勃発! 三国志! 中編
「それでは、挑戦者の皆さんを紹介していきます!」
――いやあ、自分が体張らないギャグエピソードは気楽でいいわ。
そんなことを考えながら、サシャによる選手紹介を眺める。
今回の挑戦者は、六名。
正統ロンバルド、獣人国、ファイン皇国からそれぞれ二人ずつを選抜した形だ。
「まずは、正統ロンバルドチームから!
大本命の覇王オーガさんと、裏稼業なのに出ちゃっていいのか!?
辺境伯領一腕の立つ殺し屋さんです!」
「うむ……」
「ちょろいもんだぜ」
窮屈そうに椅子へ腰かけたオーガと、なぜか自分から志願してきた殺し屋が、自信満々な態度をみせる。
まあ、オーガがいるんだから普通に勝つだろう。
「続いて、獣人国からは、バンホーさんとタスケさんのサムライタッグです!」
「武士の意地、お見せしましょう」
「サシャ殿! 拙者の活躍をとくとご覧あれ!」
バンホーとタスケが、種族的特徴である頭頂部の獣耳をピコピコと動かしながらそう語った。
あんま出番ないから忘れがちだけど、サシャへ片思いしてるタスケがどれだけ張り切るかだな。
バンホーはジジイだし普通に無理だろう。
「そして、ファイン皇国からはギルモアさんと、名もなき魔法騎士さんです!」
「ですので、我らの扱いが露骨に悪くありませんか?」
「あの、名前くらいあるので名乗ってもいいですか?」
「さあ、それではルールの説明をいたしましょう!」
事前に打ち合わせしていた通り、皇国勢の抗議をガン無視したサシャがきびきびと進行していく。
ギルモアはともかくとして、名もなき魔法騎士は許せ。多分だけど、天はポッと出の使い捨てキャラにいちいち名前を与えたくないと思うぞ。
そんな彼の名誉のためにいっておくと、『決戦 22』でギルモアと会話してたのが彼らしいです。なんで俺が知ってるかは謎だけど。
「皆さんには、陛下とゴルフェラニが共同で調理したデカ盛りメニューに挑戦して頂きます。
最も早く完食した人間の出た陣営が勝利。
もし、完食者が出なかった場合は、食べ残しを測定し、最も食べ進めていた人間のいる陣営の勝利とします」
サシャの言葉から分かる通り、今回の対決は陣営ごとに分けてこそいるものの、実態は個人戦である。
さらに、完食者が出なかった場合に備え、保険のルールを設けているのにも理由があった。
ずばり――俺は今回、完食などさせる気がないのである。
まあ、いけてオーガだけかなと思う。
「さあ、それではデカ盛りメニューの登場です!」
サシャの言葉に合わせ、待機していたソフィたち楽団が生の演奏を響かせる。
それは、まるで巨大な怪獣が出現した時のような……。
どこかおどろどろしさを宿しつつも、力強さに満ちた音色であった。
演奏の中、スタッフたちが二人一組で闘士らの下へ運び込んでいるのが、今回のデカ盛りメニューだ。
フ……俺とゴルフェラニが、苦労して作り上げた逸品だ。心して味わうがいい。
「あの……これが一人前なのですか?」
タスケが早くも耳を震わせながら尋ねたのは、当然のことであろう。
何しろ、この焼きそば……器からしてまずデカい!
他に乗せられる皿がなかったため、複数人で使用するためのパーティー用銀皿へ盛り付けているのだ。
食欲を刺激する、香ばしいソースの香り……。
それを漂わせているのは、一見しただけで食欲を喪失するほど、こんもりと盛り付けられた焼きそばだった。
小柄な子供くらいはあるんじゃないかという量が盛られたそれは、かつお節、青のり、紅ショウガで上面を三色に分けられており、我ながら――美しい。
「フッフ……それこそ俺とゴルフェラニの力作」
「総重量五キロ。
その名も三国焼きそばだ。心して食らうがいい」
俺とゴルフェラニが、不敵な笑みと共にメニュー名を告げる。
微動だにしないオーガを除いた闘士たちは、どうしたものかと互いを見交わしていたが……。
「制限時間六〇分です!
さあ! それでは開始してください!」
サシャにうながされ、仕方なく箸を取ったのだった。
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「ふむ……こうして見ると、食べ方にも個性が出てくるものだな」
「ああ、辺境伯領一腕の立つ殺し屋はまず、かつお節から攻めている。
おそらく、口中の水分が取られて食べづらくなるのを察したんだ」
「対して、獣人勢は始めから飛ばしているな。一気呵成に片を付ける腹積もりのようだ。
そして、皇国勢は紅ショウガゾーンからいくようだ」
「酢漬け野菜というものは、色んな国に存在する食文化だからな。
おそらく、今回のメニューに馴染みがないファイン人にとっては、最も取っつきやすい箇所なんだろう」
「気になるのは、我が主だ。
ちびちびと、肉や野菜をより分けて食べているようだが……」
体張らないで済む気安さから、ゴルフェラニと鉄板越しに見た光景を解説する。
彼の言うように、気になるのは優勝候補筆頭であるオーガの動きだ。
奴のキャラ的に考えると、猛烈な勢いで爆食いしてまたたく間に皿を空にしてもおかしくないのだが……。
と、そんな覇王が片腕を上げた。
「どうしましたか? オーガさん」
呼び出されたサシャに対し、コップの水を飲み干したオーガはこう告げたのである。
「ギブアップだ」
「え?」
「へ?」
サシャのみならず、隣で食べていた辺境伯領一腕の立つ殺し屋までもが聞き返す。
しかし、それは聞き間違いではなかったのである。
「ギブアップだ。
我はこれ以上、食べられぬ」
「なあああっ!?」
今度、驚いたのは俺だ。
いや、嘘だろお前!? 牛とか丸ごと食いそうなツラしてるくせに。
「説明しましょう」
そんな俺の所に、どこからともなくニュッとイヴが姿を現わす。
そして、いつも通り無機質な表情で淡々とこう告げたのだ。
「オーガの覇王ボディは、日々の厳しい食事制限によって維持されています。
特に、糖質の類は厳禁。
麺へ一切手を付けなかったのは、当然のことといえるでしょう」
「そういうことだ。
――ゆくぞイヴ!
サラダチキンとブロッコリーが我を呼んでいるわ!」
「イエス。
あちらに用意してあります」
あっけに取られる俺たちをよそに、イヴを伴ったオーガが悠然と会場を去って行く。
「ゴルフェラニ、お前知らなかったのか?」
「うむ。我の食事は馬房で飼い葉だからな」
「お前、こんな時だけ馬っぽく……」
そんな風に話していると、獣人国チームで……そして、やや遅れてファイン皇国チームからも驚きの声が上がったのである。
「なっ……!?」
「こ、これは……っ!?」
驚愕するバンホーとギルモアを見て、俺はにやりと笑ってみせた。
――バカめ! かかりおったわ!




