ブラック隠れ里に務めているんだが、オレ様はもう限界かもしれない 中編
『キートン! お前どうした!?』
キートンの爆弾発言……。
と、いうよりは爆散したい発言を受けて、カミヤがそう問いただす。
しかし、キートンはといえば……。
いつもは謎の自信を感じさせる肩をがくりと下ろしながら、心なしか遠くを見るような眼差しでカメラアイを向けるばかりであった。
『オレ様、最近思うんだ……』
格納庫の天井を見上げながら、キートンがつぶやく。
『毎日、毎日……日の光も差さない地底で穴を掘り進めるばかりの日々……。
ドリドリドリ……ドリドリドリドリと……。
今じゃもう、何もしてない時でもドリルの音が耳に響くありさまだ……。
こんなんでいいんだろうか? オレ様にはもっとこう……生まれてきた、意味みたいなのがあるんじゃないかってな……』
『しっかりしろ! キートン!
生まれてきた意味も何も、地上と地中を開発するのがお前の役割で設計思想だろうが!?』
カミヤがそう言うと、キートンがふっ……と溜め息を漏らす。
『役割……設計思想か……。
なあ、そういうのって、従わなきゃいけないもんなのかな?』
『そりゃそうだろ!?
どこの世界に掃除をしない掃除機がいるってんだ!?』
『いいじゃねえか、掃除をしない掃除機があったって……。
ただ黙然と言われたままに働くロボットより、よっぽどかわいげがあらあ……』
『お前……!』
肩をすくめながらそう言い放つキートンに、カミヤが掴みかからんばかりの勢いで一歩踏み出す。
「まあまあ、カミヤ、落ち着け……」
しかし、そんな彼を俺は手を上げて制した。
ちょっとやそっとのケンカなら、それも必要なことと見過ごしてもいいのだが……。
いかんせん、こいつらはサイズがサイズであり、秘めた機能が機能である。
しかも、ここは『マミヤ』の格納庫内部だ。
うっかりドリルとかビームとか出されたら、エライことになってしまう。
とりあえず、この場に居合わせた俺はまたまた祖父へ会いに行く羽目になるだろう……。
「それで、キートン?
お前が連日の激務に疲れているのは察せられたが、それがどうして華々しく散りたいなんて発言につながるんだ?」
ともかく、彼が疲れてしまっているのだとすれば、それは昼夜を問わぬ激務を強いた俺の責任だ。
ロボットというものは、疲れを知らぬものだと思い込んでしまっていたが……。
キートンにもカミヤにも、心がある。
心というものは、肉体と同様に疲労するものだ。
そこのところを勘定に入れなかった不覚を恥じながら、努めて優しい声で尋ねた。
『ああ、オレ様は仕事をしながら思ったんだ……。
このまま、自分の生まれてきた意味も分からないまま労働し続けるよりは……。
いっそ華々しく、そして格好良く散るのが男の生き様なんじゃないかってな……。
こう、断頭台みたいな名前した巨大宇宙人を抱え上げて、マスターの命令ガン無視しながら彗星に激突する感じで』
『何アホなこと言ってるんだ!
そういうのは、指先からミサイルとかが出るロボットに任せておけ!』
「というか、俺の命令ガン無視されては困るんだが……」
『はは、どうせカミヤには分かんねーさ。
ドラゴン相手に、カッコイイ見せ場があったような奴にはな……』
いやあ、そのカミヤ、前回ギャグで右腕とか吹っ飛ばされたりしてたよ? そんなにうらやましいか?
と、思ったが口には出さず腕を組む。
「うーむ……。
とにかくアレだ。
キートンには、休暇が必要なようだな」
考え込んでみても、導き出されるのはその結論だけだ。
「思えば、初めて出会った日からこっち、お前には無理をさせ通しだったからな。
ここらで、ドーンと休養を取るのも必要なことだろうさ」
――パン!
……と、両手を合わせながら、俺はそう宣言する。
「よし! キートン! お前に休暇を与えることにする!
……それだけじゃない!
俺たち全員で、お前への感謝を表してやるさ!」
これは、いい機会だ。
生活の根底を支えてくれている人物に、全員で恩返しをする……。
さすればキートンも、自身の存在意義を確認し直せるに違いない。
『はあ……』
しかし、キートンから返ってくるのは気のない返事のみであった。
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と、いうわけで……。
俺たちのキートン慰安大作戦が始まった!
「一生! 一面! 悔いありません!」
一同が集う格納庫の中……。
設置された巨大モニターに拳を突き上げながら天へ還っているのはオーガである。
画面の中では、最初の敵キノコを避けられなかった配管工が悲しくその命を散らせていた。
まあ、お前の超ゴツイ手で十字キーを操作できただけでも大したもんだよ……。
「さあ! キートン殿! お次はあなたの番ですぞ!」
『はあ……』
バンホーが差し出したコントローラーに、キートンが指先を向ける。
すると、ドリルへ変形する時と同様……その指先が流体のごとく変形し、人間のそれとそん色ない大きさの両腕が生み出された。
見た目はちょっと気持ち悪いが、繊細な作業をする時には欠かせない三大人型モジュールの機能である。
「そうそう! そうやって敵をよけたり踏みつぶしたりしながら進むのです!」
『まあ、このくらいは……』
「おお! 花を取りましたな! どうです!? 火の球を放ちながら何も出来ぬ敵を倒していくのは爽快でしょう!?
いやはや、拙者は魔術を使えませんが魔術師になった心地ですな!」
『そ、そうだな……』
「ほう! そのブロックに隠されたツタを発見しましたか!?
お見事! 拙者らはその隠し要素へ気づくまでに結構な時を要したものです!」
『そ、それほどでも……』
――さすがだ! バンホー!
ヨイショ……圧倒的ヨイショ……!
彼のおだて上げっぷりは、はたから見ていれば露骨なほどである。
しかし、これこそサムライの長にまで上り詰めた彼の処世術……。
露骨な言葉を、しかし、そうと認識させぬ……。
絶妙な呼吸と声色をもって、巧妙に相手の自尊心を満たしてやるのだ!
思えば、最初にオーガを使って見本遊戯を披露させたのも彼の策略……。
何しろオーガは何事にもガチすぎる漢女なので、そんなこいつが本気で挑んで敗れた箇所をすいすいクリアすると、なんか自分がすごく上手いように錯覚できてしまうのだ!
それにしても、カタナの腕で出世したわけじゃないんだ? バンホー……。
どこの国でも、仕官し身を立てるというのは大変なものであるのだなあ……。
『なんか……ちょっと楽しいな……』
王族出身者がしみじみと世の無常さを感じている中、キートンは少しだけテンションを上げていた。




