瞬間、流星のように…… 後編
以前、竜種と戦った際には、ある程度の打撃を与えた上で撤退をうながしたカミヤであったが……。
今回、そのような手ぬるい対処をするつもりはなかった。
そんなものが通用する相手でないことは察せられたし、魔物に対する怒りがすでに臨界へ達していたからである。
ゆえに、その初手は最大最強の一撃……。
『シネラマ――――――――――ビイィィィム!』
金切り声にも似た絶叫と共に、腹部の発射口が展開し、桃色の荷電粒子砲が放たれる!
本来、大型スペースデブリの粉砕除去に用いられるこのビーム砲をまともに浴びれば、オーガを除く生物はひとたまりもない。
その、はずであったが……。
「――――――――――ッ!」
新種の魔物がまたも咆哮すると、頭頂部から生える一対の角がきらりと輝き、その光を増大させてゆく……。
それは瞬時に形を変え障壁となり、魔物の全身を覆ったのだ。
『――何ィ!?』
カミヤが驚いたのも、無理はあるまい。
魔物に向けて放たれた、シネラマ粒子の奔流……。
殺到する粒子のことごとくが、障壁に阻まれむなしく消え去ったのだから……。
『生物が、これほど強力なバリアを張るだと……!』
バリアそのものは、サイキック能力を持つ生物ならば珍しい能力ではない。
現在のマスターであるアスル・ロンバルドも、その気になれば術理を同じくする技が使えるだろう。
だが、シネラマビームを防ぐほどの強力さとは……!
こうなると、もはや生物の範疇を完全に逸している。
目の前にいるこいつは、惑星そのものが生み出した天然の生物兵器だ……!
『ならば、こいつはどうだ!
バトルトマホウウゥゥゥク!』
カミヤが叫ぶと、肩部の突起が突き出す。
これを手に握り引き抜くと、瞬く内に手斧の形へと変化した。
伸縮自在のレゾニウム合金で形成された斧――バトルトマホークだ。
『――ブーメラン!』
カミヤはこれを、トマホークの名にふさわしく見事な手さばきで投てきしたが……。
『くっ……!』
やはり魔物のバリアに阻まれ、トマホークは粉々に砕け散るのであった。
それだけ投てきの速度がすさまじかったということでもあるが、カミヤたち三大人型モジュールや『マミヤ』にも採用されているレゾニウム製の斧が砕けるとは……!
電子の頭脳を持つカミヤにも、一瞬の動揺が生まれる。
それを見逃す、魔物ではなかった。
「――――――――――ッ!」
咆哮と共に障壁が消え去り、今度はその角から波状の光線が放たれる。
アスルが得意とする接触式の衝撃波をそのまま発射した、いわばショックビームだ!
『――ぐうおっ!?』
これをカミヤは、まともに浴びてしまった。
頑強な装甲がきしみ、駆動系が一瞬、静止する。
これを見ている者がいたならば、痛覚のないロボットが痛みにあえでいるようにも見えたことだろう。
しかも、魔物の攻撃はこれで終わらなかった。
「――――――――――ッ!」
雄叫びと共に、頭部の角を突き出しながら突進してきたのである!
たくましい四肢を用いたその突撃は、騎兵のランスチャージにも似た強烈さだ!
『――ぐああっ!?』
たかが生物の角の、なんという強度と鋭利さであろうか……。
なんと、左の太ももに突き立てられたそれはレゾニウム製の装甲を貫通し、内部の駆動系にも損傷を与えたのだ!
『ぐ……ううっ……!』
人間がそうするように太ももを押さえながら、カミヤがじりじりと後退する。
こちらの攻撃は通じず、相手のそれは必要十分な威力が備わっていると判明した。
さりとて、撤退したならばこいつはあの村を蹂躙するにちがいないのだ。
まさに――万事休す!
『――む!?
オーガか!?』
『マミヤ』のブリッジから通信が届いたのは、その時であった。
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『――何っ!? 流星のように……。
そうか! 分かったぜ、オーガ!』
いかなる手段を用いてか、遠方の何者かと会話していた赤き巨人がそれを終え、こちらへ向き直る。
それを見て、王たる竜として生み出された魔物は己が勝利を確信した。
敵の狙いは分かっている……。
おそらくは――頭上!
飛翔力にものを言わせ、流星のごとき蹴りを見舞うつもりなのだ。
鉄壁の守りを誇る王竜の障壁であるが、頭上のみはがら空きとなっている。
そこを突き、自慢の角を蹴り折られてしまえば、後は向こうのもの……。
殴る蹴るの暴行を加え、挙句の果てには投げ飛ばし、最後は逃げようとするところへビームを食らわせてくるにちがいない!
まるで前世の記憶がごとく鮮明に浮かび上がるその光景は、しかし、実現しない。
こちらには、奥の手があるのだ。
そう……。
――ちんちんである!
そのためのたくましい後ろ足であり、立ち上がりさえすれば、頭上はスキとならないのだ!
三世のようなヘマはしないのである! 三世って誰だか知らないけど!
「――――――――――ッ!」
勝利を確信し咆哮する王竜であったが、巨人はいつまで経っても飛び上がろうとする気配を見せなかった。
『内部駆動系の簡易修復完了……。
これならいけるぜ!』
むしろ、一歩、一歩と大地を踏みしめるようにしながらこちらへ近寄ってきたのである。
――血迷ったか!
角へ意識を集中し、先にも勝る強度で障壁を展開した。
いかなる攻撃も、この障壁を前にしては無意味!
そのことは十分に理解したはずの巨人であるが、歩みが止まることはなく……ついには、障壁の目前にまで迫ってきたのだ。
『――あたっ!』
そして繰り出される――一発の蹴り!
太ももに傷を負ったとは思えない見事な一撃であったが、当然ながらそれは障壁に受け止められる。
「――――――――――ッ!」
――やはり血迷ったか!
あざ笑うような咆哮を上げる王竜であったが、巨人の攻撃はそれで終わらなかった。
『あたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた――』
蹴りが……。
無数の蹴りが、流星のように障壁へ浴びせられたのだ!
すると、おお……どういうことか……。
鉄壁の守りを誇ったはずの障壁が、徐々に……徐々にたわみ始め、中心部がこじ開けられたのである!
まるで、円を描くように……。
蹴りの衝撃を加え続けたことにより、障壁が歪められたのだ!
『――おあったあっ!』
それを見逃す、巨人ではなかった。
こじ開けられた中心部からねじ込むように正拳が放たれ、それは王竜の角をへし折ったのである!
「――――――――――ッ!?」
『カミヤ――硬破斬!』
苦しみのたうつ王竜に、巨人が技の名前を告げた。
『貴様はもはや、ただのでかいトカゲに過ぎん……』
コキリ……コキリと……。
金属の体でどうやってるかは知らないが、巨人が指の骨を鳴らしながらそう宣言する。
ああ……なぜだろうか……。
「テレッテー!」という軽快な耳鳴りが聞こえる……。
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そのようなわけで……。
王たる竜として生み出された魔物は、殴る蹴るの暴行を加えられ、挙句の果てには投げ飛ばされ……。
最後は逃げようとするところへビームを食らわせられ、その生涯を終えたのであった。




