新感覚覇王系アイドルオーガちゃん 後編
はた迷惑なヲタ芸を披露したバカが一名、警備員たちからの熱い認知を受け連行されるというトラブルこそ発生したものの……。
新感覚覇王系アイドルオーガちゃんの記念すべきファーストライブは、つつがなく進行していった。
いや、つつがなくどころではない……。
――大盛況だ!
観客たちは、現世にありながら現実を忘れ、オーガの歌とダンスに熱中し……。
サイリウムの光を浴びたオーガは、レッスンで見せた以上のパフォーマンスを発揮して更にそれを盛り上げる。
ファンたちとアイドル……互いが互いを高め合いながらボルテージを高めていくその様は、星屑の舞台であり、百万の輝きであり、集う者全てに翼が宿ったようであり、とにかくサイコーであった。
――いける!
後方デュンヌ顔でその光景を見やっていたイヴは、確かな手応えにグッと拳を握りしめる。
関係者席を見やれば、今回多大な尽力をしてくれたソフィたち一座の者や、演出に貢献してくれたエンテたちが同じように感極まった様子でステージに見入っており……。
皆、同じ気持ちであることがうかがえた。
これはまだ、始まりに過ぎない……。
今は魔物との戦いに忙しいこともあり、現地へ来れたモヒカンと修羅はほんの一部に過ぎない。
また、この模様はテレビを通じ放送しているので、これをきっかけに彼女へ興味を持った者も数多いだろう……。
彼らの欲求を満たすため、大陸ツアーを展開するのだ。
老いも若きも、女も男も、全ての人間が夢中となり、サイリウムを振り回し、ついでにグッズを買ってくれるにちがいない。
そして、オーガの名は伝説として大陸史に刻まれることとなるのだ。
彼女こそが、唯一無二……真のアイドルであると!
これこそ! まさに! アイドルのマスター!
野望はそれだけに留まらない……。
このステージに触発され、自らもまた輝きたいと思った者たちをオーディションで選抜し、更なるアイドルを生み出していくのもいいだろう。
それによって巻き起こるのは、蠱毒のごときアイドル戦国時代である。
だが、それは決して悪いことではない……。
競争というものは多様性を生み出し、それぞれ更に個性を際立たせ、市場を活性化させていくのだから……。
そうやって人々の意識が最高潮に高まったところで、オーガがそれらを蹴散らし、頂点に立つ!
まさに、覇王の名にふさわしい偉業であるといえるだろう。
マスターであるアスルのオーダーなどガン無視した未来図に、心を躍らせてしまう。
いけない、いけない……『マミヤ』の誇る自立式有機型端末ともあろうものが。
まずは、目の前で繰り広げられているライブをきちんと終わらせなければ……。
そう考え、気を引き締めたその時である。
無粋な……。
あまりにも無粋なアラートが、スタジアム内に鳴り響いた。
いや、これが鳴っているのはスタジアム内のみではない……。
『マミヤ』船内全域で、同様のアラートが鳴っているのだ。
そろそろ、お馴染みになりつつあるこれが示しているのはただ一つ……。
――特級魔獣の出現である。
「ガッデム! なんということでしょうか!?」
嘆いたところで、始まらない。
強大無比なる魔獣への対処は、最優先事項であり……。
いよいよフィナーレを迎えつつあったオーガのファーストライブは、当然ながら中止となったのである。
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そこは、かつての昔……死屍累々たる大戦が行われた古戦場であった。
当時の光景たるや、凄惨極まりないものであり……。
恐れというものを知らず、この星を土足で踏み荒らす人間たちも、その地ばかりは死んでいった者たちの怨念を恐れ、忌まわしき地として放棄し今に至る。
その魔獣が生を得たのは、そんな荒れ果てた荒野であった。
いや、彼を魔獣と呼ぶのは、果たして正しいのかどうか……。
全長は、実に三十メートル余り……。
体色も緑であり、体毛というものは存在しない。
しかし、二足で歩行し五指を備えたその姿は……!
――目には目を。
――歯には歯を。
この惑星そのものの意思が、異物たる人類に対し生み出した新たな抗体……。
今回のそれは、人類と同様の形質を備え、しかし、それを遥かに上回る生命力と超能力を付与された個体であった。
半面、知性は人類のものと比べ著しく低下しているが……。
問題はない。
きゃつらが文化と呼ぶ、全てに対する憎しみさえあれば……。
「ルウ……オォォォォ……!」
魔獣が……いや、巨人が咆哮し地を歩む。
だが、その前に立ちはだかる者たちの姿があった。
人類は小癪にも抗体の誕生を察知し、これに対する討伐隊をよこしたのである。
「オオ……ォォォ……!」
だが、それを見てひるむ巨人ではない。
それは、彼が恐れるような心を持ち合わせぬからでもあったが……。
何よりも、立ちはだかった者たちが、あまりに弱そうだったからである。
普段、抗体たちを倒している連中はどこに行ったのか……。
全員が全員、黒髪に地味な服装をしており、何が入っているのかよく分からないパンパンの背負い袋を背負っていた。
見るからに――陰の者。
恐れる必要など、どこにあろうか。
「オオオォォ……!」
すでに勝ち誇り、サディスティックな笑みすら浮かべている巨人……。
しかし、その笑みが凍りついた。
沈黙し、ただ一言も発することなくこちらに歩み寄る一団……。
そやつらの姿が、徐々に変化していったのだ。
撫でつけられた黒髪は、一体、何がどうなっているのか、鶏のトサカを思わせる形と派手な色合いになり……。
全身から闘気を立ち昇らせ気合を入れると、内から盛り上がった筋肉により、衣服はイイ感じに破けていく……。
半裸となった男たちが背負い袋から取り出したのは、用途不明の肩パットや仮面であり……これを流れるように装着!
おお……なんということであろうか……!
陰の者たちは、瞬く間にタフボーイへと変貌を遂げたのである!
いや、これはただのタフボーイではない……。
彼らの全身から湧き上がり、今や巨人すら凌駕するほどの大きさへ充実し膨れ上がっているおごそかな闘気……。
これは……これは……。
――哀、おぼえている!?
「デカルチャアアアアアアアアアアッ!?」
それが、巨人の発した最初で最期の言葉であった。
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『なあ、カミヤ。
一体、何を聞いてるんだ?』
当然ながら、音漏れなどは一切していないが……。
『マミヤ』の格納庫内で機嫌良さそうに足を鳴らしていれば、人工頭脳内で何か音楽を聴いているのだと察せられる。
『ん? これか?
オーガの歌ってた曲さ』
だから問いかけてみたトクに、カミヤはそう答えた。
『へえ……。
おれはまだ聞いてないが、どんな曲なんだ?』
『そうだなあ……』
兄弟機の言葉に、カミヤはしばし考え込んだ後、こう答えたのである。
『当たり前の、ラブソングさ』
新作も連載開始したので、よかったらお読みください。
「君とGプラを組みたい」 → https://ncode.syosetu.com/n5041hm/




