奴隷ヒロイン登場! 後編
鋼鉄の巨体は、ゴルフェラニにまたがったオーガすら凌駕するほどであり……。
全身は、赤を基調としたカラーリングに染め上げられている……。
彼の名は、カミヤ。
『マミヤ』が誇る三大人型モジュールの一人であり、この場に馳せ参じた――救世主!
「ほう……」
だが、竜種すら一蹴した巨大戦士を前にして、オーガの顔から余裕の色が消えることはなかった。
「ケンシ――カミヤよ。
うぬが、我の覇道を阻もうというのか?」
『ラオ――オーガよ。
貴様の無法、見過ごすわけにはいかぬ』
なぜか互いの名前を言い間違えそうになった両者が、静かに向き合う。
ロボットであるカミヤに表情などは存在しないが、普段と異なるその言葉使いからは飽くなき闘志をうかがい知ることができた。
その証拠に、見るがいい……。
互いの気迫がぶつかり合った結果、二人の間に存在する空間が歪んで見えるではないか……!
ロボットと人間……。
命なき者と、ある者……。
超古代から目覚めた者と、当世に世を受けし者……。
カミヤとオーガの境遇は、全く異なり……重なり合うところなど存在しない。
しかし、向かい合う両雄の姿からは、理屈などでは計り知れぬ宿命や因縁を感じ取ることができた。
それを、天も感じ取ったのだろう……。
今はまだ、昼時だというのに……。
空を見れば、これまで見たことがない七つの星が浮かんでいるではないか!?
遥か天上におわす存在もまた、固唾を飲みながら二人の戦いを見守ろうとしているのだ!
よくよく見れば、天に浮かぶ星は七つだけではない……。
その脇に輝く小さな星が、俺の目にははっきりと映った。
「よかろう……貴様の挑戦、受けて立ってくれるわ!」
睨み合っていたところで、らちがあかないと踏んだのだろう……。
ゴルフェラニを降り地に立ったオーガが、兜を脱ぎ捨てる。
「ふうん!」
そして彼女? が気合を入れた、次の瞬間だ。
――ずもももももっ!
「……なんか、巨大化したんだけど?」
「分かりませんか?
オーガのまとったすさまじい闘気が、あたかも巨大化しているように錯覚させているのです」
いつの間にか傍らへ立っていたイヴへ問いかけると、彼女はいつも通りの無表情でそう解説してくれた。
その髪色がいつになく目まぐるしく変化し、のみならずピカピカと光っているのは興奮しているからだろうか?
「いや、でもさ? 影とか普通にできてるよ?」
「目の錯覚です」
「いやでも……」
「錯覚です」
「……うす」
まあ、理屈はともかく巨大化したもんはしょうがない。
ともあれこれで、カミヤとオーガの大きさは――互角!
『コオオオオオ……!』
ロボットがそうする意味はあるのか……。
呼吸を整えながら構えたカミヤが、トン、トンとその場でステップを踏み始める。
「あれは……!?」
それを見て、俺は深くうなった。
一見すればカミヤはただ、その場でトントンしているだけに見えるだろう。
だが、俺には分かる……。
これは、一世代前を主役にした番外編とかで、実はすごい技だったことが明らかになったりしそうな秘術だ!
「ぬうううううん……!」
対するオーガはといえば――不動!
ただ無造作に両腕を突き出した構えをしているが、見る者が見れば微塵のスキも存在しないと分かる。
カミヤが軽だとすれば、オーガは剛!
二人の構えは、実に対照的だ!
『…………………………』
「…………………………」
鋼鉄の巨人と生身の巨人は、しばし睨み合っていたが……。
先にカミヤが――仕掛けた!
『あたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた!』
人間に比べ関節可動域の狭いロボットが放ったとは思えぬ、無数の拳打……。
俺の目には残像ばかり映るそれが、一斉にオーガへ襲いかかる!
「むううううううううううんっ!」
しかし、オーガもさるもの……。
カミヤに劣らぬ速度で無数の掌打を繰り出し、そのことごとくを受け止めてみせたのだ!
『おあたあっ!』
「ふうんっ!」
互いに踏み込んでの右ストレートを放った両者の体が、交差する……。
この攻防――勝者はオーガだ!
その証拠に見よ! 竜種の攻撃ですら傷一つつかなかったカミヤの右腕が、無惨に破壊され吹き飛び……俺の方へと飛来してくるではないか!?
「へ?」
え、俺の方?
「あ」
『あ』
「むう……」
迫りくる右腕の残がいにより、視界が塞がりゆく中……。
イヴとカミヤ、そしてオーガの声が聞こえた。
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いつもの入りまーす。
というわけで俺は、夢を見た。
夢の中は、『死の大地』もかくやという荒涼とした大地であり……。
「ヒャッハー! 水だ!」
そこでは死んだはずの祖父――ロンバルド17世が、モヒカン肩パットという姿で無辜の民から水を奪い、頭から浴びていたのである!
とても世紀末な、夢だった……。
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「はっ!? 夢か!?」
『マミヤ』の中に存在する自室……。
見慣れた部屋の寝慣れたベッドの上で、俺はがばりと起き上がる。
体を見回すが、傷一つ存在しない。
その事実に気づいて、ほっと安堵の吐息を漏らした。
「そうか……いや、そうだよな……。
あんなでかい女、この世に存在するはずがないんだ」
胸をなで下ろしながら、そうひとりごちる。
「それにしても、よく寝たなー。
体が驚くくらいに軽いぜ!」
ベッドから出て、軽く伸びをしてみた。
体は、まるで新品のように快調である。
「それにしても、おかしな夢を見ちまったぜ。
そうだよな。竜より強いカミヤより強い存在なんてのがいたら、今後どれだけシリアスな展開が起きてもそいつに任せればよくね? てなっちゃうもの。
そんな奴の存在、天が許すはずないんだ」
我知らず早口になりながら……。
己へ言い聞かせるようにそうつぶやく。
「ようし! スッキリしたところで、お外を散歩でもするか!」
そうして俺は、意気揚々と船外へ飛び出したのだ。
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そんなわけでやって来た、隠れ里の田園地帯……。
「天を見よ!
今日も絶好の稲作日和ぞ!」
――ヒャッハー!
そこには、元気よく拳を突き出すオーガとモヒカンザコたちの姿が!
「ちくしょうめええええええええええっ!」
俺の絶叫が、響き渡った。




