詰め
今日も元気だご飯が美味い!
そして、ラクス隠者死ねやオラアアアアア!
というわけで、何か大切なものと引き換えに元気を取り戻した俺は、主だった面子をいつもの会議室に招集し、今後の方針を話し合うことにしたのである。
「みんな、心配かけてすまなかったな!
もう俺は大丈夫だ!」
「まあ、あれだけ大騒ぎしていればな。
あまりの騒がしさに、新種の魔物でも出現したのかと思ったぞ」
「あー、あー、聞こえなーい」
じとりとした目で睨みながら放たれたベルクの言葉に、全力でしらばっくれた。
だってさー、俺は悪くねーんだよ。こっちはPセルフ二回も落としてるのに相方のバルバトスが二落ちしてさー。
かっー! 相方運だわーっ! かっー!
助かりました。助かりました。助かりました。助かりました。助かりました。
「ともかく、前回の決戦から時を経て、負傷者の治療を含む大方の立て直しは済んだとみてよいだろう。
肝心の士気に関しても、昨夜の宴がいい息抜きとなったようだ」
冷静な顔をしながらそう言ったのは、エルフの長フォルシャである。
決戦中はろくな描写もなかった彼であるが、エルフの医療兵らをまとめ上げ、決戦中はおろかその後も奔走し続けており、地味にこの戦いにおける立役者となっていた。
そして、余談だが、昨晩は脱衣麻雀の筐体に張りつき、何度の開幕天和を受けても諦めることなく再チャレンジしていたものである。
……後ろからチラッチラッとそれを見ていたジャンに、変な影響を与えていなければいいのだが。
「はっはっは!
皆様にお楽しみ頂いて、拙者も企画立案した甲斐があるというものです」
「まあ、間違いなくバンホー様とクッキングドクサレのおかげではあります」
頭頂部の狼耳を撫でながらバンホーが言った言葉に、ルジャカがしぶしぶといった形でうなずく。こらこら、仮にも実父をドクサレ呼ばわりするものじゃない。
「まあ、爺さんたちのおかげで兵隊さんの疲れが取れて、やる気も戻った。
そうしたなら仕事っていうのは、どの業界でも変わらねえな」
辺境伯領一腕の立つ殺し屋に、うなずく。
何事においても、スピード感というものは大切だ。
動けるようになったなら、畳みかけていきたい。
「魔物の大発生に、旧ロンバルド王国軍の侵攻……。
ここまでは、圧倒的な数の差から守勢へ回らざるを得なかったが、流れは変わった。
いよいよ、こちらから打って出る時だ」
「今回の戦いで大きかったのは、敵の撤退者がほぼ出なかったことだな。
おかげで、待ち構える相手がいなくなった」
俺の言葉に、ベルクが付け足した。
彼の説明を引き継いだのは、長フォルシャである。
「私が聞き知る限り、通常、あのように大規模な戦で、どちらかが全滅するまで戦うということはあり得ぬ。
必ず、撤退戦と追撃戦が生じる。
が、今回は竜種の襲来により、それどころではなくなったからな」
「旧ロンバルド軍の兵は、別に皆殺しとしたわけではなく、なんなら昨晩の宴にも参加してもらっていますが……。
結果として、全滅させたのに近い状況を作れたのは大きいですね」
クッキングドクサレの息子こと、ルジャカが話をまとめ上げた。
そう……普通の戦いならば、撤退した敵戦力が再び立ち塞がることになる。
実際、国境付近での戦いは形としてこちらの敗北となり、俺は残った兵を後方へ撤退させていた。
今回、それはない。
まさしく、無人の野を行くかのごとき行進が可能な状況となっていた。
「それで? どうするんだ?
攻勢をかけるにしたって、目標ってもんがいるだろ?」
聞くまでもなく、答えは分かっているだろうに……。
辺境伯領一腕の立つ殺し屋が、ニヤリと笑いながらそう言った。
「攻撃目標など、今更語るまでもない。
戦いっていうのは、相手の心臓をまず掴み上げることだ。
そして、掴んだならそれを離さず、一気に握りつぶす。
これに尽きる」
言葉通り、ぐっと突き出した拳を握り締めながら、俺はそう語る。
これは、単なる偶然であるのだが……。
拳を突き出したこの方角には、俺が生まれ、育ち、正統ロンバルドの建国を宣言したあの地が存在していた。
すなわち――ロンバルド王国の王都フィングが。
「――フィング攻囲戦だ。
決着をつける」
俺の言葉に、集った者たちが深く息を吐いた。
あえて、魔物の大発生を戦端とするが……。
長かった戦いが、いよいよ終局に向かうのである。
「攻囲戦なのですな?
決戦ではなく?」
確認のため、バンホーがそう尋ねた。
「ああ、攻囲戦だ。
これは、捕虜として迎えた者たちの話を加味しての判断だが……。
ロンバルド王国にはもう、決戦を仕掛けるだけの力は残されていない」
だいたいからして、ケイラーが……兄上が率いる軍勢を投入しての攻勢は、向こうにとっても乾坤一擲の大勝負だったからな。
徴兵までしているのだ。余力など残ってはいない。
「向こうにとって、援軍のあては……ラフィン侯爵率いる軍勢だな。
通常の戦術で考えるならば、籠城して時を稼ぎ、中央部に進軍した侯爵連合軍が反転し王都へ向かうことで、包囲しているこちらを挟み撃ちにしようとする」
「まあ、こちらはガッツリ数揃えた上で『マミヤ』製の武器を供給してるから、そうなっても背面の連合軍を返り討ちにできるだろうけどな。
とはいえ、わざわざ挟まれるのも気分が悪い。
魔物が大人しくなり、手の空いたイーシャとバファー両辺境伯家に兵を進ませ、釘付けにしよう。
これで、フィングは完全に孤立する」
ベルクの言葉を受け、すぐさま対案を講じながら腕を組む。
決死の大返しでも狙ってくれば、話は別だが……。
上手くいけば、スオムスの命は奪わんで済むかもしれないな。
「あらためて言おう。
ここからの戦いは、詰めろであり寄せだ。
すでにこちらは勝利したも同然の状態にあり、後はどのように仕上げるかという段階へ入っている。
みんなには、最後まで力を貸してほしい」
俺の言葉に、円卓へ座した者たちがうなずく。
こうして、最後の戦いに関する方針は定まったのである。
……そういえば。
あの日以来、俺は兄の剣を腰に差しているわけだが……。
それが今日は、一段と重く感じられた。




