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アメノイワト

 果たして、この催しをどう表現すればいいものか……。

 いや、宴であることは間違いない。


 クッキングモヒカンを筆頭とする料理人たちが、腕によりをかけた料理がずらりと並び……。

 古代の醸造技術によって作られた種々様々な酒が、今日は飲み放題となっている。


 料理にしても酒にしても、瞠目(どうもく)すべきはラインナップの豊富さであろう。

 何しろ、正統ロンバルドにおいては季節も気候も無視し、実に様々な食材が日々大量に生産されている。


 加えて、クッキングモヒカンが復活させたかつての調理技法を用いているのだから、これは時代も国境も超越した料理の見本市と呼ぶべき状況であった。


 料理に比べると、酒の方はどうしても若い酒精で楽しめる品に限られてしまうが、それにしたってモノがちがう。

 代表的なところではビールだが、爽やかな飲み心地を維持しつつも比類なきキレが加わったそれをガチガチに冷やし、一気に煽るというのは、戦時下で火照った心身にとって何よりの妙薬となった。


 そのようなわけで……。

 戦士の平原に築かれた陣地で開かれているのは、おそらく大陸一豪勢な戦勝の宴だったのである。


 何に対する勝利かって?

 それはもちろん、兄上率いる旧ロンバルド軍に――ではない。

 あくまで、襲来した竜種に対する勝利の祝いだ。

 そうしないと、(くだ)ってくれた旧ロンバルド軍の兵たちが参加できないからな。

 彼らには、大いに食って飲んでもらい、あらためて、正統ロンバルドの一員となれば、これほどの豊かさが享受(きょうじゅ)できるのだと実感してもらいたい。


 と、まあ、立食形式で食う飲むしてもらってるコーナーはそれで構わんのだが……。

 問題は、それ以外のコーナー――電飾の限りを尽くし、大小様々なモニターが立ち並んだ一画である。


 モニターに表示されているのは、実に様々な種類のゲームだ。

 アクションからシューティング……対戦格闘から、果てはパズルに至るまで……。

 いずれのモニターも、『マミヤ』内のゲーセンから持ち出された筐体(きょうたい)を接続されており、新旧のロンバルドも、獣人も皇国人も問わず、大勢が列を作りこれを楽しんでいる。

 わざわざ、『マミヤ』からケーブル引いて電気供給までして、ずいぶんと大がかりなことであった。


「なあ、ウルカ?

 これは一体?」


「一応、許可を得る際に一通りの説明はしていたのですが……。

 やっぱり、上の空だったのですね?」


「うんまあ、空気の美味しさについてずっと考えてたから」


 キツネの特質が備わった獣耳をピコピコと揺らす我が嫁に、苦笑いしながら答える。

 そう、今回の催しは俺が企画立案したわけではない。

 ウルカたちが提案し承認を求めてきたので、ボーッとしながら説明を聞き、ボーッとしながら許可しただけだ。

 一応、ボーッとしながらなりにも話は聞いていたので、酒宴の方は詳細を思い出せていた。


「あれはバンホーの提案でして……。

 ただの酒宴に留まらず、ああして垣根を取り払い遊ぶことで、絆と結束を高めようという狙いだそうです」


「まあ、他に提案する奴はいないわな。

 てか、あいつがやりたかっただけじゃねーの?」


 何しろ奴は、ツンデレ系バーチャル狼耳美少女ホーバンちゃんの中の人だ。

 ゲームに対する執念というものがちがう。


「まあ、それもあるでしょうが……」


 我が嫁も、苦笑いを浮かべながらそれに同意してくれた。


「ですが、一番の目的は、アスル様を立ち直らせることにあるのですよ?」


「俺に?

 酒や料理はともかくとして、ゲームの方はいまいちつながらないが?」


 問い返すと、ウルカは野外ゲームセンターと化した一画を見やる。

 そして、はるか(いにしえ)の……ひょっとしたら、超古代のそれよりも、また遥か昔のものかもしれない伝説を語り始めたのだ。


「獣人国において、語り継がれている神話によれば……。

 太陽を司る女神がふさぎ込み、ついには閉じこもった時、他の神々が盛大な宴を開くことで外に出てきたといわれています」


「それを再現したってわけか……」


 ゲームに興じる者たちを見ながら、腕を組む。

 なるほど、この場へ集った多くの者にとって、こういったゲームが初めての体験だからというのもあるだろうが……。

 皆、大いに騒ぎ、時には他の者がプレイしているところへ茶々を入れたりアドバイスしたりと、実――楽しそうだ。


「そういえば、俺もガチへこみしてたはずなのに、いつの間にか正気へ返ってるしな。

 はは、場の雰囲気にあてられたか」


「それでいいのです」


 真面目な顔を作ったウルカが……我が妻が、俺に向き直る。


「確かに、アスル様は正統ロンバルドの屋台骨。他に代わりが務まる者などおりません。

 ですが、どうか忘れないで。

 あなたの周りには、つらい時、代わって盛り上げ、心を暖かくしてくれる人たちがいるのです」


「ああ、そうだな……。

 本当に、そうだ」


 ウルカの言葉に、うなずく。

 すると、そこに今回の企画立案者……バンホーが走り寄ってきた。


「アスル陛下! こんな所におられましたか!

 ささ! 宴の主役が隅におられては、興ざめというもの!

 ぜひ! あちらで拙者らとエクストリームにバーサスしてクロスをブーストしましょうぞ!」


「えー、だってー、俺ーここんとこ仕事漬けで全然ゲームやってなかったしなー。

 かー! もう少し練習とかしてれば相手になれたんだろうけどなー! かっー!」


「なんとおっしゃる! ゲームにおいて上手い下手を気にする者などおりませぬ!

 ささ、どうかウルカ様も背を押してあげて下され!」


 バンホーの言葉を受けて、目線を宙にさまよわせたウルカがしばし考え込む。

 そして、こう言ってくれたのである。


「大丈夫……。

 ()()()なら出来るわ」


 しゃっー! 我が嫁から初めてのあなた呼び頂きました!

 こいつはやるっきゃねえ!

 というわけで、俺は愛するウルカにこう答えたのであった。


「アスル! いきまーす!」




--




「当たってねえだろ!」


「L全覚やめろっ!」


「ハッピーセットです!」


「相方ァッ!」


 果たして、その一画で繰り広げられる光景をなんと表現したものか……。

 見た者の脳裏に浮かぶ言葉は、


 ――動物園。


 あるいは、


 ――幼稚園。


 ……と、いったものになるだろう。

 いや、この惑星には動物園も幼稚園も今のところ存在しないのだが、遺伝子にあらかじめ刻み込まれていたかのごとく浮かび上がってくるのだ。


 集いし誰もが猿のごとく奇声を発し続け、時には、喫煙文化もないのに筐体(きょうたい)へ置かれている灰皿を投げつける……。

 まさしく、この世の終わりがごとき光景であり、人類に革新などないと確信できる姿である。


 そして、その中心にいるのは――正統ロンバルドの王アスル!


「ラクス隠者死ねやオラアアアアアァァァ!」


 喉もかれよとばかりに叫ぶ姿を見られた彼は、人々からの求心力が低下した。

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