二つの決着
『勝負ありだぜ!
モンスターといえど、限りある命……。
このまま帰るなら、よし。
帰らないなら……』
竜種が誇る最強の攻撃を受け、なおも傷一つない姿を晒し……。
戦力の違いというものを誰の目にも明らかな形で見せつけたカミヤが、びしりと指を突き出した。
「――――――――――ッ」
突き出された竜種が、それでもなお戦意に燃えたうなり声を漏らす。
『やはり、引かないか……。
お前たちモンスターというのは、どうしてそこまで俺たちを敵視するんだ?
こちらには、この星を破壊しようという意思はない。
そういうのは、昔の大戦でコリゴリだからな』
人間がそうするように……。
肩をすくめてみせながら、カミヤがなかば独白じみた言葉を漏らす。
その人工頭脳によぎるのは、かつての日……彼らを生み出した銀河帝国がもたらした、悲惨な光景の数々であった。
もう二度と、あのような惨事を起こしてはならない……。
その決意があったからこそ、先代のマスター者たちはあえて『マミヤ』を封印したのだ。
当代のマスター――アスルが、呼び起こされた『マミヤ』をどのように使っていくかはまだ未知数のところがある。
しかし、もし間違った方向へ舵を切るつもりならば……。
何があっても、自分たちはそれを止めるだろう。
それが、『マミヤ』のマザーコンピュータも含めた総意なのであった。
「――――――――――ッ!」
だが、そのような思いは竜種に届かない。
ばかりか、再び大口を開き、再度の火炎放射を試みようとしているのだ!
『それが答えか……。
なら、仕方がないな』
命を持たぬカミヤであるが、その大切さは痛いほどに思い知っている。
だから、心底から残念な思いでそう吐き出した。
そうすると同時に、キッと顔を上げる。
もしも人間であったならば、その表情は決然としたものであったことだろう……。
『――それはもうさせないぜ!』
そしてカミヤの姿が――消えた!
その背に装備された、ウィングマント……。
単独での恒星間移動すら可能な力を呼び覚まし、瞬時に間合いを詰めたのである。
音速を越えたことによる空気抵抗も、衝撃波も関係はない。
人間が歩くかのような造作もなさで、カミヤは竜種の眼前へと肉薄を果たしていた。
「――ッ!?」
今まさに火炎を吐き出そうとしていた竜種の目が、大きく見開かれる。
それを見れば、あわれみの念が湧かないわけでもない。
だが、もはや降伏勧告は済んだ……。
今を生きる人間たちの脅威とみなした対象に、これ以上の情け容赦をする必要なし!
カミヤはどこまでも――マシーンなのだ!
『とうっ!』
鋼鉄の膝蹴りが、竜種の下顎へ深々と突き刺さる!
「――――――――――ッ!?」
これを受けた竜種が声ならぬ声を漏らしながら、高空へと打ち上げられた!
強制的に閉じられた口からは吐き出そうとしていた炎がチリチリとこぼれ出しているが、こうなってはもはや、それを放つどころではない。
コウモリのごとき巨大な翼も、姿勢制御の役には立たず……。
もはや浮遊する余力も残っていないのか、きりもみ回転しながら落下してくる。
それに向けて、カミヤが寝そべるように空中で静止した。
腹部に存在する発射口が展開し、内部に充填されたシネラマ粒子が桃色の輝きを放つ!
これこそは、カミヤに搭載された最大最強の火器……。
本来ならば、宇宙開発時に遭遇する様々なスペースデブリを破砕するための装備である。
『シネラマ――――――――――ビイィィィム!』
まるで、通常ならば出せぬ音程の声を無理矢理吐き出すかのように……。
なかば金切り声じみた絶叫で、カミヤがこれなる武装の名を叫ぶ!
それと同時に、腹部から桃色の荷電粒子が撃ち放たれ――落下する竜種へと直撃した!
「――――――」
断末魔の叫びすら、かき消し……。
細胞の一片に至るまでもシネラマ粒子に焼き尽くされた竜種が、跡形もなく消滅していく……。
わずか数秒の照射で、最大最強の魔物はこの世界から完全に消え去り……。
後にはただ、天へ屹立する光の柱がごとく粒子ビームが立ち昇っていた。
完全なる、決着である。
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赤き巨人と竜種との戦い……。
いや、これを戦いと言っていいのだろうか?
あまりに一方的な展開となったそれは、眼下の森林に存在するあらゆる生物が目撃するところとなった。
「すごい!」
「まさか竜種を、一方的に討ち果たすとは……!」
「あれなる巨人は、一体……?」
「もしや、神の使いか?」
「いや、『マミヤ』から出てきていた……。
ならば、アスル殿の配下であるに違いない!」
自治区中のエルフが立てこもる集落で……。
あるいは、魔物を迎撃すべく潜んでいた森の中で……。
エルフらが天を指差しながら、次々と叫び声を上げる。
最大最強の魔物――竜。
その実力は圧倒的であり、あれ一体で此度大発生した魔物全てを上回ることであろう。
それが、あっさりと倒された。
その事実は、エルフ兵らを否が応でも勢いづかせたのである。
「――――――――――ッ!?」
「――――――――――ッ!?」
「――――――――――ッ!?」
それと対照的な様相を見せたのが、魔物らだ。
あの竜は、群れの一員というわけではない。
しかし、はるばる遠方から駆けつけてくれたその目的は明らかに自分たちと一致しており、妙な武器と恐るべき緻密な連携で迎撃してくるエルフらを、一網打尽にしてくれるはずだったのである。
その目論見が、もろくも崩れ去った。
しかも、そればかりではない……。
進軍に際し、選び抜かれた強力な個体らが合体することで生まれた、彼らの統率者……。
声ならぬ声で魔物らに指令を送っていた頭目からの意思が、先ほどから途絶えていたのである。
最強の援軍が討ち果たされ……。
指揮を執るべき存在も行方知れず……。
こうなってはもう、文字通り烏合の衆だ。
連携も、何もなく……。
士気高く襲いかかってくるエルフらを前に、圧倒的な数を誇っていたはずの魔物らはことごとくを討ち取られたのである。
地上での戦いも、ここに決着を見た。