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辿り着いた場所

「コルナ、大丈夫か?

 俺が、分かるか……?」


 力が抜け落ち、気絶したかのようにその場へくずおれた姪っ子を支えてやりながら、そう呼びかける。

 果たして、惑星の意思が、いつ頃からこの子を傀儡(かいらい)としていたかは分からない。

 しかし、最低でも、魔物が大量発生するようになった時期にはそうだったわけであり、かなりの長期間、コルナは自分の意思を失っていたことになる。

 果たして、その影響はいかなるものか……。


「ん……う……」


 うなされるようにしながら、コルナがゆっくりと目を開く。

 そうして作られた表情は、先ほどまでの妖艶(ようえん)さすら感じられるものとは全く異なる、ごく自然なもので……。

 これこそが、コルナ・ロンバルド本来の顔なのだろうと、納得することができた。


「おじ……様……?」


「ああ、君の叔父だ。

 最後に会ったのは、ずいぶんと昔のことだが、俺のことを覚えているか?」


「はい、分かります。

 何もかも……」


「そうか……」


 その言葉から、惑星の意思が取り憑いていた間の記憶もあるというニュアンスを汲み取り、うなずく。

 素人診断ではあるが、ひとまず、体に後遺症などはなさそうだ。

 俺が、ほっと息を吐き出した、その時である。


「うっ……!?」


 脇腹に、熱い感覚があった。

 ズブリと、まるで焼きゴテを押し付けられているような感覚……。

 腹の内側が、燃え盛るようだ。

 それも、そのはずだろう……。

 俺の腹には、小さなナイフが突き立てられており……。

 その柄を握っているのは、俺が支える姪っ子だった。


「ふっ……うっ……!」


 コルナが、両の瞳から涙を流しながら俺を睨みつける。

 幼いながらも、その視線には確かな殺意が込められており……。

 父親の仇に向ける眼差しとしては、及第点であると思えた。


「………………」


 俺は、何も言わずコルナに当て身を食らわせる。

 すると、彼女はあっさりと気を失い……。

 俺は彼女が頭を打ったりしてしまわないよう、そっとその場に横たえてやった。


「ライジングスーツを解除してたのは、失敗だったかな……」


 そうつぶやきながら、腹からナイフを引き抜く。

 しょせん、幼き子供が隠し持っていた刃物だ。

 刃渡りは短いし、致命傷には程遠い。

 ただ、場所が場所だからな。ちっとばかり出血してるんで、早いとこ治癒魔術で傷を塞ぐべきだろう。


 ――カラン!


 しかし、ナイフを投げ捨てた俺はそうせず、どっこらと花壇の(ふち)に腰を下ろした。

 なんというか、ひどく、疲れていた。

 治癒魔術を使うのも億劫なくらい、疲れ果てていたのである。


 それに、今は腹の内から全身を焼け焦がすようなこの痛みを、しばらく味わっていたかった。

 そうする義務が、自分にはあると思えたのである。

 空を仰ぐ。

 地上の人間たちが、こんなにドタバタと殺し合っているというのに、憎たらしいくらいに綺麗な青空だった。


「ビルク先生……」


 そうしている内に、口から漏れたのは師の名である。

 先生の言葉が、思い起こされた。


 ――私たち国民の幸せは、確かに大切だろう。


 ――しかし、君個人の幸せもそれに勝るとも劣らず大切な物なのだよ。


「私は……」


 父も、兄たちも失い……いや、自分の手で殺し、こうして今、姪に腹を刺されている。

 なんとも言えず滑稽(こっけい)で、自分のことでないならば、笑っていたにちがいなかった。


 こういう結末になるのは、最初から分かっていたことだ。

 分かった上で、この道を選んだ。

 だから、後悔はない。

 ただ、この腹に刻まれた傷よりもなお、痛むものを感じるのは致し方ないことだろう。


 俺はしばらく、空を見上げたまま座り込んでいた。

 太陽の光は、そんな俺を照らし続けていたのである。


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