ヌイグ・バファー ~その青春~ 死
「とにかく! 再戦を……ビームとか衝撃波とか出さない再戦を希望します!
あんなもん、どうしろというのですか!?」
自身、見苦しいとは分かっているものの、アスル王にひたすら抗議する。
ここが、オーガちゃんを手に入れられるかどうかという瀬戸際なのだ。
なんだっていい! ゴネてゴネてゴネ通すのである!
「いや、ちゃんとガードしてれば防げるよ?
実際、第二王子は防げたし。第一王子は直撃してたけど」
「あんた、実の兄たちにあんなもんぶっ放してたんですか!?
そんなだから、国を追われることになるんですよ!」
「あと父上も無理だった」
「国の王をなんだと思ってるんですか!?」
「そうは言っても、鍛錬中のことだし……。
他には、バンホーも防げる。多分、ワム女史や生前のアラドさんもいける」
「誰です、その人たち?
と・に・か・く! 貴族同士の勝負というものは、魔術の類を用いぬのが古来よりのしきたり!
体術のみを使った、尋常な形での再戦を希望します!」
「えー、めんどくさいなあ……」
難色を示すアスル王だったが、意外にも口添えしてくれたのはイヴ女史だった。
「マスター、私からもお願いします」
ニュッと登場したイヴ女史が、自らの主に向けそう告げる。
「あれでは撮れ高が足りませんし、実際、なんかずるい感じがするので賭けていた人々から不満が出る可能性もあります」
「む……それを言われると、確かに」
今日、この試合はテレビを通じて中継されており、各地に設けられた投票所では賭けも行われていた。
そして、正統ロンバルドは胴元として控除を得ることにより、不足している戦費をまかなおうとしているのである。
そこが、付け目……!
「そう! イヴ殿の言う通りです!
今宵の戦いは、興行として成立するかという試金石!
ぜひ! 再戦を!」
「ふむ……」
「マスター、重ねてお願いします。
何より、あんなあっさり倒されてしまっては、私の怒りが晴れません。
もっと、じわじわとなぶり殺しにしてください」
「え? なぶり殺し?」
問いかけるが、二人ともヌイグの言葉はガン無視していた。
しばらくして、アゴに手を当てながら考え込んでいたアスル王が決断を下す。
「よし……!
いいだろう。再戦の申し出を受けよう」
「――ありがたき幸せ!」
その場でひざまずき、頭を垂れる。
なぶり殺しという言葉は気になるが……。
ともかく、ビームとかがなければこっちのものなのだ!
そして、十分ほど仕切り直しの時間を置き……。
本日二回目の試合が開始された。
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「始め!」
怖いのか闘技場の下に避難しているクッキングモヒカンが開始の合図を放ち、今度はちゃんと立っているアスル王との再戦が始まる。
「――ふうおっ!」
そしてその体が、軽やかに宙を舞った!
同時に放たれるのは、流麗な飛び蹴り!
それは、完全にヌイグの反応速度を越えており、防御も回避も間に合わずまともに喰らってしまう!
しかも、アスル王の攻撃はそれで終わらなかったのだ!
「――ふうおっ!」
「――いやっ!」
「――ふうおっ!」
飛び蹴りが……。
手刀が……。
そうかと思えば、またもや飛び蹴りが……。
次々と、ヌイグに叩き込まれる!
「――そこだっ!」
宙に浮かされたヌイグの体へ両手の手刀が打ち込まれ、なおも連撃は継続された!
「――人の皮をかぶった悪魔め!」
さらに数発打ち込まれ、ようやく闘技場へ落下しようとしていたヌイグの体がアッパー気味の手刀でまたも浮かされる!
――自己紹介お疲れ様です。
などと思っている場合ではない。
「――死ねいっ!」
「――うりゃっ!」
「――死ねいっ!」
素早く跳んで跳ねてを繰り返すアスル王が、両手手刀とアッパー気味の手刀を繰り返し、空中のヌイグをなぶり続ける!
「――しゅ! しゅ! しゅ! ふおうっ! ふおうっ! ふおうっ!」
蹴りやら手刀やらが叩き込まれ続け、闘技場の上を何度もバウンドさせられてしまう!
さながら、これはヌイグを球に見立てた球技だ!
「――死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ねい!」
ヌイグがバウンドする反動を利用して空中に留まるアスル王が、ひたすらに両手手刀を叩き込み続ける!
その間に、観客たちは飲み物を用意したりしていた。
そしてついに……決着の時が訪れる!
「――覚悟!」
アスル王の両腕が目にも止まらぬ速さで動き、無数の手刀がヌイグに叩き込まれた!
――K.O.
「これぞロンバルド聖拳の真髄……」
そう言い放つアスル王だが、そんな武術の存在は初耳である。
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「やはり、貴族同士の決闘は剣を用いるのが仕儀!
ここはひとつ、剣での再戦を!」
「もう……しょうがないなあ……」
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「バンフレイム! ヴァイパーボルガニック! リボルバーヴァンディット! ブリンガーヴァンディット! ヴァイパー・グラウンド! ハイスラァッ! ブランディングクラッシャー!」
――DESTROYED
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「いや、今のハメでしょ?
私のシマじゃ今のノーカンだから」
「限られたルールの中で勝利条件を満たしただけだぞ?」
闘技場の床を叩きながらくやしがるヌイグに、アスル王が無情な言葉を投げかけた。
「こんな……! こんなはずでは……!
私は、バファー辺境伯家にその人ありと言われた天才のはず……!」
「うん、でも世の中には天才ってゴロゴロいるから」
刃がない練習用の剣を投げ捨てつつ、アスル王が肩をすくめる。
「再戦を……!
今度は私が勝てるルールでの再戦を……!」
「性懲りのないやっちゃなあ……。
ルール変えても勝ち目はないと思うぞ?
おーい、撮影班も撤収ね!」
「なにとぞ……! なにとぞ……!」
あきれた顔で撮影班を撤収させるアスル王に、執念深く再戦を申し込んでいたその時だ。
「アスル様ー!」
……この、声。
これを、ヌイグが忘れるはずもない。
おそらくは、次なるライブに向けて練習していたのだろう……。
薄手の運動着姿で、闘技場に向け走り寄って来るその姿は……!
「オーガちゃん……!」
「おお、オーガか?
何かあったのか?」
生で見る新感覚覇王系アイドルの姿に感動し身動きできぬヌイグをよそに、アスル王が気安く声をかける。
「えへへ……実はちょっと、見てほしくて」
闘技場に上がったオーガちゃんが、はにかみながら上目遣いでアスル王を見やった。
「ほんの一瞬しかできないので、目を離さないでくださいね」
「おお、いいぞ」
アスル王と共に、なんだかよく分からないがヌイグも目を見開いて、しっかりオーガちゃんを見据える。
「――えい!」
――ズモモモモッ!
次の瞬間、そこに立っていたのは新感覚覇王系アイドルなどではなかった。
まるで、樫の木へ荒縄を巻き付けたかのような……。
そう言う他にない、筋骨隆々な人物である。
身長はおそらく、二メートルを軽く超えており……。
ほれぼれするほどたくましい肉体が、ピチピになった運動着を内側から盛り上げていた。
その面立ちはまさしく――覇王!
両の瞳は、尽き果てぬ野心に燃えギラギラと輝いており……。
岩石から直接削り出したかのごとくいかつい顔は、生まれてこのかた笑みなど浮かべたことがないのではないかと思わされる。
「フハハハ! ほんの一瞬だけならバンプアップできるようになったわ!」
――シュルルルルル!
「あたし、がんばりました!」
一瞬だけ、凶悪な覇王の姿となり……。
今はまたちんまくなったオーガちゃんが、かわいらしくほほ笑む。
「おー、この分なら完全復活も間近だな。
……ん?」
それを見て満足そうな顔をしていたアスル王が、ふと闘技場に膝をつくヌイグを見やった。
「――ヌイグ!」
そして、しゃがみ込み素早くヌイグの手首を掴む。
だが、そこにあるべき脈動は……。
「し、死んでる……」
アスル王が、驚愕の声を漏らした。
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ヌイグ・バファー。
――死亡。




