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決戦 12

「おい、空を見ろ!」


「あれは……魔物?」


「だが、あの大きさは……それに、あの姿は!?」


「竜種だと!?

 竜種が、しかも群れを成しているというのか!?」


 つい先ほどまで、互いに刃を向け争い合っていた二つのロンバルドに属する兵たち……。

 彼らは、互いの陣営も忘れ、空を指差しながら驚愕(きょうがく)の表情を浮かべていた。

 しかし、それも無理はあるまい。


 空を埋め尽くす、巨大な生物たち……。

 彼らの全体的なシルエットは、爬虫類を連想させるものであった。

 しかし、その牙といい、爪といい、対峙した生物を瞬時に震え上がらせるほどのどう猛さは、既存のいかなるそれともかけ離れたものである。

 しかも、背中に備えた翼……。

 コウモリのものに似たそれは、爬虫類に備わるはずはないものだ。


 ――竜種。


 最大にして最強。あらゆる魔物の頂点に君臨する種族である。

 このロンバルドにおいて……いや、大陸のあらゆる国家において、その存在を知らぬ者はいないだろう。


 一度(ひとたび)、地上に降り立ったならば、無数の殺戮(さつりく)と破壊を生み出し……。

 中には、小国が一夜にして滅びたという伝説めいた実話も存在する。


 とかく、人間ごときが太刀打ちできる存在ではなく、もしもそれが現れたのならば、じっと隠れ潜み、幸運にもその牙から逃れられるのを祈るしかない存在なのだ。


 ただ一匹が現れただけでも、国を揺るがすほどの凶事……。

 人間がいまだ地上に繁栄できているのは、襲来の周期が百年を上回る程度に収まっているからだった。


 それが、群れを成し、しかも、どうやらここ戦士の平原めがけて降り立とうとしている……。

 その現実は、陣営を問わず全ての兵らを動揺させた。


「どういうことだ……。

 竜種が……しかも群れを作るなんて……」


「そんなの、どんな伝説にだって存在しないぞ!」


「だが、現実に起こっているだろう!

 お前の目にはあれが見えないのか!」


 すでに戦っている場合ではなく、迫りくる危機を前にした兵たちが互いに言い合う。

 そんな彼らに対し、方向性を示さんとしたのが、先ほど驚きの声を発していたアスル王の虚像であった。


『皆の者!

 うろうろうろうろたえるな!』


 ……言っている当人が明らかに一番うろたえているが、誰かが慌てていると急に冷静さを取り戻せるのが人間という生き物である。

 今の今まで戦場であった地に集結した者たちは、ひとまず彼の言葉に耳を傾けた。


『空に舞う無数の竜種は、諸君らも見ている通りだ!

 こうなった以上、人間同士が争っている場合ではない!

 ――ブラスターを取れ!

 相手が向かってくるというのならば、立ち向かうだけだ!

 手の空いている者は、武器庫から予備のブラスターとボムをありったけ運び出せ!

 陣営の如何(いかん)によらず、非所持の者へこれを渡すのだ!』


 その言葉に、敵対し刃を向けていた者たちが互いに視線を交わす。


 ――この危機を乗り越えるために。


 ――生き残るために。


 そうするしかないのは、明らかであった。


『各指揮官は、配下の者たちを束ね――』


 アスル王は虚像を通じ、なおも指示を出そうとしていたが……。

 それを許さなかったのが、竜種たちである。


 彼らからすれば、地上において最も目立つ目標が巨大なアスル王の虚像であり……。

 第一の標的にこれを選んだのは、ごく当然のことであった。


『――あ』


 竜種最大の脅威は、その鋭い爪や牙でも、太くたくましい尾から繰り出される一撃でもない。


 ――吐息だ。


 果たして、いかなる原理によるものか……。

 この生物は、開いた口から恐るべき超高温の火炎を、吐息として吐き出すことができるのである。

 それが、一つ二つではなく、この地に襲来した全固体から放たれたのだから、これはたまらない。


 一斉に吐かれた吐息は、束ねられ炎の竜巻となり……。

 距離を置いた地上においてすら、髪がちりちりと震えるほどの熱量を生み出す。

 それが、虚像に直撃し、これをかき消す。

 アスル王の虚像が投映されていた空間は、バチバチと紫電がほとばしった後、何も映し出さなくなった。


 それが、新たな戦いの開始を告げる合図である。


「――くるぞっ!」


 誰かが叫んだが、言われるまでもあるまい。

 空に舞う最強の種族たちは、最も目立つ標的を倒した後、今度は地上に存在する小さき者たちを狙って降り立ったのだ。




--




「まったく、陛下についていくと飽きないものだ」


 侍大将バンホーは、そう独り言を漏らしながら手にした刀を鞘に収めた。

 竜種に対しては、武士の魂といえどつまようじに過ぎぬという判断である。


「バンホー殿! これを!」


 そんな彼に、すかさずブラスターライフルを手渡したのは、猫科の特質を備えた若き侍――タスケであった。


「おお、助かるぞ。

 しかし、お主その姿はどうした?」


 バンホーが尋ねたのも、無理はあるまい。

 いつの間にそうしていたのか……。

 タスケは背中に何丁ものライフルをくくりつけ、猫というよりは、ハリネズミの獣人がごとき姿となっていたのである。


「はっ!

 竜種の姿が確認された時点で必要になると判断し、何人かを従え『マミヤ』へ取りに行って参りました!

 一緒に行った者たちも、順次これを配っているはずです!」


「ほおう……!」


 その行動には、感心する他にない。

 確かに、敵を見かけた際、対処するための表道具を取りに行くなどというのは、当たり前の行動だ。

 だが、今回は敵のモノがちがう。


 歴戦の剣士である自身すら含め、皆が皆、空を覆う竜種たちの姿に圧倒され、(ほう)けてすらいたのである。

 そんな中、素早く人数を集め必要な品を取りに駆け回った判断力と行動力は、賞賛すべきであろう。


 思えば、タスケは風林火の一員として、皇国拠点の襲撃からつなぎ役に至るまで、実に様々な任務を率先してこなしていた。

 便利屋といってしまえばそれまでだが、その日々がとっさの際における思考力を養ったにちがいない。


「よくやった!

 そうでなくてはな……!」


 地上に降り立った竜種を迎え撃つべく、すぐさま指示を出さなければならない状況であるが、そのひと言だけは忘れずに告げておく。

 すると、タスケは頭頂の猫耳をぴくぴくと震わせながらこう言ったのである。


「いや、はは……。

 サシャ殿にお会いする機会があったら、この働きをぜひお耳に入れておいてください!」


「ああ、うん……生きて帰れたらな」


 入ったばかりの気合が、早くも霧散するのを感じたが……。

 ともかくバンホーはライフルを構え、この大戦(おおいくさ)(のぞ)んだのであった。

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