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決戦 13

 密集して戦うには、それぞれの巨体が邪魔になるという理由がある。

 また、これまでの事例ではいずれも単独での出現だったことから、単に群れを成しての戦いが身についていないという事情もあろう。


 ともかく、上空に集った竜種たちは、ほぼ等間隔で散開し地上に降り立ったのである。

 これは、迎え撃つ人間側にとっては、ありがたくない展開であった。

 唯一、竜種に対抗し()る火器たるブラスターライフルやプラズマボムを所有するのは、ほぼ正統ロンバルド側の兵に限られているからである。


 ことに、後方の森へ逃亡しようとしていた王国兵に関しては、なんの対抗手段も持ち合わせていなかった。

 ほぼ全員が徴兵された者で構成されたこの一団は、あくまで最後の詰めとして用いる運用法だったことから、槍や弓など旧来通りの武装しか支給されていなかったのだ。


「――――――――――ッ!」


 正統ロンバルドが築いた防衛陣地と、森との境に存在する平原部……。

 そこに降り立った竜種の咆哮(ほうこう)を受けて、ただでさえ逃走状態に入っていた彼らの混乱は頂点に達した。


「おい! 押すな!」


「そう言ったって、どうしようもないだろう!」


「止まってくれ! 知り合いが転んだんだ!

 やめろ! 踏みつけるな!」


 特に、防衛陣地と竜種との間に挟まれた者たちは悲惨のひと言だ。

 大勢の人間が、突如として(きびす)を帰し逃げまどうのである。

 本来ならば、この事態に手を取り合わなければならない者たちが、互いに押し合い、転んだ者を踏み越えてすら逃走しようとするのだ。

 まさに、地獄絵図であるといえるだろう。


 だが、絶望的な状況であるのは、戦いを生業(なりわい)とする者たちにとっても変わらない。


 ――ピュン!


 ――ピュン! ピュン!


 新種の魔物を除いては、絶対の殺傷力を誇ってきたブラスターの光……。

 それが、恐るべき密度でもって降り立った竜種に撃ち放たれる。

 光線の雨と呼ぶべき懸命な攻撃は、しかし、


「――効かんのか!」


 竜種に対し、一切の効果を発揮することがなかった。

 鋼鉄以上の強度を持ち、溶岩にすら耐えるといわれる鱗には傷一つついておらず……。


「ルゥ……?」


 どころか、それぞれのビームパックを使い切るまで行われた攻撃は攻撃として認識されておらず、その竜種は一瞬だけ破壊衝動を忘れ、不思議そうな顔をしながら首をかしげてみせたのである。


「だったら、こっちならどうだ!」


 言いながら、肩に自身のある者たちが投げ放ったのは、プラズマボムであった。

 見た目は単なる金属製の球に過ぎないそれは、その実、ブラスターすらしのぐ破壊力を持つ兵器である。


 手投げ弾と呼ばれる武器群に属するこの武器は、信管を時限式と接触式、二つのモードへ切り替えることが可能であり、起爆したその瞬間、半径数メートルをその名通りプラズマの奔流で包み込むのだ。

 この場合、用いられたのは接触式のモードであった。


 ――ズアッ!


 竜種自身の鱗に……。

 あるいは、その足元に……。

 それぞれ接触し、起爆したプラズマボムが、荒れ狂う雷の嵐を生み出す。


 多数のボムによって生み出されたそれは、竜種の巨体を包み込むほどの規模であり……。


「――やったか!」


 その破壊力を知る者たちは、この光景に快哉(かいさい)を叫んだ。

 ただ一発でも、頑強な堡塁(ほうるい)を半壊せしめる威力を誇るのがこの武器である。

 それが、これだけの数、一斉に起爆したのだ。

 いかに最強の魔物といえど、これを受けてはただでは……。


「――――――――――ッ!」


 わずかな希望を打ち消したのは、荒れ狂う紫電の中から放たれた怒りの咆哮(ほうこう)であった。

 ボムから放たれるプラズマ流は、そう長くもつものではなく、ほんの数秒もすれば何事もなかったかのように霧散する。


 そして、破壊の渦が消え去った先から現れたのは、先と同じく……火傷一つ負っていない竜種の姿だったのだ。


「――――――――――ッ!」


 ただし、今回は一切効果がなかったわけではない。

 おそらく、人間のそれに例えるならば、針でつつかれた程度の痛み……。

 ごくわずかな痛痒(つうよう)を、竜種は感じ取ったようだった。


 そして、世に存在するあらゆる痛みとは無縁な最強生物にとって、その程度の痛みでも激怒するには十分なものだったのである。

 怒りに燃える生物の行動といえば、これはもうひとつしか存在しない。


「――くるぞ!」


「吐息だ!」


「全員、散開して距離を取るんだ!」


 竜種は怒りのまま、自分に痛みを与えた生物へ復讐するための行動に出る。

 開け放たれた口腔(こうくう)の奥からは、ちりちりと火花が生じており……。

 これは、竜種最大の攻撃が放たれる前兆であった。


「――――――――――ッ!」


 恐るべき叫びと共に、炎が吐き出される。

 それは、退避が遅れた哀れな者を包み込み、悲鳴すら上げる間もなく焼き尽くした。


「う……うう……」


 どうにか難を逃れた者が、恐怖にうめいたのは当然であろう。

 吐き出された炎が消えた後には、先ほどまで人間だったはずの炭が転がっており……。

 これにあぶられた地面は、あまりの高温で飴のように溶けていた。


「くそっ!」


 仲間の死を、(いた)んでいる暇はない。

 もはや、逃げ場などというものはどこにもなく……。

 立ち向かわなければ、同じように殺されるだけなのである。


 しかし、窮鼠(きゅうそ)が恐れられるのは、あくまで思いがけない手傷を負うからに過ぎない。

 しょせん、ネズミの歯はネズミの歯でしかないのだ。




--




「今は、正統だの旧だのと言っている場合ではない!

 全てのロンバルドの騎士よ! ここは私に従え!」


 竜種という恐るべき脅威を前に、ベルクが下した判断は迅速なものであった。

 自軍の兵のみならず、浮き足立っている敵兵たちにも声をかけ、手の空いている者に運び込ませた『マミヤ』製の武器を配布していく……。


 初めて手にする者が過半を占めているが、そういった人間でも扱いやすいのがブラスターという武器の特徴である。

 イヴツーがごく簡単な説明をするだけで、すぐさま弾幕へ参加することができた。

 できた、が、それが効果を持つわけではない。


「ビームが通じん……!

 新種の魔物とやらと同じく、無効化しているのか!?」


「否定。

 新種と呼ばれる魔物は、ビームの熱を吸収することでそれを無効化していますが、竜種にそのような能力は確認されていません。

 あくまで、純粋な耐久能力で耐えています」


「どちらにせよ、効かないことに変わりはあるまい!」


 イヴツーの言葉にそう答えながら、自らもライフルを撃ち放つ。


「よいか! 決して近寄るな!

 どんな生物でも、無敵不滅ということはない!

 諦めずに攻撃を続けるのだ!」


 牙や爪に加え、振るわれる尾の犠牲とならぬよう兵らに指示を出しつつ、そう鼓舞する。


 ――アスルと遊んだゲームを思わせる光景だ。


 ふと、そのようなことを考えた。

 距離さえ取ってしまえば、脅威となるのが火炎の吐息に限られており……。

 なるほど、それを必死に避けながら射撃を当て続けるというのは、よく似た状況である。


 もっとも、ゲームでは射撃を当てれば多少なりともダメージを与えられるのだが……。


「力がいる!

 あれを打倒せしめる、圧倒的な力が!」


 吐息が自分とは別の方向へ放たれたことに安堵しつつ、またも犠牲になった兵の数にほぞを噛む。

 状況を打破する、なんらかの要素が必要であった。

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