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決戦 22

「果たして、我らや獣人たちの援軍は必要だったのか……?」


 魔法騎士たちを従える指揮官――ギルモア・オーベルクは、目にした光景を見ながら思わずそんなことをつぶやいた。


「――――――――――ッ!」


 空を舞い、聞いただけで心臓が止まりかねぬほどの恐ろしい咆哮(ほうこう)を上げているのは、地上において最強の魔獣――竜である。

 しかも、その咆哮(ほうこう)はひとつだけではなかった。


「――――――――――ッ!」


「――――――――――ッ!」


「――――――――――ッ!」


 果たして、何匹の竜がこの地へ飛来したのか……。

 一匹が出現しただけでも天変地異と同様の扱いを受けるそれが、群れを成して上空を飛び回っているのである。


 ――これは、この世の終わりか。


 竜たちが火炎の吐息を用い、上空に投影されたアスル王の虚像を消し去った時は、そのようなことを考えたものだ。


 しかし、気のせいではなく……竜種たちの咆哮(ほうこう)から、恐ろしさを感じなくなっている自分がいる。

 どころか、あらゆる国家、民族において厄災そのものとして語り継がれる伝説の魔獣が、今は哀れな生け贄のようにも思えていた。


 一体、なんに対しての贄なのか……?

 他でもない。

 覇王オーガ伝説を彩るための、贄である。


「むうううううん!」


 馬と称するのもためらわれるほど巨大な愛馬に騎乗した覇王が、右の掌打を天にかざした。


 ――ぶうん!


 ……と。

 遠方にいてもなお、空を切る音が聞こえそうなほどの力強さで打ち出されたそれは、ただ空を穿(うが)っただけではない……。

 覇王の全身を巡り、地上のいかなる鉱物よりも頑強な鎧として機能している闘気……。

 その一部が、掌打と共に吐き出され、無形(むぎょう)の飛び道具として上空の竜種へ襲いかかっているのだ。


「――――――――――ッ!」


 無論、竜種とてこれをただ眺めているわけではない。

 最大にして最強の武器、火炎の吐息を吐き出し、これを打ち消さんとする。

 が、無駄だ。


 覇王が放った圧倒的破壊エネルギーの奔流は、たかが炎などたやすく飲み込み、これをかき消して哀れな竜種に迫りゆくのだ。

 むしろ、最高火力の吐息を放つため、空中で静止してしまったのは自殺行為だ。


「――ギャワッ!?」


 まるで、尾を踏まれた犬のような……。

 ひどく情けない断末魔を響かせながら、その竜種は闘気の嵐へと飲み込まれていく。

 覇王の闘気が内に秘めた熱と衝撃は、竜種の全身を焼け焦げさせ、鱗という鱗を叩き落とし、さらにはその身を収縮させ、最後には――弾けさせた。


「確か、獣人国にこんな文化があったらしいな。

 なんだったか……。

 ああそう、ハナビだ」


 空中で四散し、肉片が飛び散る様を見ながらそんなことをつぶやく。

 しかも、燃え尽きたハナビが地へ届かぬのと同じように、激しい熱と断続的な衝撃を浴び続けた肉片は、落下しながら消滅していくのだ。

 もはや、明らかに人の成せる所業ではない。


「さて、この戦いが終わったらワム様に報告をせねばならないわけだが……。

 いや、どう説明すればいいのだ? この光景」


 覇王が強すぎて特にすることもないので、自分と同じように隣で突っ立っていた魔法騎士の一人にそう問いかける。


「私に聞かれても……」


 しかし、その返事は無情なものであった。

 そんな会話を交わしていると……。


「あ、逃げ始めた」


 竜種たちの動きが、明らかに変化したことへ気づく。

 これまでは、攻撃本能に導かれたか、はたまた最強種としての誇りからか、果敢に覇王へと挑みかかっていた竜たち……。

 それが、空中で方向転換し、どこぞへ飛び去ろうとしているのだ。


「なあおい、魔物って普通逃げないよな?

 逃げずに、自分が死ぬまで人間を襲い続けるものだよな?

 ましてあれ、最強の魔獣だぞ?」


「ですので、私に聞かれても……。

 ただ、この状況というか、覇王が普通じゃないとしか」


 彼の言葉は、正しかった。


「――ふうん!」


 まるで、空中を滑るように……。

 覇王とその愛馬は幾重(いくえ)にも残像を残しながら飛翔し、竜種たちの前へと回り込んだのである。

 しかも――なんかそのまま浮いている!


「哀しみを背負った我からは、何者も逃れることができぬわ!」


 それは残像残しながら移動できる説明にも、空中で静止できている説明にもならないと思うが、できてしまっているものは仕方がない。

 今はただ、頬をつねってこれが夢でないことを確認しつつ、目にした光景を受け入れるしかなかった。


「――――――――――ッ!」


 もはや退路はない。

 それを悟った竜種たちが、決死の抵抗を試みようとする。

 が、


「――はあっ!」


 覇王は、それを許さない!

 彼――たぶん彼、きっと彼――が両手をかざすと、まるでそこから下方に引き付ける力が生じたかのように、竜種たちは次々と地へ叩き落とされていったのだ。


 ――ヒャッハー!


 落とされた先で待ち受けていたのは――タフボーイたち!

 それまで着ていた服を自ら引き裂き、半裸となった上で、どこからともなく取り出した肩パッドを装着し……。

 それぞれ、髪をニワトリのトサカがごとく逆立てるか、あるいはこれもどこからか取り出した仮面を装着している……。

 これは、間違いない。


 ――モヒカン!


 ――そして、修羅!


 自分たちは今、覇王が軍勢として従える者たちの誕生を目撃しているのだ!

 以前、正統ロンバルドの王都ビルクで彼らを見た際は、どこからかそういう風習の部族でも連れてきたのかと思ったものであった。

 しかし、その実態は、覇王の覇気にあてられた者たちによる転向だったのである。


 ――ヒャッハー!


 内に秘めていた狂気を剥き出しにしたタフボーイたちが、地に落とされた竜種たちへ殺到していく。

 彼らが手にしたるは、旧ロンバルド王国の騎士として愛用していた騎士剣や、正統ロンバルドから支給された武器――ではない!

 そこら辺で調達した棍棒や、あるいは突然取り出した三節棍などである。


「なあ、普通に剣とかブラスターとか使えばよくないか?」


「ギルモア殿、深く考えてはいけません。

 イカれた世界へようこそしてしまいますぞ」


 ギリ正気を保っているギルモアたちが見守っていると、抵抗した竜種の爪と尾をかいくぐり、モヒカンや修羅たちが己の得物を叩き込んでいく。

 すると、おお……なんということか……。

 いかなる刃物でも傷つかぬはずの鱗はたやすく叩き落とされ、その下に隠された肉も削ぎ落とされていくのだ!


「――――――――――ッ!?」


 血しぶきを上げた竜たちが、苦悶の叫びを上げる。

 彼らの口から吐き出されるのは、もはや火炎の息ではない。


 ――血反吐(ちへど)だ!


 吐き出された血が雨となり、覇王の軍勢を濡らしていくのである。


 ――ヒャッハー!


 もはや、戦いの行方(ゆくえ)は誰の目にも明らかだ。


「ふ、ふふ……。

 ひとまず、ワム様になんと報告するかは決まったな」


「どう言うんです?」


 尋ねる魔法騎士に、ギルモアはこう言い放ったのである。


「あの国に住んでる連中、気が触れていると言うのさ」


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