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闇の会議

 エルフの少女数名に、五十人近くの奴隷たち……。

 新たな住民を受け入れたある日の深夜、『マミヤ』内部のブリーフィングルームへ集まる者たちの姿があった。


「では、これより……極秘会議を始める」


 無意味に薄暗くされたブリーフィングルームの中……。

 大円卓の上座に座るのは、もはや説明するまでもない……。

 いよいよこの地へ独立勢力を築き上げつつある青年、アスルである。

 大円卓にはその他、バンホーたち獣人のサムライ衆も(つど)っていた。


 アスルと、七人のサムライたち……。

 これから話し合いを行うのはこの八人のみかといえば、そうではない。


『まずは、我が娘を始めとする者たちを受け入れてくれたこと……。

 そして私に携帯端末とソーラー充電器を預け、この会議に参加させてくれたことを深く感謝する』


 ブリーフィングルームに備わった空間プロジェクターを駆使し、演劇の書き割りがごとき姿で着席する人物……。

 エルフの長フォルシャを加えた九名こそが、この極秘会議におけるメンバーであった。


「長フォルシャよ、気になさるな。

 俺以外に魔術へ()けた者が増えるのは喜ばしいし、傘下として受け入れた以上、ライフルはともかく連絡手段を預けるのは至極当然のこと……」


『そう言っていただけたならば、何よりです。

 ところで、娘はちゃんとやっておりますかな?』


「拙者も折に触れては様子を見ておりますが、かの戦いで消耗したライフルのメンテナンスから、炊き出し、洗濯に至るまで……。

 『マミヤ』の設備も使ってのこととはいえ、地味な雑用仕事をよくこなしておりますぞ。

 さすがに、先日の一件はこたえたご様子ですな」


『バンホー殿にそう言っていただけたならば、私もまずは安心できるというもの……』


 これは、エルフの長というよりは一人の父親としての顔だろう……。

 心よりほっとした顔で、長フォルシャが胸をなで下ろした。


「だが、安心してばかりもいられまい……。

 なんとなれば、俺たちがここにこうして集ったのは、エンテに関して話し合うためなのだからな」


 きりり、と……。

 今までにないくらいのリーダーヅラをしてみせながら、アスルが重々しく口を開く。

 そして、手元のキーボードとマウスを操り、大円卓に数枚の画像を映し出した。


 画像はいずれも、エンテが立ち働いている様子である。

 アングルといいシチュエーションといい、実に様々であり……。

 魔物の頭目すら討ち果たした実力を存分に発揮し、盗撮の限りを尽くしたことがうかがえた。


「この写真で分かる通り、彼女は懸命に働いてくれている……。

 ――郷里から持ち出した装束でな」


 アスルが言った通り……。

 エンテが身に着けているのは、集落からそのまま持ち込んだ男児のごとき代物であった。

 可憐さも何もない……。

 ただ、動きやすければいいという心中がうかがい知れる代物である。


『前々から、もっと女の子らしい服を着てはどうかと言ってはいた。

 が、聞いてくれることはなくてな……。

 どころか、あまりしつこくすると軽蔑(けいべつ)の眼差しすら向けてくる始末……』


「フォルシャ殿、心中お察ししますぞ」


 長フォルシャの言葉に、バンホーがうなずく。


「拙者も、ウルカ様の新しい装いをまじまじと見ていたら、同じような目を向けられましたからな」


「スカートのところばかり見ていたからだと思うぞ?」


 親友経由で仕入れたそれを嫁にプレゼントしたアスルが、あきれ顔を老練のサムライに向ける。


「ですが! あの絶対的な領域は否が応でも目を引きます!

 ばかりか! 失われた青春が戻ってくるかのごとき心持ちですぞ!」


「気持ちは分かるがそこまでにしておけ。

 あまり行き過ぎれば、セップクとかいうのを命じなければならなくなるぞ」


「むぐ……」


 冷たい目を向けられたバンホーが押し黙った。

 代わりに、長フォルシャが口を開く。


『さておき、エンテも年頃……。

 そのように目を引く、女の子らしい服を着せてあげたい……それが我が親心というもの。

 今回、そちらの隠れ里へ移り住んだのはまさにその好機!』


 プロジェクターに映し出されたエルフの長が、ぐっと拳を握りこむ!


『そちらのサムライ方が、がらりと装いを変えたように……。

 ごく自然な流れで新しい服を提案することができる! この機会を逃す手はない!』


「うむ……」


 アスルがうなずいてみせたが……。

 それに、異を唱える者が存在した。

 この場に呼ばれたサムライの一人である。


「ですが、無理に押し付けたりせず、着たいものを着るのが一番ではないですか?

 確かに、あのズボン姿は女子(おなご)のものとは思えませんが、見ようによっては活動的でこれもよ――」


『――馬鹿野郎!』


 プロジェクターが映す虚像に過ぎぬはずの長フォルシャが拳を振るい、それを(くだん)のサムライへめり込ませた!

 物理法則も、クソもない……。

 ギャグパートだと思ってやりたい放題である。


『いつの世も、貴様のような半端に意識の高い者が悲劇を生み出すのだ!

 覚えておくがいい!

 女子(おなご)の服装はミニのスカートが鉄則!

 そして! 緑髪と眼鏡は避けねばならぬ!

 これなるは、エルフに代々伝わりし秘伝だ……分かったか!?』


「ふぁ、ふぁい……」


 なぜ殴られたのか……。

 というか、どうやって殴ったのか……。

 そして、エルフはなんでそんなくだらないことを秘伝として伝えてきてしまったのか……。

 何も分からないサムライが殴られた頬を押さえつつ、とりあえず同意を示す。


「分かってもらえたところで、話を進めよう……。

 エンテのみではなく、エルフの娘衆やついでに奴隷たちへも、この機に新しい装束を提供する。

 まあ、奴隷は俺たちと同じ服でいいだろう……。

 肝心のエンテたちに渡す服だが、『マミヤ』のデータベースを調べて候補を見つくろった」


 アスルが操作すると、大円卓に無数の衣装が映し出される。

 露出は抑えながらもかわいらしさは追求したものから、いかにも大胆なものまで……。

 これなるはまさしく――超古代の人々がつちかってきた被服の歴史!


「ひとまず俺は、このセーラー服というのを推させてもらおう」


『私はこの旧スクール水着を支持する』


「悩ましいですが……拙者はこのメイド服が良かろうと思います」


「バンホー殿! それは皇国の女給仕が着ていたのと似た衣服……(ほまれ)を忘れてしまったのですか!?」


「死にましたー(ほまれ)は先の(いくさ)で死にましたー」


『断固として旧スクール水着を支持する』


 バンホーと配下のサムライが言い合い、長フォルシャは決然とした顔で一つの衣装を提案し続ける……。

 ミニスカートの鉄則とやらは、どこへいったのだろうか?


「ふ……こいつは、長い夜になりそうだな」


 ニヒルな笑みを浮かべながら、アスルはそんな一同を見渡した。




--




 そして、かれこれ数時間にも及ぶ会議の(のち)……。

 ついに新たな衣装は決定したのだ!


「上半身セーラー! スカートなし! 代わりに下へ旧スク! アクセントとしてメイドエプロン!

 みんな! これで決まりでいいな!?」


「拙者らに異議はありませぬ……」


『ふむ……結局、いいとこ取りで収まりましたな』


 長きに渡る会議で、無駄に頭を煮え立たせた男たちが首肯する。

 気がつけば、すでに時刻は早朝を示していた。


「よし! ではこの決定案を送信し、ただちに『マミヤ』の製造施設で製作に取りかかるぞ!

 ポチッと――」


 ブリーフィングルームの自動ドアが開いたのは、その時である。

 開けたのは、アスルからプレゼントされた王国様式の装束を着たウルカであり……。

 彼女は、人数分のお茶が乗せられたカートを押してきていた。


「皆さん、何を話し合ってるのかは存じませんがお茶を入れたので――あら?」


 ウルカの視線が、モニター機能を発揮する大円卓に注がれる。

 そこに映された様々な画像を見て、その目から感情の色がス……と消え去り。


「……何を話し合っていたのか、説明して頂けますか?」


 竜ですら震え上がるだろうほどに冷たく、迫力のある声がその唇からつむがれた。




--




 結局、洗いざらいをげろさせられた上、当然ながら、謎の悪魔合体を果たした新衣装案は却下され……。

 それはそれとして、新しい服っていいよねというガールズトークで盛り上がった女子メンバーにより、新衣装は作成されたのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] とてもくだらんページでした
[一言] (殴られた侍君の主張割とわかる……)
[一言] 緑髪と眼鏡忌避は「君が◯む永遠」ですか? ネタわからなくて検索しました汗
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