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指し手 2

「覚悟はしていたが、ひどい臭いだな……」


 イヴ、エンテ、オーガといった面子(めんつ)と共に甲虫型飛翔機(ブルーム)から降り立った俺は、鼻の奥底までうがってくるような悪臭に思わず顔をしかめた。

 イーシャ辺境伯領の領都ザナク……その郊外に設けられた集積場の可燃ゴミ区画には、人々の排出した生ゴミなどが山のように積み上げられており……。

 それらの発する腐臭が、鼻だけでなく目すらも痛くしてくる。


 まあ、これもまた、発展の代償ということだろう……。

 言い換えれば、これまで人々の生活はゴミの量すらもたかが知れた、つつましいものであったのだ。


「マスター、依然も提案した通り、ゴミの処理施設も設置すべきではないでしょうか?」


 このような悪臭の中でも眉一つ動かさないイヴが、発光型情報処理頭髪(リライズ・ヘア)を虹色に輝かせながらそう言い放った。


「んー、将来的にはそうするけど、今はまだ『マミヤ』で回収処理していこう。

 人々のリサイクル意識を(はぐく)めてないし、火力発電所やミドリムシのプラントに人手を割いてて、ゴミの方は収集分別要員くらいしか集められてない。

 それに、魔物の被害が去り次第、難民たちの多くは故郷に帰るわけだから、将来的にどのくらいの規模が必要になるか不透明だ」


 そうしない理由を指折り数えながら、答える。

 発電所は、将来を見越して少々大規模なもので強行したが……。

 基本的に、ハコモノというのは少々の余裕を持たせつつも、必要な規模で設置していきたいからな。余分な維持費は削るに限る。


「リサイクルかあ……。

 全部燃やしちゃうんじゃダメなのか?」


 頭の後ろで手を組んだエンテが、生ゴミの山に顔をしかめながらそう言った。


「少なくとも、この惑星はノーと答えるだろうな。

 人々には伏せているが……お前も知っているだろう?

 魔物が大発生しているのは、『マミヤ』の技術による環境破壊を危惧したこの星のカウンターだ。

 それに何より、もったいない。

 これらを『マミヤ』の施設で適切に処理すれば、肥料に生まれ変わるんだから……」


「あー、確かに。

 うちの養鶏場で出た卵の殻も、他の材料と混ぜてプラスチックにしてるんだっけ?」


「用途は限られるけどな。

 使えるものは、使ってかないと」


 そんな風に講釈していると、オーガがおずおずと手を上げてくる。


「あのー、使うものは使うっていうのは分かるんですけど……。

 今回はあたし、場違いなんじゃないでしょうか?」


「いや、そんなことはない……」


 かわいらしくおててで鼻を押さえる新感覚覇王系アイドルに、首を振りながら答えた。


「ここに逗留させているのは、モヒカンや修羅を中心にした隊だからな。

 どうも、話を聞く限りだと揉めているみたいだし、あいつらに言って聞かせるならオーガが一番だ」


「みなさん、すごくイイ人たちですから、心配する必要はないと思いますけど?」


「イイ人たち、ねえ……」


 目的の現場に向けて歩きながら、そうつぶやく。

 果たして、そこには殺気立ったモヒカンや名もなき修羅たちがたむろしており……。

 ゴミ山の一画というシチュエーションもあって、一般人が見たならば、そのまま回れ右して来た道を戻りそうな光景となっていた。


 果たして、そこで何が起こっているのか……。

 一見したならば、無辜(むこ)の民が水や食料を略奪された現場に思えるだろう。

 しかしながら、真実はそうではない。

 そこは――殺人現場なのだ。


「――アスルだ。

 現場を見せてもらうぞ」


 修羅やモヒカンに道を開けさせながら、問題の現場に割って入る。

 するとそこでは、イーシャ辺境伯の正騎士とおもしき鎧姿の者たちがモヒカンらと睨み合っていた。


「ここは、ノーザン・イーシャ辺境伯の治める地……!

 事件は、我らが預からせてもらう!」


「ヒャア! 何を言ってやがる!

 後ろにそびえるザナクの城壁が見えるだろうが!?

 そこを越えて、難民居住区側で起きた事件なんだから、俺たち正統ロンバルド側の管轄だぜ!」


 騎士とモヒカンが揉めている理由……。

 それはずばり、所轄の問題である。

 ……はい、そうです。まさかこんな場所で事件が起きるとは思わなかったので、決めるのおざなりにしてました。


「騎士たちよ! お前たちが正義に燃えているのは分かる!

 しかし、先ほどノーザンと携帯端末で話をし、ひとまず今回はこちらで預かると決まった。

 追って伝令もこちらに来るはずだ。

 ここはひとつ、引き下がられよ」


「モヒカンさんたちと修羅さんたちも、落ち着いてくださ~い!」


 俺とオーガが両陣営に対し呼びかけると、権力パワーと萌えパワーで殺気立っていた両者が引き下がる。

 それを待って、俺はそこら辺から調達したのだろう布がかけられた場所を見やった。


 ゴミ山の斜面へ覆いかぶせるようにかけられたそれは、ちょうど人一人分ほどの膨らみがあり……。

 しかも、内側から血が染み出しているのだ。


「どれ……」


 素早く十字を切った後、これをめくる。

 ……まあ、多くを語る必要はあるまい。

 あちこちに打撲を受けた形跡のある、無惨な死体がそこに転がっていた。


「あー、そこの君。

 この地を守護する騎士として、被害者はどのような身分の人間だと思う?」


「はっ……!

 姿のみすぼらしさから、おそらく浮浪者の(たぐい)かと」


 俺に呼びかけられた騎士が、きびきびとそう答える。


「ゴミ山から転がり落ちて死んだ……っていうのは、少し無理があるな」


「イエス。

 視覚情報を『マミヤ』に転送、分析した結果、他殺死体であると断言できます」


 俺について来たイヴが、死体を見ながらも表情一つ変えずにそう断じた。


「つっても、凶器は転がってないみたいだな」


 おそらく、狩猟を通じて体制があるのだろう……。

 エンテもまた、顔色を変えずに周囲の様子を眺める。


「――ぴえっ!?

 や、安らかに眠って下さい……」


 オーガよ。涙目になっているが、お前は覇王だった時に皇国各地でもっとすごいことしてるからな?


「――難民のやつらだ!

 難民のやつらがやったに、ちがいねえ!」


 そんな風にしていると、だ……。

 大声でそう言い放つ、闖入者(ちんにゅうしゃ)が現れた。

 しかも、それは一人二人ではなく……。

 十人ばかりが、騎士やモヒカンに押し留められながらも騒いでいるのだ。

 彼らに共通しているのは、被害者と同様にみすぼらしい格好をしていること……。


「彼らは?」


「はっ……!

 おそらくは、被害者と同じ浮浪者の仲間かと」


 またも騎士の一人を呼び止め尋ねると、想像通りの答えが返ってきた。


「あいつら、街の人間に不満があるからって、こんなことしやがって……!」


「殺されるようなやつじゃ、なかったのに……!」


 浮浪者たちが騒いでいると、ついに騎士の一人が堪忍袋の緒を切らして抜剣する。

 こらこら、モヒカンより先にキレるんじゃない。


「貴様ら! いい加減にしろ!

 何者が殺害したかは、いずれすぐに分かることだ!

 このような所で騒ぐんじゃない!」


 さすがに、これはたまらなかったのだろう……。

 騒ぎながらも、浮浪者たちは解散していった。


「イヴ、どのくらいの時間に死亡したかは分かるか?」


「『マミヤ』の分析によれば、おそらくは数時間前です」


 そんな様子を見ながら聞くと、寸分の間を置かずに答えが返ってくる。


「となると、夜中か……。

 まあ、連中の言う通り、街で暮らしてる人間がってのはないよな。

 閉じられた城門の外で暮らしてるのって、浮浪者くらいだし」


 彼ら浮浪者は、都市内の片隅や城門の外で、ぼろい毛布にくるまったりして夜を越すものだ。

 これは、ある程度の規模を持つ都市ならばどこでも見られる光景である。


「反面、難民居住区には柵などがありませんので、ここへの出入りはフリーです」


 イヴの言葉に、うなずく。


「ともかく、モヒカンと修羅たちに地道な聞き込みをさせて捜査するしかないだろう。

 殺人事件の調査ってのは、そういうものだ」


 ――殺人事件。


 その部分を、やや強調しながら言い放つ。

 俺自らがここへ来たのは、何も揉めているのを調停するためだけではない。


 これが、殺人事件……。

 それも、浮浪者とはいえ街の人間が、難民居住区のすぐ近くで殺害された事件だからだ。


「こんなことが、そうそうあってほしくはないが……」


 願いを込めて、そう口にした。

 しかし、それはかなわず……。

 同様に犯人不明の殺人事件が、トロイアプロジェクトに選定された各都市で頻発したのである。

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