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手札

「魔物たちの群れ、掃討完了しました。

 対して、こちら側の損害はゼロ。

 我が方の完全な勝利です」


 勝利を告げるそれとは思えぬほど、淡々としたイヴの声……。

 しかし、『マミヤ』のブリッジでそれを聞いた者たちの反応は劇的であった。


「よっしゃ! まずは一勝だな!」


 出撃したがっていたものの、今回は目論見あっての編成だったためここで留守番させていたエンテがぐっとガッツポーズをしてみせる。


「ふむ……まあ、修羅共もよくやったと言っておこう」


 腕組みしながらうなずいたのはオーガで、彼女がいると十分な広さがあるはずのブリッジも、なんとなく窮屈(きゅうくつ)に感じられた。


「すごい……話には聞いていたけど……」


「あのブラスターって武器、カッケー!」


 サシャとジャンが、それぞれの反応を示す。

 二人にはブラスターのことを教えてあったが、実際に使用するところを見るのは今回が初めてだからな。

 さぞかし、驚いたことだろう。


「ヒャッハー! わざわざ数を絞って出撃させたとは思えねえ!

 大勝利だぜ!」


 クッキングモヒカン、てめーは黙ってお茶くみしてろ。


 そのようなわけで、戦術に明るくない面々は素直に喜んでいたわけであるが……。


「うーん、やっぱりモヒカンたちと騎士たちの同時運用はちょっと難があるな」


「いかにも、ですね」


「ああ、あれじゃせっかくのブラスターが宝の持ち腐れだ」


 俺の言葉に、ルジャカと辺境伯領一腕の立つ殺し屋が追従する。

 ベルクや長フォルシャ、ソアンさんといった頭脳担当組はそれぞれ帰還し後方支援に動いてくれていた。

 というわけで、大急ぎで合流してくれたこの二人が、俺の参謀役ということになるな。


「あれ? なんか不満があるのか?」


「ええ、騎士たちとモヒカンたちとで、連携が取れていないのです」


 エンテの言葉に、ルジャカがじとりとした視線をクッキングモヒカン(父親)に向けながら口を開く。こらこら、私怨を挟まない。


「何しろ、連中は何も考えず敵陣に突っ込んじまっているからな。

 あれじゃあ……チッ! モヒカンが邪魔で撃てやしねぇ!!」


「まあ、そういうことだ」


 俺の見解を代弁してくれた二人にうなずきながら、ついでに補足説明を行う。


「そういうわけで、モヒカン&修羅混成組の方がスコアを稼いでしまったわけだが、問題はまだある。

 ――機動力だ。

 いまだ自動車両を扱いこなせない辺境伯領の騎士たちにひきかえ、連中は自分の手足みたく乗りこなしているからな。

 結果、射程距離のみならず、行軍速度――古代では機動力と呼んでいたらしいな。

 その面でも、大きな隔たりが生まれてしまっている。

 実際に運用してみて痛感したが、やはり、火力・射程・機動力の三者は統一しないと駄目だな」


「では、地上に展開中の部隊はいかがいたしましょうか?

 当初の予定では、彼らにこのまま布陣させ、周辺地域の魔物へ対処させる予定でしたが?」


「そうだな……」


 毎度おなじみの無表情さで問いかけるイヴに対し、俺はモニターへ表示させた周辺地域の地図を見ながら少し考える。


「……この辺りは平原が多い。

 騎士たちの方を引き上げさせ、同数のモヒカンと修羅を補充することにしよう。

 もちろん、食糧や医薬品、ガソリンはたっぷりと持たせてな」


「イエス。ただちに準備を開始します」


 俺の指示を受けたイヴが、不動のまま髪の色彩をめまぐるしく変化させた。

 おそらくは、緊急対策本部に詰めている文官たちと連絡を取っているのだろう。


「補充する者たちは、我が選別しよう」


 血に飢えた男たちを選び抜くべく、オーガがブリッジを退室する。

 ひとまず、この辺りの対処はこれでいいだろう。


 それにしても……。


「数が足りない……!

 全っ然! 足りない……!」


 毎度おなじみの問題を口に出しながら、俺はがっくりと肩を落とした。


「マスターに疑問を申し上げます。

 このまま順当に兵を派遣していけば、ちょうど、カミヤが確認した魔物の発生地域全てに兵力を展開できると思われますが?」


 髪のきらめき具合から察するに、文官たちとのやり取りは止めないままイヴがそう問いかけてくる。

 どういう脳の造りをしているのかは知らないが、思考の並列処理は彼女の得意技だな。


「連れて来た兵士をほぼ全て投入して、ようやく対処できるってのはつまり、数が全然足りないってことなのさ」


 俺に代わってそう解説したのは、エンテである。


「何しろ、それじゃあいざっていう時の予備がいないからな!

 それに、交代要員がいないのも問題だ。

 だって、そこに投入された部隊ひとつで、周辺地域全ての群れに対処しなきゃいけないわけだろ?

 休みなく戦い続けるって、言うのは簡単だけど、そう簡単にできることじゃないぜ?」


 この場で最も小柄なエルフ少女が、腕組みしながらそう言ってみせた。


「しかも、任務の性質を思えばただ魔物と戦って終わりじゃない。

 人命救助や炊き出し、場合によっては壊れた施設の建て直しなんかも必要になってくるさ。

 そうなると、訓練を受けてないモヒカンや辺境伯領の騎士たちだけじゃどうにもならないのさ」


「なるほど、理解できました。

 エンテ様、解説ありがとうございます」


「へへ……!

 まあ、オレも故郷が魔物の群れに襲われて籠城してた時は、色々と働いていたからな!」


 尖った耳をピコピコさせながら、得意げにしてみせるエンテだ。

 普段、イヴと組んで収録している教育番組では、もっぱら聞き手や質問役に回っているからな。

 めったにできない解説役へ回れて、嬉しいのだろう。


「まあ、おおむねエンテの言ってくれた通りだ。

 付け加えると、俺は今回の大発生がこれで収束するとは考えていない。

 どころか、始まりであると直感している」


 その言葉で、ブリッジに詰める全員の視線が俺に集中した。


「根拠なんてない。本当にただの勘だ。

 だが、当たっていると確信している。

 そうなると、やはりもっと数が欲しい。いくらでも欲しい。

 だが、その当てはない」


「さらなる増援を送り出すため、ベルク様もフォルシャ様も奔走して下さっていますが?」


 ルジャカの言葉へ、首を振る。


「辺境伯領自体の守りも必要なことを考えると、現時点でもベルクの奴はかなり奮発して兵をよこしてくれている。

 長フォルシャに関しては、そもそもエルフ自体の絶対数が少ない。

 ……厳しいだろうな」


「なら、どうするつもりだ?」


 辺境伯領一腕の立つ殺し屋に言われ、あごに手を当てた。


「練度の足りなさが不安だが、志願兵たちを上手いこと駆使し、各地を守護している貴族家の支援も受けなければいけないだろうな。

 そちらも、連携のつたなさが問題になってくるが……。

 ともかく、だ」


 顔を上げ、この場で出せる結論をはっきりと口に出す。


「手札は圧倒的に足りない。

 だが、勝負事っていうのは、配られた手札でどうにかやりくりするしかないのさ。

 いつだって、な……」


 『マミヤ』から得られた装備や、オーガが鍛え上げたモヒカンと修羅たち……。

 そして、忘れてはならないカミヤたち三大モジュールやオーガ自身……。

 兵の質に関しては、依然、圧倒的なのが我が軍だ。

 果たして、それでどこまで手札の枚数を補えるか、どうか……。


 俺は沈黙し、思案を続けたのである。

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