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橋頭保

「行け行け行け行け!」


「この勢いに乗って、一気に突破するんだ!」


 いまだかつて、一度も戦火に見舞われたことがないロンバルド城の攻略戦……。

 その先鋒として選ばれたハーキン辺境伯領の騎士たちは、消滅した門の跡地を勇猛果敢に通り抜けていた。


「――がっ!?」


「――くうっ!?」


 当然ながら、敵も無抵抗ではない。

 城門さえ突破すればたやすい、というわけでないのが城という建築物の奥深さで、城内各所に存在する狭間(さま)からは、無数の矢が射かけられていた。

 それは、消失した門から城の入り口へ至るまでの中庭に集中しており、籠城戦に突入してなお庭師たちが守ってきたのだろう美しい景観は、今や、突入せんとする騎士たちとそれを迎え撃つ矢の雨とで、地獄絵図と化しているのだ。


 降り注いだ矢は、兵たちの一部に浅からぬ傷を負わせ、不運な者の命脈を断ったが……。

 その絶対数は、そこまで多くはない。

 そうなった理由は、辺境伯家の騎士たちが構えた盾にある。

 それぞれの家紋が描かれたそれは、剣をブラスターに持ち替える前から愛用していた品であるが……。

 その強度は、以前の比ではない。


 盾の表面には特殊な塗料が塗られており、それが、たかが木製の板に圧倒的な硬度を付与してくれているのだ。

 通常、矢を防げば弾ききれなかったそれが盾に突き立つこととなるのだが、それを許さず、完璧に表面で弾いているのだから、その防御力がうかがえる。


「よし! プラズマボムを投げろ!」


「投うううぅぅてきいいいぃぃ!」


 盾と幸運に助けられて矢をかいくぐり、ついに、城内に至る大扉へ接近した騎士たちの何人かが、腰のプラズマボムを投てきした。

 そこへ現出したのは、先ほど『マミヤ』が見せた、神秘的にすら感じられる光景の縮小版だ。


 起動したボムは、荒れ狂う雷のムチを発して大扉を焼き砕き……。

 城壁の大門には劣れど、十分な厚みと強度を有するはずのそれが、たちまち消滅したのである。


「ようし!

 突入するぞ!」


 盾を構えた騎士たちが、続々とロンバルド城に乗り込んでいく。

 歴史ある王家の城は、入ってすぐに大広間が広がっており……。

 Y字型に広がる大階段からは階上へ、四方に存在する出入り口からは、城内一階の各施設へ移動することが可能な造りとなっている。


 これは、普段の治世における人の行き来がしやすいよう考え抜かれた設計であり……。

 同時に、このような緊急事態において、入り込んできた不埒(ふらち)者たちを四方八方から包囲殲滅するための構造でもあるのだ。


「くるぞ!」


 合図も、何もなく……。

 大階段や四方の出入り口に待ち受けていた敵兵たちが、次々に矢を射かけてくる。

 上一方向からだった先までとは異なり、様々な角度からの攻撃……。

 これに対する辺境伯領騎士たちの対応は、完璧なものであったといえるだろう。


「訓練を思い出せ!」


「全員で、亀の甲がごとく守りを固めるんだ!」


 ――ファランクス。


 突入した全員が、互いの盾と盾を少しずつ重ね合わせることで、全方位から迫る攻撃を防いだのである。

 そもそも、正統ロンバルドを指導するのはかつての第三王子アスル・ロンバルドその人であり、緊急時、ロンバルド城内がどのように守りを固めるかは、知り尽くしていた。

 そのため、王都フィングを攻囲する日々の中、先鋒として選ばれた辺境伯家の騎士たちは、それらに対応するための訓練を徹底して施されていたのである。


 とはいえ、いざ突入という際、誰がどの配置を埋めるかは完全に水物という状況下で、完璧に訓練通りの動きをしてみせたのだ。

 彼ら騎士たちの団結と精強さが、うかがい知れよう。

 ロンバルド一の大騎士、ケイラー・ロンバルドが率いた軍勢との二度に渡る戦いは、彼らを確実に成長させていたということだ。


「――つうっ!?」


「――くうっ!?」


 しかし、鉄壁の防御を誇るファランクス陣形といえど、重ね合わされた盾と盾の間には、どうしても綻びが生じる。

 そこから入り込んだ矢が、騎士たちへ手傷を負わせていった。


「打ちいいいぃぃ方あああぁぁ!」


 しかし、その綻びが生じるのも、計算の上……。

 そもそも、ファランクスというのは槍と盾を用いて形成する陣形であり、生じる隙間からは槍を突き出し、敵を押し込んでいくのが本来の姿だ。

 そして、正統ロンバルドには……槍の代わりに、ブラスターライフルという強力無比な飛び道具が存在するのである。


 ――ピュン!


 ――ピュン! ピュン! ピュン!


 後続者たちが、盾と盾の隙間からライフルの銃身を突き出し、続々と引き金を引いていく。

 その光条は、どこか、気の抜けたような発射音と共に放たれていくが……。

 しかし、殺傷力たるや絶大であり、これを受けた旧ロンバルド王家の兵たちは、次々と倒れていったのである。


 こちらのマネをして、盾など構えたところで無駄だ。

 ブラスターの光は、手持ち可能な木の板ごときで防げる威力ではない。

 構えた盾は、ビームの貫通により、焼け焦げた穴を穿(うが)たれるのみなのである。


 ――ピュン!


 ――ピュン! ピュン! ピュン!


 盾と盾の隙間から、銃身をねじ込んでの射撃であり、狙いなど付けようもない。

 しかし、四方八方に敵がいるこの状況では、狙いなど付ける必要はなく、放たれた光のことごとくが敵へと命中していった。


 当然、味方の損害も皆無ではない。

 特に、先陣を切って盾を構えた騎士たちの何人かは、矢を受けて力尽き、その場へ果てることとなっていた。

 しかし、そうやって生じた穴は、すぐさま後続の者が塞ぎ……。

 しかも、反撃によって敵の数と勢いが減じた隙を突き、少しずつ、ファランクスの大きさを広げていったのである。


 気がつけば、大広間内における彼我の数的優位は逆転しており……。

 残りわずかとなった敵の弓兵たちが、階上や一階の各施設へと、ブラスターの光で押し込まれる状態になっていた。


 ――制圧せり!


 ――ロンバルド城の大広間、制圧完了なり!


 いまだ、城内へ侵入するには、矢の雨をくぐらねばならず、完全な形で確保できたとは言いがたいが……。

 ともかく、最も重要な橋頭堡の確保は、これで成された。


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