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アスルブラック編 中編

 空間圧縮技術を使用した『マミヤ』の船内は、一つの都市といってそん色ない広大さであり、内部には裁判所やスタジアムなど、種々様々な施設が存在する。

 クローン培養施設もまた、そんな施設の一つであった。


「長フォルシャに案内されて、エルフ自治区の奥深くに隠されてたあれを見た時にも思ったが……。

 こうやって人工的に人間を生み出すっていうのは、ゾッとしない光景だな」


 その内部は、以前にも訪れたエルフ自治区に秘匿(ひとく)されていたそれを大規模化したような様相であり……。

 ちょうど、人間一人分が入ろうかという大きさの透明なカプセルがズラリと並んでいる。


 余談だが、施設内には鶏を培養する際に用いた小型カプセルが並んだ区画や、像でさえ培養可能な大型カプセルが存在する区画もあり、それらを見たら命の定義について考えること請け合いだ。


「肯定。

 銀河帝国においても、クローン製造は法によって厳しく制限されていました。

 こういった施設が用いられるのは、原則として医療目的に限られていたそうです」


「場のノリで一緒に祝っちゃったオレが言うのもなんだけど、やっぱ倫理的にどうかと思うもんなー。

 それで、どうしてまた制限されてるクローン製造をやったんだ?」


 イヴツーの言葉を受けたエンテが、立ち並んだカプセルの中央に存在するそれを見ながらそう尋ねた。

 (から)のカプセルが並ぶ中、そのカプセルだけは使用されており……。

 謎の液体が満たされた内部には、毎朝ヒゲを剃る時とかに鏡で見る顔の青年が素っ裸で漂っていた。


「――はわ。

 ……小さい」


 両手で顔を押さえつつ、しっかり指の隙間からガン見しているオーガがそうつぶやく。

 小さくないですー標準サイズですー。


「変なところに注目するんじゃない。

 さておき、俺自身にまで黙って製造したのはなぜだ?

 自分のクローンなんて、作られて嬉しいものじゃないぞ」


「ノー。

 正確には、マスターの完全なクローンではありません。

 マスターの遺伝情報を基に強化を施した、より完璧なアスル・ロンバルドです」


 俺の質問に、フルチンクローンが入ったカプセルの前へ立ったイヴが無感情な顔でそう答える。


「『マミヤ』のメインコンピュータは、深い危機感を抱いていました。

 何しろ、マスターはことあるごとに死にます。

 餅を食べれば窒息死し、働かせれば過労死し、挙句の果てには廊下を歩いただけで滑って転んで頭を打って死ぬ始末。

 しかも、この先に待ち受けるのは怒涛のシリアスパート。

 いかに、無限の再生力を誇るマスターといえど、それを発揮することは天が許さないことでしょう」


「ま、まあ確かに……。

 真面目な場面で生き返ったりはできないんじゃないかと思うけど……」


 そう列挙されると、返す言葉に困ってしまう。

 確かに、この調子で戦端が開かれると、流れ矢が頭に刺さって死ぬとか普通にありそうな気はする。

 どうかな? シリアスパートでも蘇られるかな……? 無理そうだな。


「そこで、『マミヤ』は現在のマスターに何かが起こった際、それを引き継げるクローンを用意することにしたわけです」


「なんか、分かるような分からないような……。

 それって、自分の主を自分で作り出すようなもんだろ?」


 イヴの説明に、エンテが頭の後ろで腕を組みながら疑問を口にした。

 それに答えたのは、イヴツーである。


「肯定。

 自分も『マミヤ』にアクセスしましたが、生み出されるクローンには精神的・思想的な縛りは一切ありません。

 クローンとはいえ、独立した一人の人間として振る舞います」


「イエス。

 『マミヤ』にとって、自分を指導するマスターの存在は必要不可欠。

 迂遠(うえん)に思えるかもしれませんが、これは必要な措置なのです」


「――でも、あたしたちの主はアスル様ただ一人だけです」


 イヴの言葉を遮ったのは、オーガであった。

 イヴの意見にはなんでも従う彼女がそんな態度を見せるのは、初めてのことである。


「……だな」


 そんなオーガにうなずき、カプセルの前に立つ。


「『マミヤ』にとっては、とりあえずマスターがいればそれでいいのかもしれないが……。

 俺たち人間にとっては、そうじゃない。

 誰を主と仰ぐかは、自分の意思で決める。

 このクローンには悪いが、今回は流産したと思って――」


「――おいおい、それはないんじゃないか?」


 ……聞き慣れない声が、俺の言葉をさえぎった。

 いや、聞き慣れないというのは少しちがうか……。

 ある意味、この世で最も聞き慣れた声である。

 ただ、この声を外側から聞くには、携帯端末なりテレビなりの道具が必要となるのだ。


「まさか……っ!?」


 驚きと共に、俺のクローンが入ったカプセルを見やる。


「ふっふっふ……」


 予想通り、声の発生源はそこであり……。

 そこでは、内部に満たされた液体の中へ浮かぶもう一人の俺が、含み笑いを浮かべていた。

 クローンが、閉じられていた目を開くのと同時……。


「――かあっ!」


 放たれた強力な魔術が、内部からカプセルを弾き飛ばす!


「きゃあっ!?」


 オーガの悲鳴が響き渡る中、俺はすぐそばにいたイヴが破片に見舞われないよう、自分の体でかばう。


「これが空気か、なかなか美味いもんだな」


 内部の液体がこぼれ出すカプセルの中、自分の足で立った俺のクローンがニヤリと笑みを浮かべてみせた。

 同時にカプセル内の床が展開し、漆黒の布をクローンに向け射出する。

 それは、クローンにまとわりつくとたちどころに成形され、体にピタリと貼りつく簡易なスーツと化した。


「クローン……もう完成していたということか」


「クローン!

 クックック。クローンか……そいつはちとちがうなあ」


 俺と、瓜二つの顔……。

 しかし、目つきといい雰囲気といい悪人感マシマシのそいつが、ますます笑みを深めてみせる。


「俺は、アスルであってアスルでない者……。

 オリジナルを越えし、真のアスル・ロンバルド……。

 その名も、アスルブラックだ!」


「アスルブラックだと!?」


 その瞬間、全員の脳裏に浮かんだ言葉はただの一つであろう。

 すなわち……。


 ――だせえっ!


「どうやら、マスターのネーミングセンスも受け継いでしまったようです」


「いや、俺そこまでネーミングセンス悪くないと思うよ? ねえ?」


「同感だな。

 俺を、そんな破片が頭に突き刺さって血がピューピュー出ている三枚目と、同じに思ってもらっちゃ困る」


 イヴに抗議していると、ブラックもまた同意してみせる。

 あと、さっきから頭が痛いと思ったら破片がぶっ刺さってたのか。抜いとこ。


「俺がそいつとはちがうということを、今から見せつけてやろう」


 回復魔術で治療する俺をよそに、ついにカプセルを脱したブラックが不敵な笑みを浮かべてみせた。

 そして、そのまま深く腰を落とし……気合を入れ始める。


「はあああああ……っ!」


 ――ゴゴゴゴゴッ!


 同時に、室内が……いや、『マミヤ』の船体全てが激しく振動し始めた!

 こ、これは……この圧倒的な力は……!


「あ……あ……」


 イヴツーとエンテにかばわれたオーガが、身を震わせながら声を漏らす。

 果たして、どうなってしまうのか……!


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[一言] 待ち受けるはギャグなり。
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