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あする1/2 3

 俺とベルクが、雑巾にバケツというローテク極まりない掃除道具を用い、超ハイテクな『マミヤ』内のブリッジを掃除した後……。

 まだちょっとゲロ臭い感じがするという女性陣の意見に従い、場所をいつもの会議室へと移すことになった。


 メンバーは、イヴ、エンテ、オーガ、ベルク、長フォルシャ。

 先日の面子(めんつ)に、ベルクと長フォルシャが合流した形だな。

 様々な機能を持つ円卓の上座に座った俺は、さてと咳払いを一つし、一同を見渡す。


「ギャグにありがちな、次回へ持ち越せば元の姿に戻るパターンかと思ったが……。

 ご覧の通り、一晩経っても女のままだった。

 ハッキリ言って、このまま放置して男に戻れる自信が全くない」


 自分でもビックリするくらいハスキーな声で、そう告げる。


「果たしてどうしたものか……みんなの意見を聞かせて欲しい」


「マスター、ご安心ください」


 真っ先にそう発言したのは、我が頼れる秘書イヴであった。


「まずは、お手元のスクリーンをご覧ください」


 彼女が頭髪の色彩をきらりと変化させると、どうやら円卓の内、俺の手元部分がスクリーンへと変化したらしく何事かが表示されたようだ。

 表示されたようだが、しかし……。


「ごめん、オッパイが邪魔で手元は見えない。

 もうちょっとこう、離れた位置に表示してくんない?」


 ミサイルなる、超古代に存在した兵器のごとく見事に突き出した俺のオッパイ……。

 ブラジャーに『マミヤ』製女性制服という二重の覆いを加えてなお、それは自身を力強く主張しており、今の俺は手元を見ることが全くできない状態だった。


「マジか。

 胸が大きくなると、本当に手元が見えないもんなんだな」


 明後日(あさって)の方向に感心したエンテが、そんな言葉を漏らす。


「でも、不思議だな……全然うらやましいと思わない。

 ウルカがそうなった時みたく、壁にめり込まされたりもしないし」


「それはまあ、本人もまったく嬉しそうじゃないですから」


 不思議がるエンテに、苦笑いしながらオーガがそう告げる。


「失礼しました。

 こちらをご覧ください」


 そんなやり取りを挟んだ後、ようやくオッパイが邪魔にならない部分へウィンドウが開かれた。


「これは……!」


 そして、そこに表示された内容……。

 いくつかの資料を見て、驚愕(きょうがく)に目を見開く。


「イヴ……これはまさか……?」


 資料の内容……。

 それは、二人組の女子がヒラヒラした格好で歌ったり踊ったりしている光景の予想図や、ライブ、グラビア撮影、握手会などなど、数々の催しに関する企画書であった。


 問題は、歌って踊っている女子二人の予想図だ。

 片方は――オーガ。

 もう、あの覇王姿は夢か幻だったんじゃないかというくらいお馴染みになっている、ちんまくかわいらしい彼女の姿である。

 そして、もう片方……。

 オッパイをぶるんぶるん振り回し、キレッキレのパフォーマンスをしているこの見慣れない黒髪女性は……まさか……。


「オーガちゃんとマスターで組むコンビユニット『正統ズ』の企画書になります。

 レッスンスケジュールも仮組みしておきましたので、今後は普段の仕事に加え、これらのレッスンも死ぬ気でこなしてください」


「こなしてください、じゃない!

 元に戻りたいから知恵を貸せっちゅーとるんじゃ!

 女であることを積極的に受け入れさせようとするんじゃない!」


 俺の言葉を、イヴはいつも通り無表情に受け流す。

 しかし、色彩自在なその髪は激しくその色合いを変化させており、彼女が軽い興奮状態にあることを推測させた。


「ですが、マスター。

 今のマスターは、我々に不足していた巨乳キャラである上に、顔立ちは若干ロリが入っており、万人に受けやすい素養を備えています。

 ここは一つ、せっかくの素質を活かし、アイドルとして頂点に立つのが前向きな考え方かと。

 言うなれば、~今さら戻りたいと言っても、もう遅い! 巨乳を駆使した元俺のアイドル史~です」


「あ、あたし! がんばります!

 レッスンはつらいけど、二人で一緒に乗り越えましょう!」


 イヴがそう提案すると、オーガもぐっと拳を握って宣言する。


「誰ががんばるか!

 作品タイトルを改ざんしにかかるんじゃない!」


「ですが、実際に今のマスターは男受けバッチリですよ。

 それは、先ほどベルク様が証明してくださった通りです」


「あー……うん……そうだね……」


 イヴの言葉に、これまで無発言のベルクが心ここにあらずといった様子で答えた。

 こいつはさっきの掃除中から完全に魂が抜け落ちており、美形キャラにあるまじきフニャフニャした状態になっている。

 せっかく呼んでみたが、クソの役にも立つまい。


 発言していないといえば、もう一人……。

 ここに至るまで、沈黙を貫いている人物がいたが……。


「……呪沼境(じゅしょうきょう)だ」


 その人物――長フォルシャが、重々しく口を開いたのはその時であった。


「……呪沼境(じゅしょうきょう)?」


 いきなり放たれた聞き慣れないワードに、思わずそう聞き返す。

 そもそも、彼らを呼んだのは数百年以上も生きてきた長フォルシャの知見を貸してもらうためであり、ベルクはその近くに住んでるからついでに呼んだだけだ。

 自然と、期待が高まる。


「うむ……」


 ロンバルド建国王とも知り合いの偉大なエルフは、俺の言葉に深くうなずいてみせた。


「諸君は、我が友にして建国王――ザギ・ロンバルドが大蛇を退治した逸話について知っているだろうか?」


 長の言葉に、イヴ以外の――ほうけているベルクですらが、無言でうなずく。

 建国王ザギによる、大蛇退治の逸話……。

 それは、わらべ歌として現在にも伝わっている極めて有名なエピソードである。


「無論です。

 当時、大暴れして人々を困らせていた大蛇の魔物……。

 これを退治することによって、俺の先祖は人心を集め、現在のロンバルド王国に至る骨子を築き上げたのですから」


「確か、親父もその戦いに同行したんだろ?」


 エンテの言葉に、全員が長フォルシャを見やった。

 それも当然のことである。


「そうなんですか?

 あたしが聞いた伝説だと、ザギ様が単独で倒したことになってますけど?」


「実はそうなのだ」


 オーガの言葉に、長フォルシャは少し照れくさそうにしながら当時のことを思い出す。


「あの大蛇は、現在で言う特級魔獣――カミヤたちですら苦戦する、大型にして強大な魔物の一種とみてよいだろう。

 当然ながら、ザギ単独で倒せるものではなく……。

 我々は、大いなる犠牲を払いながらもどうにか、最後に勝利を掴んだのだ。

 現在、単独で倒したことになってるのは、長い時を経て伝承が変節したためだな」


 しみじみと語る長の言葉は……重い。

 当然ながら、当時はカミヤもキートンもトクも哀をおぼえたタフボーイたちもいない。

 真っ当な人間やエルフたちで倒すには、どれほどの犠牲が必要だっただろうか……。


「そして、現在に伝わっていない出来事がもう一つある」


「それが、呪沼境(じゅしょうきょう)とやらですか?」


「うむ」


 俺の言葉に、長フォルシャが肯定する。


「実はな。

 戦いの中、ザギは大蛇の毒を浴びた……。

 結果、彼は一命こそ取り止めたものの、腰痛、水虫、十円ハゲなど、ありとあらゆる後遺症に苦しみ、果ては自身が死すべき地を求めて旅立つに至ったのだ」


「そのくらいで生きるの諦めるなよと思いますが、それはそうとして、子孫である俺がここにいる……。

 ということは?」


「そうだ。

 しばらく経った後、奴は元通り……いや、それ以上に健康な状態になって帰って来た。

 そして、こう言ったのだ。

 『呪沼境(じゅしょうきょう)……かの地に存在する沼へ浸かれば、いかなる傷も(やまい)も治る』

 ……とな。

 今となっては迂闊(うかつ)なことに、その場所は聞いていないが……」


「そこを探し出せば、俺も男に戻れる……?」


「そういうことだ」


 希望に満ち溢れた顔で、全員を見回す。


 ――呪沼境(じゅしょうきょう)


 名前以外、全てが謎に包まれたその地を探し出すことは、困難を極めるだろう。

 だが、俺はいかなる困難や大冒険を乗り越えてでも、必ずやこれを探し出し――。


「『マミヤ』のデータベースにヒットしました。

 おそらくは、各地へ分散し秘匿(ひとく)しておいた施設の一つであると思われます」


 イヴの言葉にズッコケる。

 特に困難も冒険もなく、目的の場所は明らかになってしまった。

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