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順当裁判

 様々な機能を持つ『マミヤ』であるが、その本来の役割は植民船である。

 はるかな昔……この船は、崩壊した銀河帝国の難民数千人を乗せ星の海を航行していた。


 数百、ではない。

 数千、である。


 見た目から推し量れる収容人数を遥かに上回っており、空間圧縮技術で広大極まりない内部空間を持つ『マミヤ』だからこその力技と言えよう。


 さて、それだけの人間が短くない期間を過ごした『マミヤ』であるから、船内には植物工場や工廠(こうしょう)を皮切りに、人間が暮らす上で欠かせない各種の施設が備わっている。


 かつての時代、人々を大いに楽しませたというアミューズメントパーク……。

 閉鎖された船内でありながら、おだやかな海岸を楽しむことのできるリゾート施設……。


 娯楽のための施設だけでも挙げていけばキリはないが、中には、船内で暮らす人々を律するための施設も当然ながら存在していた。

 例えばそう――裁判所なども。


 その船内裁判所に設けられた法廷……。

 急きょ傍聴人として集められた緊急対策本部の職員がざわめく中、裁判官席に座るイヴがおごそかに木製槌(ガベル)を打ち鳴らした。


「皆さん、静粛に願います。

 それでは、準備はよろしいでしょうか?」


「検察側、準備は完了しているぜ」


 検察席からはつらつと宣言したのは、前線から呼び出されたエンテである。

 ピコピコと耳を動かす姿はとても楽しそうで、俺の命がかかっていることを理解しているのか不安にさせられた。

 こうなれば、頼れるのは対面で起立する我が妻――ウルカしかいない!


 甲虫型飛翔機(ブルーム)を使い、獣人国から大急ぎで駆けつけた制服姿の彼女は、俺を見てにこりとほほ笑んでくれた。

 そして、ひと言。


「――処刑側、いつでもいけます」


 ははあ、さては俺を生かして返す気がないな?

 こうなれば、自分の身は自分で守るしかない。

 持ち物を確認しよう。




--




 『携帯端末』

 『現場(脱衣所)の見取り図』




--




 これだけか。

 仕方がない。証言が出るたびにゆさぶりをかけ、新たな証言や証拠が出てきたり、BGMが変化するのを待つしかあるまい。


 全員の準備が終わったのを確認したイヴが、高らかに宣言する。


「では、これより『アスル・ロンバルド事案事件』についての裁判を開始します。

 まずは、証人として被害者――オーガに証言を願います」


 そう言われ、オーガが証言台に立つとどよめきが巻き起こった。

 いや、そりゃそうだろう……。

 すっかりかわいくなっちゃってまあ……。

 『マミヤ』の制服に身を包んで髪を整え、ついでにイヴが用意したでっかいリボンなんか付けたその姿からは、あの覇王を連想することなど不可能である。


 またも、イヴが木製槌(ガベル)を打ち鳴らす。


「静粛に願います。

 では、オーガ。証言してください」


「は、はい……」


 恥ずかしそうにうつむくオーガであったが、イヴにうながされようやく口を開くのだった。




--




 証言開始




--




「まず、アスル様はあたしが超音波シャワーを使い終えた所へ、使用中の札も無視して乗り込んで――」


「――待った!」


「――ぴえっ!?」


 別に何かを叩く必要はないが、なんとなく叩かなきゃいけない気分になったので、とりあえず椅子の背もたれを殴りつけつつ口を挟む。


「その札は、本当にかかっていたのですか?

 失礼ながら、被害者のカンちがいということはないでしょうか?」


「ぴ、ぴえ……えと……その……」


 ああもう、仕草がいちいちかわいいなあ!

 だが、追及の手をゆるめることはしない! ここに活路を見い出すのだ!


「かかってましたよ?」


 イヴのそっけないひと言で、俺の目論見(もくろみ)は破綻した。

 仕方がない……とりあえず、証拠品に情報を足しておくか。




--




 『現場(脱衣所)の見取り図』に情報を加えた。




--




「では、オーガ。証言の続きを」


「は、はい……。

 アスル様は、あたしが見ないでと言っているにも関わらず舐め回すように裸を――」


「――待った!」


「――ぴえっ!?」


 またも背もたれを叩き、びしりと指を突きつける!


「私は被害者に飛びかかるべく、スキをうかがっていただけです!

 断じて、舐め回すように裸を見ていたわけではない!」


 だって、必殺の衝撃波は掴みかからないと打てないからね。

 どうだ! ぐうの音も出まい!


 ……あれ?


「そうですか。

 裸の少女に飛びかかるべく、そのスキをじっくりとうかがっていたのですね?」


「え、ああ、はい」


 気がつけば、無数の冷たい視線が俺を突き刺していた。


「うわ……」


 検察役を務めるエンテが、ドン引きした視線を俺に向ける。


「…………………………」


 ウルカは無言のまま、ただじっと俺を見つめていた。


 ――カン! カン! カン!


 木製槌(ガベル)が、無情に打ち鳴らされる。


「そこまで。

 本法廷はこれ以上、審議の必要性を認めません」


 し、しまったあ……!


「被告人、アスル・ロンバルドにこの場で判決を言い渡します」




--




 有 罪




--




「では、本日はこれにて閉廷」


 その言葉を受け、ウルカがどこからともなく見覚えのある鉄下駄を取り出した。

 わあ、すごい下駄だなあ……先端部からとっても危なそうな放射線の光が漏れ出してる。

 ウルカが口を開くのと、下駄ビームが発射されるのは同時のことであった。


死ね(ダーイ)


「――ぎえぴいいいいいっ!?」


 よい子のみんな!

 ラッキースケベイベントの後には、相応の社会的及び物理的制裁が待っているので注意しよう!

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― 新着の感想 ―
[良い点] アスルのギルティ [気になる点] きっとオーガの代わりに最前線で戦わせられるんだろうなぁ [一言] きっと最前線で新たな嫁見つけて来て嫁達が更にキレそう
[一言] >ラッキースケベイベントの後には、相応の社会的及び物理的制裁が待っているので注意しよう!。 されどこの案件は冤罪っぽい気が。
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