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新感覚覇王系アイドルオーガちゃん 中編

 髪の色は、示し合わせたかのように黒一色であり……。

 その整え方も、あからさまに手がかかっていない。

 服装は、寒色系を中心とした地味なものであり、着合わせを楽しむ心というものが感じられぬ。


 特徴的なのは、それが礼儀作法であるかのごとく共通して背負っている背嚢(はいのう)だ。

 一体、中には何が詰まっているのか……。

 いずれのそれもパンパンに膨らんでおり、そんなもん持ち込んで肩がこらないのかといらぬ心配をしてしまう。


 皆さん、とても楽しそうなのはよろしいのだが……。

 その笑みは、快活さというものから程遠く、粘性を感じさせるものであった。


 うん、あれだな……。


「こいつらのどこがモヒカンで、どこが修羅だ!?

 ヒャッハーしそうな要素が、一ミリも感じられねえぞ!

 こいつらがイキがれそうなのは、せいぜい匿名の場所くらいだ!」


「マスター、人を見た目で判断してはなりません」


「いーや、見た目が十割だね! 内面というものは外見にこそ表れるね!」


「まあ、お聞きください。

 確かに彼らは普段ヒャッハーし、死闘に明け暮れています。

 ですが、モヒカンと修羅も人の子。

 その内には、アイドルを求める心も備わっているのです。

 そして心の底からアイドルを応援し、オタ芸を披露せんとする時、人はあのような姿になるのです」


 自信たっぷりにそう言ってのけるイヴである。


「わ、分からん……。

 全っ然、分からん」


「まあ、マスターがどう言おうとも事実が変わるものでもありません。

 それより、いよいよオープニングアクトの時間です」


 イヴがそう告げると同時……。

 まばゆいばかりの光量で照らされていたドーム内が、暗闇に閉ざされる。

 そして、同時に大音量で流し出されるのは軽快なミュージック!

 ……なのだが。


「なあ、イヴ?」


「なんですか? 場が冷めるのでマスターもサイリウムを振って下さい」


 両手に持ったサイリウムばかりか、発光型情報処理頭髪(リライズ・ヘア)もド派手にピカらせたイヴがそう抗議した。

 だが、それは無視してステージを指差す。


「なんか……ゴルフェラニが歌って踊ってるんだけど?」


 そう……。

 オープニングアクト――前座ということだろうか――を務めているのは、他らなぬオーガの愛馬ゴルフェラニであった。

 像ほどもある巨体で軽快にステージを駆け回る様は、さすがといいたいところであるが……。

 なんか……二足歩行してる。


 それだけではない……。

 この馬――歌っていた。

 レースを控えた者のドキドキ感や、その日に備えての辛く苦しいダイエット生活を歌う姿は、実に堂に入ったものであり……。

 紡がれる歌声も、自由奔放さを宿しながら、芯の入った美しさが感じられるものだ。

 ――馬だけど。


 そのダンスも、キレといい見栄えといい申し分ないものであり……。

 合間に挟まれる投げキッスなどは、受け取った者が胸キュンすること間違いなしである。

 俺は人間だから、びちくりたりとも反応しないけどな! そもそもこいつ牡馬(ぼば)だし!


「どういう……ことだ……?

 なぜ、馬が歌って踊っている……?」


「マスター、何をおっしゃっているのです?

 ウマが歌って踊るのは、もはやこの世の常識ではありませんか?」


「そんな常識があってたまるかあああああ!

 大体、なんで二足歩行して人語を操ってやがる!?

 種族の限界を容易に超えるんじゃねえ!」


「マスター、馬が人間のように振る舞い言葉を話すのは、当たり前なのねん」


「んあ~! そんな当たり前があってたまるかあ!」


 などと揉めている間に……。

 ゴルフェラニによるオープニングアクトは、大盛況のまま幕を閉じる。

 くそ、なんかよく分からんが大盛り上がりしてやがる! この場において、むしろ俺の方こそ気が触れているアウェー男だというのか!?


「さあ、いよいよオーガのステージが始まりますよ。

 マスターも、ここまできたら四の五の言わず、これまで散々貢献してくれた彼女の晴れ舞台を応援してください」


「む、むう……」


 そう言われてしまうと、反論のしようもなく……。

 イヴの手から、サイリウムを受け取った。

 まあ、オーガだって女の子だもんな。

 ソフィたちのオペラ公演を見たりして、思うところもあったのかもしれない。


 それに、盛り上がっているモヒカン? や修羅? たちを見ていると、俺だけ冷めたツラしてるのもどうかと思うし。

 いや、モヒカン? や修羅? の中には、あえてサイリウムを振ったりかけ声を出したりせず、ただじっと黙って腕組みしてる奴もちらほら見かけるけどさ。


 果たして、俺はどちらのスタイルでいくべきだろうか……?

 そんな風に悩んでいると、ドームの天井に向けてサーチライトの光が伸びた。

 果たして、それが照らし出したのは鳥か? はたまた甲虫型飛翔機(ブルーム)か?

 いや、そのどちらでもない……。


 あれは――人だ!

 オーガが、天井からステージへとゆっくり降下しているのだ。

 どうやってそんなことやってるのかと思えるが、この魔力のうねりは……?

 ああ、なるほど、観客席に潜ませたエンテたちエルフが、魔術で落下速度をコントロールしているのね。


 それにしても、ゆっくりゆっくりと、観客たちの期待を煽るように降下してくるオーガ……。

 その装いの、なんと可憐なことであろうか。

 フリルやリボンをふんだんにあしらった衣装は、まるでお姫様のそれであるが……。

 生足や背中を惜しげもなく晒した扇情(せんじょう)さは、独自のものである。


 これを着ているオーガも、素材の良さを活かした薄化粧を施されている上に、今日は付け毛でより女の子らしい髪型に整えられており……。

 かわいらしいこと、この上ない。


 それにしても不思議なのは、かなりのミニスカートであるというのに全然見えないという点だ。


「マスター、必死になって見える角度を探しているところ申し訳ありませんが、あれはナノマシンを織り込んだ素材で出来ており、鉄壁の防御を誇っています」


「それ、この下駄の持ち主にも教えてあげてくれないかな」


 どこからともなく飛来し、俺の顔面にめり込んだ謎の鉄下駄を引き抜きながらそう告げる。

 そうこうしている内に、オーガが無事にステージへと着地を果たす。


「みんなー! 今日はあたしのライブへ来てくれてありがとーっ!」


 ――どういたしましてー!


 まるで、あらかじめ示し合わせていたかのような……。

 一致団結した声で、観客たちが応える。


「今、ロンバルド王国は魔物の大発生で大変だけど……。

 今日は、少しだけそのことを忘れて目一杯楽しんでいってね!

 それでは、歌います!

 ――恋の剛掌波(ごうしょうは)!」


 かくして、オーガの記念すべきファーストライブは始まったのであった。

 やれやれ……まあ、俺はクレバーに楽しませてもらうかね。




--




「オーガアアアアアア! ホ、ホ、ホアアアアアッ!」


 右手に四本! 左手に四本!

 合わせて八刀流となったサイリウムを縦横無尽に振るい、内からたぎる情熱を露わにする。

 もっと気の利いた言葉はないものかと思うが……。

 そんなものは、思いつかない。

 ただ、声にならぬ声を上げ、熱情のままにサイリウムを振るうのみだ。


 ええい! 八本だけじゃ足りん! かくなる上は、魔術を使って背中から孔雀(くじゃく)のごとく光の棒を生やしてくれるわ!

 いや、それだけじゃ足りない! 観客席の間を縫うように駆け巡り、俺こそが最も彼女を推しているのだと全世界に示すのだ!


 いざゆかん! フライハーイ!




--




 ※主人公が警備員に連行されたため、後編は三人称視点でお楽しみください。

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