決闘王バトルシティ編 前編
ある者は、あっけなさを感じながら……。
また、ある者は嬉々としながら……。
はたまたある者は、古代の技術に関する知識を必死で身に付けながら……。
それぞれ、正統ロンバルドから斡旋された仕事へ従事する難民たちであったが、対価として支払われる貨幣の使い道はひとつしかなかった。
「さあ、今日も冷たいビールやスナック菓子!
つまみの缶詰めなんかを揃えさせてもらったよ!
買った! 買った!」
各居住ブロックごとに開かれた、一連の騒動で仕事を失った商人たちによる出店……。
そこに並べられている嗜好品や、あるいはシャンプーやトイレットペーパーといった生活必需品を購入するのが、それである。
「缶ビール三つと、ポテトチップスをくれ!」
「こっちは焼き鳥の缶詰めだ!」
どの職場においても、夕刻を迎えれば仕事が終わりというのは共通しており……。
自分たちが生産した農産物だけでは、決して癒せぬ渇きを満たすべく、男たちが次々に酒やつまみを買い求めていく。
「あれねえのか!? サバの味付け缶!」
「すまねえなあ……海産物系は、今切らしてるんだ。
次、『マミヤ』が巡回して来た時に仕入れておくよ」
旺盛な購入意欲を見せるのは、男たちばかりではない……。
「ちょっと! こっちは粉ミルクをおくれ!」
「はいよ! 赤ん坊抱えてると大変だねえ!
紙オムツは大丈夫かね?」
「ああ、そっちも付けといておくれ!」
「こっちは洗剤だ! 食器用と洗濯用両方だよ!」
「はいよ!」
男たちと比べると、実用品に傾いているが……。
こちらもこちらで、買い値としては見劣りしない量を購入していた。
そのように、嵐のような夕刻時を終え……。
「はぁー! 今日も売った! 売った!」
ようやくにも客のはけた露天商が、大きく伸びをする。
「親方! 今日も売れましたねえ!
いやあ、トロイアプロジェクトで行商ができなくなった時はどうなることかと思いましたが、なんとか生活できそうで何よりです」
「おうよ!」
かつて奴隷として購入し、今では弟分も同然となっている小僧ににかりと笑いかけた。
「酒は当然として、あのポテトチップスみたいな油っこいもんや、缶詰めみたいな味の濃い食い物……。
あれらは、一度覚えると我慢するのが難しいからな」
「生理用品や、赤ん坊のミルクやオムツなんかもですよね?」
「ああ! 女にとっちゃ、あるのとないのとじゃ大ちがいだからな!
まあ……」
そこまで言ったところで、露天の片隅……売れ残った品々を見やる。
「そういう風に、どうしても買わずにいられないもんや、なくてはならない物は売れるんだけどなあ……」
「それ以外となると、さっぱりですねえ……」
そこに、並べられていたもの……。
それは、腕時計なる時間を知らせる道具や、宝飾品類であった。
「今までの村暮らしとちがって、せっかく金を得るようになったんだから、こういうのも買うかと思ったんだけどなあ……」
「あの人たち、こういうなくても困らないものにはとことん金を出しませんね」
「それでも、ボールや安い人形なんかは子供に買い与えてくれるんだけどな。
この時計みたいな、高いものになると見向きもしねえ」
ジャラリと音を鳴らして腕時計をつまみ上げながら、嘆息する。
「そもそも、金で何かを買うって習慣自体がなかった人たちですもんね。
俺らが行商してた時も、大体は物々交換で取り引きしてましたし」
「それを考えると、必要なもんには金を出すようになっただけ、まだマシかだなあ」
「そうですよねえ。
ねえ、親方?」
「あん? どうした?」
「あの人たちが売ってるもんって、いつか買う人間が現れるんですかね?」
そう言いながら、小僧が目をやった先……。
そこにいたのは、寸劇を繰り広げる正統ロンバルドの王――アスルと巨大な馬であった。
「う~ん、困ったなあ、困ったなあ」
「やあ、どうしたんだい、ゴルフェラニ?」
後ろ足で直立しながら腕組み? をする巨大馬へ、アスル王が気さくに話しかける。
「実は、せっかくお給料もらったけど使い道に迷ってるんだ。
だってほら! ぼく、馬だから! 奇蹄目だから!」
「はっはっは! その割に、こないだのライブ回から直立二足歩行するわ人語を介するわとやりたい放題じゃないか!
さておき、そういうことならオススメの使い道があるんだ!」
「なんだって!? それは本当かい!?」
――チラッ。
……人馬揃って、こちらをチラ見してきた。
「親方、なんかこっち見てますけど?」
「馬鹿野郎! お客さんたちがそうしてたように無視しろ!」
しばらくそうした後、王と馬が寸劇を再開する。
「その使い道とは――こちら!
国債を買うのさ!」
「国債? ただの紙切れに見えるけど、こんなのにお金使って何か意味があるの?」
「ふっふっふ……それがあるんだな。
実はこれ、国が君に借金をしたという証明書なのさ!
混同しやすいけど、国民の借金ではなく、国が国民に借金してる形だからね! そこは注意しよう!」
「へえ! それで、これを買うと具体的にどんなメリットがあるんだい!?」
「ふふん……それはだねえ」
――チラッ。
「……親方、また」
「無視しろ! お前まで気が触れるぞ!」
こちらの会話が聞こえてないはずないのだが、寸劇は続行された。
「これを買っておくと、なんと! 一年後には、0.00000000000一パーセントもの利息が付いてお金を返済してもらえるんだ!」
「うわお! すっごくお得だね!」
「そうだとも! この機会に、君も国債を買おう!
そして、戦う戦士たちを支援しよう!」
――チラッ。
またしても、チラ見してる視線を背中に感じつつ……。
大急ぎで、小僧と共にこの場を引き上げた。
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「くそ、今回も駄目だったか!」
ゴルフェラニにご褒美の角砂糖をあげつつ、そこら辺の木箱へ腰かける。
「この国債というのは、どうしても売らなければならないのか?」
どうやってるのか蹄でこれを受け取ったゴルフェラニが、角砂糖を舐めながらそう尋ねた。
「必要だ。
必ず、必要だ。
戦費は絶対にまかなわなければならない。
が、俺は人気者の王様でありたいので、臨時徴税をしたくはない」
「ワガママな……。
ならば、利率をもっと上げればいいだろう?」
「いやですー!
これ以上、借金増やしたくないですー!
スキあらば消費税というのを作って、特に根拠もなく年々それを増額していきたいですー!」
「貴様、人間のクズか。
そんないいとこどりの方法が、あるわけなかろう?」
馬に人間のクズ呼ばわりされ、天を仰ぎ見る。
「とにかく、国債作戦は失敗だ。
利率をまともにしたところで、買い手である国民の理解が追い付かない。政策として斬新すぎた。
あーあ! 何かこう、金を刷るかのごとく売れる商品とかあったらなー!」
「お話は聞かせてもらいました」
一体、いつからそこにいたのか……。
いつも通り髪をピカらせながら、イヴがこちらに歩み寄ってきた。
「金を刷るかのように売れる商材……。
一つ、心当たりがあります」
それを聞いて、俺とゴルフェラニは思わず顔を見合わせた後、こう言ったのである。
「「なんだって!? それは本当かい!?」」




