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コント:恋バナ 後編

 バキューム車での作業中という、色気どころか臭気(しゅうき)が漂ってもおかしくないシチューエーションでの雑談ではあったが……。

 エンテとの会話は、なかなかに桃色の内容であった。


 しかし、そうか……。

 そう聞いてくるということは、彼女も俺と同じ意見なのだろうか。

 念のため、確認してみることにする。


「逆に聞くが、エンテはどう思ってるんだ?

 やはり、異種族同士の婚姻はありえぬと思っているか?」


「そ、そんなことない!

 アリだ! オレも大アリだと思う!」


 首をぶんぶんと振り……。

 ついでに、手にしたタブレットもぶんぶんと振り回しながら答えるエンテだ。


 うん、やはりエンテも若者らしく、開明的な思想の持ち主か。

 で、あるならば話は早い……。


「実を言うとな、俺は二人の現状に対してもどかしさを感じていたんだ」


「も、もどかしさを感じていたのか!?」


「ああ……」


 やけに大仰な驚き方をするエンテである。

 どうやら、恋愛というものに関する考え方では違いがあったらしい。

 そこら辺は、男と女の違いなのだろうか……いや、単なる個人的な考え方の違いかな?


 まあ、ともかく、言ってみるだけならタダだ。

 自分の考えを告げることにする。


「互いに好き合っているというのに、お互い距離感を測っているだけというのはなんとも言えずもどかしい。

 俺の考えとしてはな、こういうのはサパッとくっ付いてしまうべきだと思うのだ。

 具体的には、結婚という形でな」


「け、結婚!?」


「そう、結婚だ」


 他人の話とはいえ、やはり結婚話となれば盛り上がってしまうのが女子の(さが)だろう……。

 人間のそれよりも長い耳まで真っ赤に染め上がるエンテを見て、笑わないよう注意しながら努めて真面目な声で続けた。


「ちょうど、今はここに人が増え、ようやく隠れ里と称しても違和感がない状態になってきたところだ。

 元王族としての観点から言うとな。こういう時には慶事(けいじ)というものが必要不可欠。

 二人の結婚というのは、まさにそれへふさわしい……。

 総出で二人を祝福し、新たな門出を祝う!

 さすれば、二人のみならず……隠れ里全体の団結もより深まるというものだ」


 我ながら、これはなかなかひどい物の考え方であると思う。

 だが、俺が単なる人情家であったならば、とっとと父上たちと仲直りし……それで祖国を大混乱へおとしいれていたことだろう。


 『マミヤ』という力を得てしまった以上、俺という存在は、時に機械のごとく冷淡に物事を利用せねばならぬ。

 それこそ、キートンやカミヤよりも機械らしく、な……。


「とまあ、俺の考えはそんなところなわけだが……エンテはどう思う?」


「ほえっ!? オ、オレか!?」


「もちろんだとも……事が事だからな。

 エンテの賛同を得るのは、必要不可欠だ。

 それでどう思う……?

 二人の結婚、推し進めるべきか否か?」


 ずずいと歩み寄りながら、問いかける。


「け、けけ……結婚……結婚て……その……えと……」


「どうなんだ?」


 鼻息が吹きかかりそうなほどの近距離から、エンテの顔を見下ろし再度尋ねた。

 何しろ、お相手の一人は彼女の側近だからな。

 エンテが許可しないとなれば、考えを改めねばならぬ。


「……いいと……思います……」


 なぜか目を逸らしながら、エンテが消え入りそうな小声でそう答える。


「ようし! そうとなったら、早速行動開始だ!

 なあに! 全て俺に任せておけ!」


「う……うん……」


 さあ! これから忙しくなるぞ!


 俺がはりきると同時に、バキューム車から吸引終了を告げる電子音が鳴り響いた。




--




 それから数日間……。

 俺が取った行動はといえば、


 ――迅速(じんそく)


 ……の、ひと言であった。


 と言っても、何か特別なことをしたわけではない。

 (くだん)の若きサムライを誘い、エルフの自治区から土産としてもらっていたワインを振る舞い……とっくりと話し込んだだけのことである。

 彼と俺とはほぼ同年代ということもあり、話は大いに(はず)み、やはり寿命から何から違う異種族へ恋慕(れんぼ)することに大いに悩んでいた彼の背中を、そっと押してやることに成功したのだ。


 本当に、そっと押してやっただけである。

 悩み事をする際にはよくあることであるが、彼の心は実のところすでに固まっており……後はただ、最後の踏ん切りとかきっかけとか、そういったものを欲していただけなのだから。


 そこからは、トントン拍子である。


 甲虫型飛翔機(ブルーム)を借り受けた若きサムライが単独行で辺境伯領の森に忍び込み、季節の花々を採取。

 カドーなる技を習得していたウルカ指導の(もと)、これをなかなか立派な花束に仕立て上げ……。

 その花束を誓いの贈呈品とした愛の告白は見事、成功に終わったのである。


 さすがに告白の現場へ居合わせたわけではないが、いざ、それに挑もうとする彼の背中はホマレとやらに満ち溢れたものであったな。


 そして、みんなで大盛り上がりしながら結婚式の準備を進め……。

 ついに、その日は訪れた!




--




「皆の者! 我に続けい!」


 ――ヒャッハー!


 巨馬ゴルフェラニにまたがったオーガを先頭に、モヒカンザコたちの乗ったバイクが爆音を響かせながら走り去って行く。

 彼らの乗り物には、適当に作った缶カラが紐でくくりつけられており……。

 それが地面に当たって鳴り響く音は、旋律もへったくれもないというのに、不思議と参列した者たちの心を躍らせる。


 ちなみに、エンテはそれを真顔で見ていた。


 ドローンの空間プロジェクター技術を使い荘厳な神殿を出現させた空間では、王族のたしなみとして神官位を持つ俺により新郎新婦が愛の誓いを果たし……。

 サプライズとして甲虫型飛翔機(ブルーム)に乗せ連れて来たエルフの長フォルシャを筆頭に、皆が皆、祝いの言葉を投げかける。


 やはり、エンテはそれを真顔で見ていた。


 その後はもう、飲めや歌えやの騒ぎである。

 隠れ里で得られた米や野菜、大豆を加工した肉や魚を使った料理がずらりと並べられる。

 調理の陣頭指揮を執ったのがウルカということもあり、それらは獣人国伝統の品々であったが……やはり空間プロジェクター技術を使って出現させたサクラの樹を背景にすると、何やら不思議と絵になるものだ。


 やはり『マミヤ』の醸造設備で作った米の酒を舐めながら、料理に舌鼓(したづつみ)を打つ。

 肝心の新郎新婦はあまり料理に手を付けず、ただただ互いを見つめ合ってばかりいたが……思えば、俺とウルカの時も似たようなものであったかもしれない。


 その間、エンテは真顔で料理を食べていた。

 酒にも手を伸ばそうとしたが、これは没収した。


 後は……どんなだったかな?

 ちょっと深酒をしたので記憶がおぼろであるが、みんなで協力し建ててやった新居に新たな夫婦が引っ込んでからも、とにかく楽しく騒いでいたと思う。


 ああ、エンテはずっと真顔であったよ。


 やはり、最も近しい者の慶事(けいじ)とあっては、奔放な彼女も緊張を覚えるということなのだろう。

 かわいいやつだ。


 そんなわけで、この隠れ里に新たな夫婦が生まれた。

 なんとも、めでたきことである。


 そして、その後の数日間、エンテは真顔であり続けた。

 ……なんでだろう?

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― 新着の感想 ―
[一言] 肥えばなでしたな。
[良い点] アンジャッシュ状態
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