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決戦 8

 ――オオーッ!


 『マミヤ』から吐き出され、混沌とする戦場へ突如として姿を現した侍たち……。

 彼らは一斉に腰の太刀を引き抜くと、正統ロンバルドの兵と切り結んでいた敵兵へ襲いかかっていった。


「バンホー殿たちだけに、いいところを持っていかせるな!」


「獣人国に、侍は七人だけにあらず!

 我らもまた、武士道へ生きる者なり!」


「死人となって戦え!

 この(いくさ)で倒れたならば、それは(ほまれ)ぞ!」


 先陣を切る形で戦っていたバンホーは、背後から響く同胞たちの声に知らず笑みを浮かべていた。


 ――これぞ。


 ――これぞ、武士の(いくさ)


 ファイン皇国から、祖国を解放するための戦い……。

 それは、圧倒的な兵力の差を埋めるため、影から行われるものであった。

 風林火の暗躍が、その代表であろう。

 決して正面からは立ち向かわず、手を変え品を変え、相手方が疲弊しきるのを待つ……。


 他に手がなかったとはいえ、武人としてそれに忸怩(じくじ)たる思いがなかったといえば、嘘になる。

 やはり、戦いというのは双方が名乗りを上げ、ぶつかり合うものでなければならないのだ。

 相手の目を見据え、互いの命と誇りをかけて戦うからこそ、野蛮な争いの中に高潔さが生まれるのである。


 ――今、拙者は(ほまれ)を背負っている。


 その確信が、老いた侍に無限の力を与えていた。

 しかも、今はそれにバトルスーツの補助までが加わっているのだ。


「――うっ!」


「――ぐっ!」


「――がっ!」


 疾風のごとく戦場を駆け抜け、たちまち三人の敵兵を切り捨てる。

 先代の獣人王――ウルカの父から賜った名刀は、どれほどの血糊(ちのり)を浴びようとも、決してその切れ味を落とすことはなかった。


「こ、こいつ……!」


「強いぞ……!」


 着剣したブラスターライフルを構える敵兵たちは、おそらく旧ロンバルド王国が誇る騎士にちがいない。


 ――何するものぞっ!


 突き出し、あるいは振るわれた敵の刃をことごとかわす。

 受け太刀はない。

 分子レベルでの振動という、いまいち理解の追い付かぬ機能を付与された敵の刃を受ければ、この名刀といえどもたやすく折れてしまうにちがいないからだ。


 だが、バンホーにとって、それはいささかの不利にもならなかった。

 獲物を狙う狼そのままに、俊敏な動作で銃剣の内側に潜り込み、すれ違い様の一撃を浴びせていく……。

 額や頸動脈に最小かつ致命の斬撃を浴びた騎士たちは、力なく倒れていった。


「どうした! どうした!

 この老いぼれの首、取ろうとする者はおらぬのか!?」


 その技前を見て怯んだ敵勢へ、すかさず煽りの言葉を入れる。

 見れば、自分と同じくバトルスーツに身を包んだ侍たち……。

 共に耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び、ウルカを守り抜いてきた同志たちもまた、旧ロンバルド王国の兵らを圧倒していた。


 さらには、獣人国の解放で合流した侍たちも、次々と合流してくる。

 長らく感じることがなかった勝ち(いくさ)特有の匂いに、老いた侍は笑みを浮かべたのであった。




--




 この、ブラスターライフルという武器……。

 最初にこれを手にした時から、ずっと感じていることがあった。


 ――柔軟性に欠ける。


 この、思いである。

 なるほど、強力な武器であることは疑う余地もない。

 何しろ、皇国は兵力では圧倒していながらも、これを用いた散発的かつ突発的な攻撃の数々へ、ついに音を上げることとなったのだから。


 だが、ただ強力な矢を、まっすぐ遠くまで飛ばせるだけの武器というものは、このような局面で力を失う。


「総員、同士討ちを防ぐためにライフルは捨てよ!

 魔法騎士らしい戦いというものを、この地で知らしめるのだ!」


 そのことを確信したギルモア・オーベルクは、魔法騎士たちにそう告げながら、自らライフルを放り捨てた。

 ワムから預かった騎士たちもそれにならい、次々とライフルを放棄していく。


 代わりに抜き放ったのは、腰のサーベルだ。

 銀の刃を備えたこれは、魔法騎士の誇り……。

 身にまとった赤き軍服と共に、皇国の強さを象徴する品である。


「総員、ゆるりと進撃せよ!

 せいぜい、ホマレある戦いとやらの邪魔をせぬようにな」


 そう言ってやると、魔法騎士たちの間に笑みがこぼれた。

 獣人は、自分たちを派遣された地から追い出した仇敵ともいえる存在である。

 当然ながら、互いに面白い感情は抱いておらず、ゆえに、ぶつかり合わぬよう布陣も進軍も事前に打ち合わせていた。


 そもそも、今回の戦いに派遣されたのは小勢であり、目的は多大な戦果を上げることではないのだ。

 では、何を目的としての派兵か……。

 それは、印象付けである。


 ファイン皇国の実力を知らしめると共に、ファインと正統ロンバルドが歩調を同じくしていると強く印象付けるために、ここへ来たのだ。

 もしくは、掛け売りしてもらっていた物資の清算か……。

 ワム率いる一軍が優勢に事を運べているのは、正統ロンバルドの支援あってのことであり、その代金は出世払いの形式を取っているのである。


 ギルモアを先頭とした一団が、指示通り悠然(ゆうぜん)と進む。

 その進路にあったのは、何やら土袋によって形成され――そして今は、例のプラズマボムよって破壊された小屋である。


 そこでは、正統ロンバルドと旧ロンバルドの兵たちが、着剣したライフルを手に激しく切り結んでいた。


「どちらが正統側の人間か!?

 我らは、遠方より援軍として参った!」


 ギルモアの声量も、なかなかもの……。

 響き渡ったその声に、乱戦状態の兵らは思わず動きを止め、互いを視線で見やった。

 そこに、答えがあった。


「――はっ!」


 サーベルを抜き放ち、それを横に振り抜く。

 虚空に向けての斬撃は、単なる素振りではない。

 同時に、切っ先から魔術が放たれていた。


 今回、発現したのは風の刃だ。

 しかも、それはただまっすぐ飛んでいくだけではなかった。

 不可視にして、恐るべき切れ味を秘めた魔術の刃……。

 それは、ギルモアの意のまま自由自在に動き回り、旧ロンバルド王国兵と思わしき兵たちを切り裂いていったのだ。


「ギルモア殿に続け!」


 他の魔法騎士たちも、次々と魔術を打ち放っていく。

 炎の矢や、水の槍といった術は、ほんのあいさつ代わりに過ぎない。

 金縛りや、生半可な攻撃では通さぬ障壁など、騎士たちの扱う術は多岐に渡っていた。

 そして、接近したならこちらのものと考えた愚か者は、銀のサーベルによって切り伏せられていくのだ。


 これこそが、魔術の力であり、魔法騎士の力である。

 その戦い方は、変幻自在。

 技が彩る大輪の花は、今、この地に咲き誇っていた。


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