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決闘王バトルシティ編 後編

 開催前は、戦場になるだのなんだのと物騒なことをぬかしていたが……。

 いざ大会が始まると、それぞれお行儀よくテーブルにつき、遊戯へ興じていた。

 いや、それはよくよく考えなくても当然のことだ。紙札を使った遊戯で、何をどうやれば戦場になるというのだろうか。

 それにしても……。


「こう……一手番当たりの所要時間が妙に長い遊びなのだな?

 普通、こういうのは駒を一つ動かすなり札を一枚出すなりすれば手番を渡すものだと思うのだが」


「お気づきになられましたか」


 ――ドン!


 ネイスの疑問に答えたのは、主を置いて大会に混ざってしまった供回りの騎士たちではなく……。

 いつの間にか傍らへ立っていた、無限の色彩へ変じる髪を持つ少女――イヴであった。


「彼らが興じているゲームの特徴は、モンスター、魔法、罠など様々な能力を持つカードを組み合わせ、コンボさせることにあります。

 AからBへ、BからCへ、Cから再びAへ、AからDへ、DからEへという具合に、コンボは絶え間なく延々と続いていくため、ひとつのターンを終えるまでにソリティアのごとくカードを扱うことになるわけです」


 すらすらと解説する少女の存在を、疑問に思うようなことはしない。

 おそらく、さっきからシャカパチシャカパチとやかましく、かつ、威嚇(いかく)的に紙札を打ち鳴らしているアスル王について来たのだろう。


「よく分からんが、そのコンボ? とやらのたびに、いちいち札の山を相手に切らせるのは手間ではないかね?」


「不正を防ぐためですので、こればかりは仕方がありません」


「ならば、もっと単純な遊戯にすればいいのではないか?

 こう、札に書かれた数の大小を比べ合わせるとか、あるいは、札の組み合わせによる役の強さを比べ合うとか……」


「とんでもありません。

 それでは、マスターの狙いが果たせなくなります」


「マスター……。

 アスル王の狙い、か……」


 会話を交わしながら、(くだん)の王を見やる。

 どうやら勝利を手にしたらしく、粉砕だの玉砕だのやかましくわめいているその姿からは、深い思慮など到底感じられなかった。




--




「フハハハハハ!

 というわけで、栄えある第一回大会の優勝者はこの俺!

 アスル・ロンバルドこそか最強の決闘者なのだ!」


 ――ドン!


 夕刻を迎えた広場で、表彰台に立ったアスル王が力強くトロフィーを掲げながらそう叫ぶ。


「ツエエエエエエエエエエッ!」


 まるで、強い決闘者やカードを見た時には、そうするのが王国(キングダム)に住む者の礼儀だと言うように……。

 敗れた大会参加者たちが、大声を張り上げた。


「お前たち! 最強の決闘者は誰だ!?」


「アスル!」


「最強のデッキはなんだ!?」


「青白龍ー!」


 そのように、アスル王と参加者たちが盛り上がる中……。

 突如として、姿を現わした者――いや、馬がいたのである。


「それはどうかな?」


 ――ドン!


 果たして、蹄でどうやってそうしているのか……。

 紙束――デッキというらしい――を手にした巨大な馬が、二足歩行しながら流ちょうな人語でそう煽る。


「果たして、青白龍が真に最強のデッキなのかどうか……。

 我がエルダーリッチとの決闘で確かめてみてはどうかね?」


 こう言われては、アスル王どころか参加者たちも黙ってはいない。


「野郎!」


「馬が決闘だと!?」


「ふざけやがって!」


 ……本当にふざけた状況だと思うのだが、こいつらは他に言うべきことがないのだろうか?


「よかろう!

 余興として、貴様の挑戦を受けてくれるわ!」


 表彰台から降りたアスル王が、空いていたテーブルにつく。

 馬の方も、巨大な体でどうにか着席し……。


「「――決闘!」」


 真の最強とやらを決める戦いが、ここに始まったのである。




--




 それは、アスル王が手番を終え、相手に盤面を委ねた時のことであった。


「ふうはははははっ!

 魔聖の乙女だかなんだか知らぬが、そんなモンスターは通さぬわっ!

 連綿(れんめん)の魂を発動! 場にいる戦の翼竜を墓地に送り、さらに連綿(れんめん)の魂第二の効果によって、デッキから三体目の青白龍をフィールドに召喚する!」


「ツエエエエエエエエエエッ!」


 アスル王の宣言と場に出された札を見て、参加者たちが一斉に叫ぶ。


「攻撃力三〇〇〇のモンスターが場に三体!

 これはもう決まったぜ!」


「ふぅーん。

 どうした、謎の馬よ?

 サレンダーするならば今の内だぞ?」


 ――シャカパチ! シャカパチ! シャカパチ!


 クソうざく手札を打ち鳴らすアスル王であったが、対する巨馬に動じた様子はなかった。


「まだ我の手番は終わっていない。

 魔術召喚を発動! その効果により、手札のスターアレイと魔女工房のミシュッタを融合させ、召喚獣トリオプルガを呼び出す!」


 ――ドン!


「……へ?」


 アスル王のシャカパチが止まる。


「よく分からねえが、手札だけでいきなり融合召喚しやがったぞ!」


「だが、奴の打点は二九〇〇だ! 青白龍には及ばないぜ!」


 一方、参加者たちの方は説明的かつ強気だ。

 そのおかげで、ネイスにもおぼろげながら状況を理解することができた。

 そして、巨馬の動きはそれで終わらなかった。

 手札から次々と魔法カードとやらを発動し、墓地へ送ったり墓地から呼び戻したり、ついでにアスル王にもカードを引かせたりとせわしなく効果を発動させたのである。


「え? ……え?」


 その度に相手の山札を切ってやりつつ、アスル王が困惑のうめきを漏らす。

 そのようなことをしている内に、ようやく巨馬は手札の回転を止めた。


「ここでスターアレイの効果を発動!

 このカードを手札から墓地へ送ることで、自分フィールドの融合モンスター一枚の攻撃力及び守備力を一〇〇〇アップさせる!」


 ――ドン!


「ツエエエエエエエエエエエッ!」


 巨馬の手札もよく回るが、参加者たちの手のひらも同じくらいには回る。

 いつの間にか、彼らは巨馬が発動させるカードの効果に一喜一憂し、ツエーツエーと叫び続けていた。


「さらに! 召喚獣トリオプルガ第一の効果!

 このカードの攻撃力は、相手フィールドに存在するカード一枚につき二〇〇アップする!

 続けて第二の効果!

 このカードは相手モンスター全てに一回ずつ攻撃でき、守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える!」


 ――ドン!


 トリオプルガなるモンスターの攻撃により、アスル王が自慢していた青白龍がまとめて蹴散らされる!


「うわああああああああああっ!?」


 その後も、特に挽回することはなく……。

 決闘に敗れたアスル王は、なぜか吹っ飛びながら地を舐めることとなったのであった。




--




「ツエエエエエエエエエエエッ!」


「諸君! これらのカードが封入された新パック、スレイヤーズ・シークレットは明日発売だ!」


「ウオオオオオオオオオオッ!」


「だが、先んじてここに我が大量入荷してきた!」


 ――ドン!


 ゴルフェラニがどこからともなく取り出したパックの山を見て、参加者たちが湧き立つ。


「俺には三パック売ってくれ!」


「こっちは五パックだ!」


「ええい! 俺は持ち金全部つぎ込むぜ!」


「ぐえ!? ぐえ!? ぐえ!?」


 参加者たちがゴルフェラニへ殺到し……。

 進路上でぶっ倒れていた俺は、次々と足蹴(あしげ)にされていく。


 しかしながら、これは……作戦通り!

 人々の間へ密かにカードゲームを流行(はや)らせ、その上で、現環境が破壊されるカードを新規に販売し、購入意欲を煽ったのだ!


 これこそ! まさに! 錬金術!

 自分で環境作って自分でそれを破壊することにより、このゲームなしではいられなくなった者たちから無限に金を巻き上げるのだ!


 さっきの決闘は、その広報活動である。

 だから、これは作戦通り……。

 作戦通り、なのだが……。


「いずれ必ず、エルダーリッチは規制しよう」


 人々に踏みつけられながら、俺は密かに誓うのだった。


 あ、そうそう。

 ルールとマナーを守って楽しく決闘!

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― 新着の感想 ―
[一言] てっきりオーバーテクノロジーでカードの絵柄が立体映像化すると思っていましたけど…
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