今サシャが開けたのはイワシの味噌煮缶だ。


「先生、よろしければ一口試してみてください。

 サシャ、ジャンもどうだ?」


 俺にうながされ、先生たちがパイを食べるのに使っていたフォークを用い、缶の中にあるイワシへ突き刺す。

 そしてこれを、同時に食した。


「ほう……」


「うめえ!」


「本当、変わった味だけど美味しい……!」


 冷静に考えてみれば、獣人国風の味付けは馴染みが薄かったな。

 ともあれ、反応は上々なようである。


「これなるイワシ料理……実は、一週間前に調理したものです」


「ほおう……」


 俺の言葉へ、フォークを置いた先生が感心したようにうめく。


「さすがに、実験するだけの期間はありませんでしたが……。

 『マミヤ』で得られた情報が確かであるならば、未開封なら一年以上もの長期間保存が可能とのこと。

 こちらの、『ビニール』という素材に詰められた食品も、およそ半年ほどは保存が可能です」


 菓子類などを手で示しながら、俺はずいと身を乗り出す。


「それで、先生……。

 ――どうでしょうか?」


「うん……面白いね」


 先生の返答は、まさに我が意を得たものであった。

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