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最後の戦い

「そうか……俺の想像とは、だいぶ斜め上の方向で叶えられたが、ともかく、スオムス率いる連合軍は(くだ)ったか」


 携帯端末でソフィから事情を聞きながら、俺はうなずく。

 なんでマリアから直接聞かないかって? そんなもん、おめえ……怖いからだよ。


 俺の想定だと、ソフィ共々、思い出の歌とか歌ってスオムスの厭戦(えんせん)感情を極限まで高めて説得するとか、そういう流れだったんだけどな。

 まさか、ソフィの歌手キャラをガン無視した結末になるとは夢にも思わなかった。

 あれだな……浮気は甲斐性(かいしょう)でもなんでもないってことだな。心に刻もう。


「まあ、後はイーシャとかバファーとか、その他にも旧ロンバルド王国側へ付いた貴族とかが、イイ感じに事後処理してくれるだろう。

 ソフィは……ああ、マリア共々、ボロ雑巾となったスオムスを引きずって侯爵領領都(ミサン)へ行くのね?

 うん、がんばって」


 そこで通話を打ち切り、畳んだ携帯端末を懐へしまう。


「まあ、ギャグオチだろうが感動オチだろうが、懸念事項が片付けばそれでよいのだ。

 別に、俺が痛い目にあったわけでもないし」


「貴様、自分が体張らずに済んだ時はとことん嬉しそうだな?」


「うん、もちろんさ」


 俺と共に騎乗し、ロンバルド城を睨むベルクにそう答える。

 みんなもっと、体張ってオチを担当すべきだと思うね。ぼかあ。


「さておき、いよいよだな……」


「……ああ」


 その言葉で、きりりと顔を引き締めた。

 城の内から見るか、外から見るかという差はあるが……。

 幼き頃より見慣れた王都フィングの空は白み始めており、新しい一日の始まりを告げようとしていた。

 そして、同様の光景は降伏勧告をしてから、すでに二度繰り返されているのだ。

 これが――三度。

 こちらが一方的に約束した期限、三日目の朝である。


 決戦の朝であった。


 すでに、我が手勢……正統ロンバルドの軍は、布陣を終えている。

 敵の弓が届かぬ距離から、分厚い城門を前にしているのは、ベルク率いるハーキン辺境軍であり、その後ろの控えているのがオーガたち覇王軍だ。


 なぜ、辺境伯軍が前衛なのかというと、理由はふたつある。

 ひとつは、何も考えず突撃するタフボーイたちを前に押し出しちゃうと、乱戦になってしまいせっかく支給したブラスターが撃てなくなってしまうことだ。

 この戦いは、ただ勝てばいいという性質のものではない。

 『マミヤ』から得られた古代の技術を用い、旧態依然とした旧ロンバルド王家を打倒するという図式が大切なのであって、ボンクラ共がヒャッハーの限りを尽くして蹂躙(じゅうりん)してしまっては元も子もないのである。


 もうひとつは、我が友とその配下に対する労いだな。

 最前列に立たせといて労い、というのもおかしな話ではあるが、ベルクにはまだ仲間がバンホーたち獣人勢しかいなかった頃から何かと支援してもらい、今に至る。

 ここで最後の最後……旧王家へ引導を渡す役の先陣を切ってもらえれば、実体としても世間体としても、その後の立場は盤石なものとなるだろう。

 ()()、誰にはばかることなく優遇してやれるというものなのだ。


 そう、今後だ。

 まだ決着は付いていないが、すでに今後のことを見越した上で配置を決める段階に入っている。

 この戦いは、決戦であり……新しい世を迎えるための儀式でもあるのだ。


 と、いうわけで、ギルモア率いるファインの魔法騎士たちや、バンホー率いる獣人国のサムライたちは、覇王軍のさらに後ろへ控えてもらっている。

 もはや、彼らに期待する役割は戦力としてのものではない。

 いうなれば、見届け人だ。

 長きに渡ったこの戦い……ロンバルド王国で発生した内戦の結末を、第三国として見届けてもらうのである。


 彼ら友軍の後ろへ控えているのは、エンテをリーダーにした魔術兵たちであり、最後方――というより、城からだいぶ離れた安全地帯で状況を記録に収めるのが、サシャやジャンも含めた報道チームであった。


 ちなみにだが、王都の市民たちが危ない場所へ入り込まないよう、教会から神官団を派遣してもらい、誘導と整理に当たってもらっている。

 俺の手勢だと、王都の地理に明るい者がいないので、この助力は地味に助かった。まさか、捕虜とした旧王家側の騎士たちを起用するわけにもいかないし。


 ――万全だ。


 戦力の質も数も申し分なく、無辜(むこ)の民を巻き込まないよう配慮もされている。

 そして、いよいよ日が昇り、時がきたことを知らせていた。


「なあ、アスルよ。

 これはもう、済んだ話であると分かった上で、蒸し返すのだが……」


「どうした、友よ?」


 俺が問いかけると、ベルクはまっすぐな眼差しをこちらに向ける。

 そして、口を開いた。


「どうしても、先鋒に加わるのか?

 貴様は総大将なのだから、最後方でどっしりと構えていればいいだろう?」


 その言葉に、俺は馬上で首を振る。

 こいつが言ったように、この話は何度も……色んな人物と繰り返してきたことであり……。

 そして、その度に俺は同じ答えを返してきたのだ。


「そうすることが、正しいのは間違いない。

 だが、俺は行く。俺、自らの手で、これまでのロンバルド王家を終わらせる。

 これは、アスル・ロンバルドがアスル・ロンバルドであるために、避けては通れないことである」


「そうか……」


 どこか、痛々しいものを見るような視線を向けながら、ベルクが押し黙る。

 実際、痛々しいのだろう。

 でも、この役割は誰にも任せることができないし、誰にも譲りたくはないんだ。


「まあ、心配するな。

 ちゃんと、ライジングスーツは着るからさ!」


「いや、それが役に立っている場面を見たことがないからこそ、心配なんだが……」


 胸元のスーツ装着用クリスタルを指差した俺に、ベルクがジットリとした目を向けてきた。

 うん、まあ……そうねえ。このスーツ、毎度肝心なところですぐオシャカになったり、そもそも着れなかったりだし。

 ……いかん、なんか俺も不安になってきた。

 ただ、不安になりながらも、口から漏れ出たのはくすりとした笑みである。


「貴様、怖さでおかしくなったか?」


「そうじゃない……。

 結局、かっこつけようとしても、どこか締まらないのが俺なんだなって、思っただけさ」


「貴様が一部のスキもなかったら、気色悪くてかなわん」


「だな」


 友と笑い合い、腰の剣――兄上が(のこ)したそれを引き抜く。


「攻撃開始!」


 それが、最後の戦いを始める合図だった。


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