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報道という戦い

 ブラスターライフルを手に取り、直接、魔物らと戦うのが第一の戦場……。

 兵糧や武器、ガソリンは当然として、前線で戦う者たちの靴下一足に至るまでを手配し、なおかつ、通常の国営業務までもこなす緊急対策本部が第二の戦場……。

 では、第三の戦場と呼ぶべきがどこかといえば、それは『マミヤ』内部に存在するテレビ局を置いて他にないだろう。


「獣人国から送られてきた映像、編集及びアテレコ完了しました!」


「ワム皇女から送られてきた映像も、編集は済んでます!」


「来週分の放送データをセットするの、遅れてるよ! 何やってんの!?」


 ――少数精鋭。


 と、言えば聞こえはいいが、実際は単純に人手が足りないだけのスタッフが、口と手……時には足をせわしなく動かす。


「サシャちゃん! アテレコお願い!」


「はい! 行ってきます!」


「ジャン! 魔物報道の編集投げてもいいか!?」


「うん! 任せてよ!」


 こんな状況であれば、子供であろうとも頼りにせざるを得ない。

 アスル王の妹弟子であるサシャと、弟弟子であるジャン……。

 赤毛の姉弟は、もはや立派なスタッフの一員としてこき使われる日々を送っていた。




--




「済まないな。

 本来、君たちは後学(こうがく)のために手伝ってるだけなのに……。

 気がついたら、当たり前のように仕事を回してしまっている」


 例えば、病院ならばエルフ、王庁舎ならばソアンが口利きした元商人見習いたちといった具合に、正統ロンバルドの各施設はそれぞれ同一の出自を持つ者たちが務めている。

 しかし、テレビ局だけはその例外だ。

 エルフもいればモヒカンもいるし、今、こうして短い休憩時間を使い(ねぎら)いの言葉をかけてくれているのは、初期に集められた奴隷の内、モヒカン化しなかった貴重な真人間であった。


 それは、テレビ放送の編集作業はイヴ主導の(もと)、手の空いている者たちが務めてきたからであり、要するに無計画なまま、なあなあで進行し今に至るのである。

 そのイヴも、今はオーガにかかりきりの時間が多くなかなか手が離せないため、今はこの真人間な彼がリーダーとなりテレビ放送を回していた。


「いえ、あたしたちも陛下のお役に立ちたいですから……」


「それに、ここまで付き合ってきたんだ。

 今更、他人行儀はなしだぜ!」


 姉弟の力強い言葉に、リーダーが目を細めてうなずく。


「そう言ってもらえて、助かるよ。

 二人のおかげで、僕たちはカップ麺生活をまぬがれているしね」


 リーダーがそう言いながらデスクを見やると、これには赤毛の姉弟も苦笑いを浮かべた。

 雑然としたデスクの上に並べられているのは、クッキングモヒカンがあらかじめ作り置きし冷凍しておいた料理だ。

 これは、大事な妹分と弟分の職場まで三食カップ麺生活にするわけにはいかぬと、アスルが断固として命じたからである。


「あ、はは……」


「兄ちゃん、おらたちには甘いから……」


「まあ、せっかく気を使ってもらってるんだから、ありがたく頂こう。

 何しろ、かつてと比べて外国側と王国側とで、編集作業の負担は二倍になってるんだから……」


 五目握りを食べながらリーダーが目をやったパソコン……。

 そこに映されているのは、獣人国の歴史深い寺社を再建している光景であった。


「こういう、獣人国や皇国の動きは王国向けの放送では一切使えないんですもんね……」


「いっそ、もう全部ばらしちゃえばいいのにな!

 お嫁さんの故郷を取り戻して、皇国の内乱にも手を貸してるってさ!」


「それができれば、僕たちも楽だけどね……」


 おにぎりを食べ終えたリーダーが、苦笑いを浮かべてみせる。


「ジャン、そんなこと報道したら、正統ロンバルドがあっちこっちに手を出してるって旧王国側にばれちゃうでしょ?

 ただでさえ、こっちが人手不足なのは見透かされてるんだろうから……」


「えー、でも、どうせ最後は(いくさ)になるんだろ?

 だったら、バレてたって一緒じゃん?」


「いや、弱みを見せないに越したことはないさ。

 僕の場合はちょっとした商売だったけど、それを見せた途端に同業者が寄ってたかって蹴落としてきてね……。

 最後は、身ぐるみ剥がされるも同然の形で奴隷に身を落とし、アスル様のところへ流れ着いたんだよ」


 そのような来歴を語られてしまえば、返す言葉などあろうはずもない……。

 人間というものは複雑怪奇であり、その内には、外見からとても想像できぬ形の年輪が刻まれているものなのだ。


「そっか、人と人が……国と国がつき合うのって大変なんだな……」


 少しばかり、しょげたようにうつむくジャンであったが、そこは切り替えの早い少年である。


「じゃあ、ワム軍の端末や獣人国のテレビへ魔物に関する報道をしないのも、同じ理由なのかな?」


「そうよ。

 ワム皇女が素直に獣人国を諦めて、自国の内乱平定に舵を切ったのも、獣人国の人たちが復興に専念できているのも、正統ロンバルドが盤石だっていう前提あってのことだもの。

 もしも今、こちら側が立て込んでいるなんて知られたら、どんなことになるか想像もつかないわ」


 少年の問いに、姉がすらすらと答えた。

 今の言葉は、おそらくアスル王の考えをそのまま代弁しており……。

 彼がこの姉弟を重用するのは、単に兄弟弟子だからというわけではないのだと思わされる。


「ちぇー。

 素直に話して力を借りれれば、ずっと楽になるのになー」


「でも、獣人国の人たちは品種改良された作物を栽培して、食料調達にすごく貢献してくれてるじゃない?」


 サシャの言葉は、事実だ。

 アスル王は火力発電所建設のモデルケースとする意味もあり、ラトラの都からほど近い沿岸部へいち早くこれを建設しており……。

 同時に、品種改良された作物の苗や『マミヤ』製の肥料を配布し、獣人国の生産力を強力に底上げしているのである。


 その指揮を執っているのは、王妃たるウルカであり、彼女の支えがあるからこそ、ワム率いる軍勢を支援しつつ旧ロンバルド王国の危難に立ち向かうという、離れ技が成立しているのだ。


「それに、バンホー様も……ね。

 ほら、メールが届いてる」


 リーダーがそう言いながら、向こうから送られてきたファイルを開く。

 送られてきたのは、ツンデレ系バーチャル狼耳美少女ホーバンちゃんによる新作動画の数々である。


「あの方のおかげで、番組ラインナップも寂しくならずに済んでるよ」


「あの爺ちゃん、ここぞとばかりに楽しんでるなあ……」


 リーダーが苦笑いしながらそう言うと、ジャンもあきれたように天井を仰ぎ見た。


「まあ、おサムライを統べる仕事は果たしてるみたいだし、向こうでは魔物も大人しいものだから……」


「それも不思議だよなー。

 なんで、ロンバルドの……それも正統(うち)にいい顔してる貴族の領でばかり魔物が出るんだろ?」


 姉の言葉にそう返すジャンであるが、今度ばかりは答えを持つ者がいない。


「いや、本当に不思議だねー」


 あえていうならば、リーダーの言葉こそがとりあえずの答えであった。

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