表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/392

キートン

「――はっ!?

 ここは誰!? 私はどこ!?」


 どうやら、机に突っ伏して眠っていたのだろう……。

 がばりと上体を起き上がらせた俺は、同時にそう叫んだ。


「質問が逆になっていると解釈します。

 ここは『マミヤ』の食堂で、あなたはマスター……アスル様です」


 かたわらに控えていたイヴが、俺にそう説明してくれる。

 からにした食器類がないところを見ると、寝ている間に片づけてくれたようだ。


「そうか……俺は……眠ってしまったのか……。

 ――なんで?」


「おそらく、急激に栄養を摂取して体が驚いたのでしょう。

 その証拠にスキャンした結果、現在のマスターは万全の状態です。

 それもこれも、私が調合したドリンクのおかげですね」


「そうか!

 言われてみれば体が軽い……。

 イヴのおかげだな!

 ハッハッハッハッハ!」


「はっはっはっはっは」


 俺の笑い声に、新人役者のようなたどたどしい笑い声でイヴが追従した。

 体からは不思議と活力が湧いてくるし、口の中はすごくスッキリしてるし、あれは本当にすごい飲み物である。

 でも、不思議と二度と飲みたくはないゾ!


「マスターの衛生状態及び、栄養状態が改善されたことを確認しました。

 以後の指示をお願いします」


 ひとしきり笑い合った後……。

 常に色彩の変化する髪を揺らしながら、イヴが無表情にそう訊ねてきた。


「指示……。

 指示、か……」


 エイヨウ、とやらが全身を巡ったおかげだろう……。

 冴え冴えとした頭を駆使し、考える。


「特に何もないようでしたら、用意させていただいたお部屋でお休み頂くことも可能ですが?」


「いや、イヴのおかげで疲れも眠気も不気味なくらい吹き飛んでいる。

 ここは一つ、この船――『マミヤ』についてお勉強がしたいな」


「勉強、ですか」


 まるで、糸に操られているかのような……。

 独特の動きで、イヴが首をかしげる。


「それは、どのような勉強でしょうか?

 本船のスペックを知りたいのか、もしくは造船の経緯について知りたいのか……。

 それとも、他の何かについて知りたいのかで、提示するデータが異なります」


「それらに関して、イヴが教えてくれるということか?」


「イエス。完璧なデータを提示します」


 相変わらず表情に乏しいというか、全くの無であるが……。

 間髪入れずに即答した姿からは、絶対の自信がうかがえた。


「そうだな……この船がどのような経緯で造られたのか……。

 そして、俺のご先祖はなぜこれを眠らせたのか……。

 確かに気にはなる、が……」


 言葉をつむぎながら、考える。

 これは、長いこと『死の大地』をさすらう中で身に着けた悲しい習慣であった。


「……今は、過去よりも未来のことを考えたいな。

 イヴ、あらためて聞こう。

 この大空洞の上には、俺たちが『死の大地』と呼んでいる広大にして不毛の荒野が広がっている……。

 それを緑あふれる土地に変えることは可能と聞いたが、具体的にどのようにやるのか教えてくれ」


「承知しました。

 それでしたら、実際にモジュールをご覧いただくのが早道であると判断します」


「モジュール?」


「この船に搭載された三大モジュールの一つです。

 極めて便利な道具、とお考えいただければ間違いありません」


「便利な道具、か……」


 おそらくは、魔道具のようなものだろうか……。

 超古代文明が作り上げた、『死の大地』をも作り変えられる道具……。

 こいつは、俄然(がぜん)興味が湧いてきた!


「よし、見よう。

 そのモジュールとやらに、案内してくれ」


「承知しました。

 キートンの格納庫へと案内します」


 シャワールームやこの食堂へ案内された時と同様……。

 俺はイヴにうながされ、船内を歩んだ。




--




 部屋そのものが上下へ移動する、エレベーターなる奇怪な乗り物? などを用いてたどり着いたそこは、どうやら『マミヤ』の船腹部に存在するようだ。


「ここは……ずいぶんと広い空間なんだな?

 ここまでの狭い通路が、嘘みたいだ」


 格納庫なる巨大な空間を見渡しながら、俺はそうつぶやく。

 素早く目測してみるが、天井までは20メートル以上あるだろう……。

 全体の体積はといえば、これはもうどれほどだろうか?

 間違いなく、王都の大神殿が誇る講堂よりも広い。


「格納庫は空間圧縮技術を用いていますので、実際にこの大きさがあるわけではありません。

 後学までに、覚えておいてください」


 よく分からないが、見かけの大きさとは違うということか?

 ……本当に、何から何まで不思議な技術で造られた船だ。


 そんな船の、格納庫……。

 そこには、やはり不思議な物体が三つばかり存在していたのである。


「鋼鉄の……巨人……」


 見たままに、特徴を言い表す。

 そう……。

 それらは、全身を見たこともない光沢の金属で形成された、巨人であった。

 それぞれ、特徴的な姿をしており……。

 三体のいずれもが、片膝をつく形で静止している。


「これらは、当船が誇る三大人型モジュールであり、いずれもマスターの目的を助ける役に立つ存在です」


 腰まで届く髪を七色にきらめかせながら、イヴが俺にそう告げた。


「そして、今回のオーダーに最も沿った能力を持つのがこちら。

 自立式人型地上開発モジュール。

 識別ネーム『キートン』です」


 イヴが三体の内、真ん中でひざまずく巨人を片手で指し示す。


「キートン……」


 俺はその巨人の名を、反芻(はんすう)するようにつぶやく。


 まるで、イカに人間の四肢を生やしたかのような……。

 一見すれば、そのような印象を抱く意匠である。

 人間でいう顔にあたる部位は鼻と目のような部品こそ存在するものの、口と呼ぶべき部位はなく……。

 頭頂はこれもイカの先端部によく似た帽子状となっており、そこだけを見れば神官かはたまた料理人かという装いであった。


 そんな風に、しげしげと観察していたその時である……。

 キートンの両眼部に光が灯り……。

 人間に比べ明らかに可動部の少ない首が回り、俺の方を見据えたのだ。


『オレ様がキートンだ。

 よろしく頼むぜ、マスター』


「あ、ああ……よろしく。

 お前も、しゃべれるんだな?」


 いい加減、超古代の技術にも慣れつつある俺が若干臆しながらそう答えると、それが笑いの表現なのだろうか……キートンの両目がチカチカと点滅する。


『オレ様たちの人工頭脳は特別品だぜ?

 話すくらいはわけもない。その気になれば、ジョークだって言えらあ。

 上手に使いこなしてくんな。マスター!』


「ああ……必ず使いこなしてみせる!」


 キートンたち三大モジュールとやらは、いずれも全長9メートルほどはあり……。

 さすがに握手することはかなわないので、握り拳をかかげることでその意思を示す。


 それが、三大モジュールの中で最も多く働いてもらうことになる忠臣――キートンとの初顔合わせだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] 年代的にバビル二世を思い出すよ
[一言] 便利な道具でひみつ道具を連想し、剛鉄の巨人でガンダムを想像した…… ビームライフルとかあっかな⁉︎レールガンは欲しいなぁ‼︎
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ