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初撃

 攻城戦というものは、おおよその場合、この世へ現出した地獄のごとき様相を呈する。

 何しろ、城というものはとにかく堅い。

 分厚い石の壁は、例え攻城兵器を用いたところで容易に破壊できるものではなく、結局は、破城槌(はじょうつい)などを粘り強く叩き込み続け、城門の破壊へ挑むことになる。


 が、守る側だって、それを黙って見ている道理はない。

 攻め手の頭上からは、雨あられと矢が降りかけられ、それのみならず、時には沸騰した湯や油、糞尿などをぶっかけられることもあった。


 そういうわけで、城門の破壊は大変だから、攻め手も他の手段を模索することになる。

 例えば、登攀(とうはん)

 クソ長いはしごを立てかけたり、あるいはフック付きのロープをぶん投げるなどして、城壁の上に登ることを目指す。

 が、これも見過ごしてくれる相手はそういない。


 立てかけられたはしごや引っかけられたフックは、守備兵によって取り外され、中途まで達していた攻城側の兵士は落下。よくて重症、悪けりゃ即死である。

 また、弓矢等による攻撃も並行して行われるため、こちらも結局、同様のリスクを負うことになるのだ。


 ならば、と攻め手は考える。

 例えば、堀などに城内で出た排泄物を排出する形式の城だった場合、当然だが、汚物を垂れ流すための穴が開けられているのだが……。

 そこを、兵に登らせればいいじゃないかと。


 はい、命じられたかわいそうな兵士がどうなるかは、説明不要ですね。

 まあ、ロンバルド城の便所は汲み取り式のため、どっちにしろこの手は使えないんだけどな。


 と、いうわけで、だ……。

 通常、城攻めというものは、様々な形で悲惨な死を迎えた攻め手側の死体が、いくつもいくつも積み重なっていく……大変に凄惨(せいさん)なものとなるのである。


 それだけ、城という建築物は奥深く、その頑強さたるや、筆舌に尽くしがたいものなのだ。


 ――攻め手の文明レベルが、同程度ならばという注釈はつくが。


 別に、ブラスターほど洗練された武器である必要はない。

 黒色火薬などを用いた大砲であっても、門を砕き、城壁を破砕するには十分な威力である。

 スクールグラスを用い、かつての人類が生み出した兵器を学んだ上での結論だが……思うに、兵器史というのは、ある一定のレベルに達した瞬間から、常に攻撃側が優位へ立つことになるのだろう。

 そこに、矛盾という概念は決して生まれないのだ。


 と、いうわけで、攻城戦を始めるにあたり、俺には無数の選択肢がある。

 いつも通り、火薬式の爆弾を使ってもいいし、ロケット砲をぶち込んでもいいし、レールガンを持ち出してぶっぱしてもいいし、なんなら、メタルアスルに搭載された使わずじまいの自爆装置を使ってもいいわけだ。

 が、まあ……今回、最もふさわしいのは、アレを置いて他にないだろう。


 ――攻撃開始!


 その言葉を聞いても、最前列を形成するハーキン辺境伯家の兵たちが動くことはなかった。

 彼らは皆、待っているのだ。

 今の合図を受けて、事前の通達通り……アレが動き出すのを。


「おお……」


「きたぞ……」


 空を見上げた兵士たちの何人かが、どよめき始める。

 王都を囲う城壁の向こうから、現れたモノ……。

 空に浮かぶ総金属造りのそれは、言うまでもない――『マミヤ』だ。

 発見してからこっち、俺はこの古代船を、直接戦闘に参加させることはしなかった。


 魔物へ対処する戦力としては、カミヤたちロボット組がいたし、かといって、人間同士の争いへ用いるには、あまりに……あまりに、強力過ぎたからである。


 しかし、今、破壊しようとしているのは物言わぬ城門だ。

 出力を最小限度に落とせば、使用も問題あるまい。

 そして、『マミヤ』が嚆矢(こうし)となる様は、古代の遺産を復活させた俺が、旧来のロンバルド王家を滅ぼすこの戦いを、象徴する光景となるだろう。


『マスター、主砲の発射準備を始めますが、よろしいですか?』


 着信した携帯端末から、ブリッジへ控えるイヴの声が届く。


「問題ない。始めてくれ。

 くれぐれも、市街地や俺たちに被害を出さないようにな」


『了解です』


 携帯端末を通じて、イヴと共にブリッジへ詰めるイヴツーの声が漏れ聞こえてくる。


『各安全装置解除、ヨシ!』


『出力調整、ヨシ!』


『照準合わせ、ヨシ!』


 ……いや、ヨシヨシ言ってるけど、本当に大丈夫なんだろうな?

 もし、着弾地点や出力の調整を間違えたら、俺ら消し炭になんぞ?


 一抹の不安を抱きつつも、しかし、それは顔に出さない。

 総大将というものは、どっしりと構えていなければならんのだ。


「いざという時のアスルシールド、ヨシ」


 (くつわ)を並べるベルクが、ぼそりとそうつぶやく。

 てめえ、やばいと判断したら俺を盾にする気か?

 そうはいかんぞ、死ぬ時は道連れじゃあ!


 友との間に別の緊張感も漂わせていると、『マミヤ』の外観に変化が起こった。

 飛翔する鳥類の頭部とも、はたまた船舶の船首とも取れる先端部分……。

 そこに、小さな光球が生じ始めたのである。


 しかも、それはただの光り輝く球ではない。

 バチバチと、地上にまで届く音を立てながら、帯電しているのだ。


 小さいといっても、それは巨大な『マミヤ』と比較しての話である。

 果たして、実寸すれば直径はどれほどになるのだろうか……。

 そして、そこには見るからに、強大な……それでいて、破壊に用いるものだと分かる力が秘められているのだ。


「まるで、神世の光景だ……」


 兵士たちの一人が、そんなことをつぶやいたが……。

 それこそは、まさに、この場にいる者の総意であるといえよう。


 ――バチ!


 ――バチ! バチ! バチ!


 俺たちが見守っていると、『マミヤ』の先端に生じる光球はますます帯電を増していく。


 ――キュン!


 そして、ある瞬間にそれが収まり、フ……と光球が消失した。


「――うおおっ!?」


 それと同時に、地上の俺たちを襲ったのは、恐るべき熱を伴った蒸気である。

 発生地点は、もうもうとした煙に包まれた城門であり……。

 もし、その付近に布陣していたらと思うと、ぞっとさせられた。

 やがて、その煙は晴れていったのだが……。


「蒸発してやがる……!」


 現れた光景を見て、息を()む。

 つい、先ほどまで、分厚い城門が行く手を阻んでいたわけであるが……。

 今、それは元から存在しなかったかのごとく消滅し、健在な城壁と城壁の間で、ぽっかりと穴を開けていたのだ。


 ――データで分かってはいた。


 ――シミュレーションで経験もした。


 しかし、実際に体験した『マミヤ』の威力は、度を超えている。


 兄上との決戦で竜種が飛来した際、俺の選択肢に『マミヤ』を頼るというものはなかったが……。

 あれは、強力過ぎた力を、無意識に忌避したからなのである。

 おそらく、今後二度とこれを使用することはあるまい。


「いくか……」


「ああ……」


 ベルクと目を見合わせ、共に下馬する。

 攻城戦において最も難しい部分――門の突破は成った。

 ここからは、突入戦だ。


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