さる魔物たちの顛末
ある者は、元々の姿を維持したまま、より頑強な筋肉や骨格、牙を手に入れ……。
またある者は、多種との融合により翼や甲殻など本来持ち得なかった特性を獲得する……。
中には、人間が魔力と呼ぶ力を用い、炎や雷などを生み出す能力に目覚めた者さえ存在した……。
――魔物。
意識のほとんどを自分たち以外の生物――ことに人間へ対する殺意で支配された彼らであるが、脳の片隅ではごくわずかな理性も維持されていた。
それを使って、彼らは考える。
――なぜ、自分たちは人間ごときを恐れていたのか?
この素晴らしき力を手に入れる前、人間というのは恐ろしき存在であった。
爪や牙こそ持たないものの、代わりに手にする武器は自分たちの毛皮をたやすく貫けたし、なわばりを囲う壁はかなりの頑丈さで、自分たちの襲撃をたやすく食い止めてしまう。
しかも、奴らは火を自在に操ることができたし、持久力という点では追随する生物がなく、驚くほどの勤勉さで様々なものを作り上げていた。
だが、今となってしまえば、そのいずれも恐れるに値しない。
より強靭なものとなった肉体は、人間たちの武器にも十分耐えうるし、鋭さを増した爪や牙を用いれば、なわばりを囲う忌々しい壁もたやすく破壊できると確信できた。
そして、自分たちの中には人間と同様かそれ以上に火を扱える者も生まれているのだ。
――人間たち、何するものぞ!
――殺せ!
――殺し尽くせ!
内なる何かに扇動されるまま、魔物たちは人里を目指し続けた。
人間たちの中には、より強固な武装で身を固め、他より優れた身のこなしを見せる者も存在するが……。
これだけの数でかかれば、いかほどのものでもない。
たちまちの内に蹂躙し、この衝動を満たせることであろう……。
その、はずであった。
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――ピュン!
――ピュン! ピュン!
……という、どこか気の抜けたような音と共にそれが放たれる。
それとは、一筋の光条だ。
だが、単なる光の線ではない……。
その光には、これまで人間たちが使ってきたあらゆる武器に勝る殺傷力が宿っているのである。
「――ッ!?」
これを浴びた同胞たちが、次々と断末魔の悲鳴を上げ倒れ伏す。
その傷口を見れば、おお、これはいいかなることか……。
分厚くなった毛皮も、肥大化した筋肉も、より太く丈夫になった骨もたやすく貫通されており、しかも、その傷口はぶすぶすと焼けただれているのである。
急所に当たれば、たちまち即死。
そうでなかったとしても、この奇怪な傷を負ってしまえばまともに動けるものではない。
肉体の表面ばかりか、その内側まで深く穿っての火傷が生み出す苦痛は、魔物となって以来抱いている闘争本能すら凌駕するほどなのだ。
こやつら……。
今まで見たことがない奇妙な筒を用いるこやつらは、空の彼方からやって来た。
いかなる鳥類よりも巨大な、人が造ったものと思える鳥……。
それが自分たちの進路を塞ぐ形で地上に降下すると、内部からこの筒を持った連中が吐き出されてきたのである。
――なんだ!?
――こいつらは、何者なのだ!?
魔物たちが、そのような疑問を抱く暇もなく……。
奇妙な筒を手にした者たちは、淡々と死の光を浴びせ続けていた……。
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また、恐るべきは奇妙な筒を手にした者たちばかりではなかった。
――グオォーン!
……という、爆音を響かせる鋼鉄の乗り物に乗った者たち。
「ヒャッハー!」
そやつらが、魔物のそれもかくやという下品な叫び声を上げながら襲いかかってくるのだ。
連中のおよそ半数はトサカのごとき奇妙な頭髪をしており、もう半数ほどは何故か仮面で顔を隠していた。
この集団を見て、魔物らが思ったことはといえば、ただひとつである。
――ちょっと待て!
――本当に何者なのだ!? こいつらは!
「ヒャア!」
「死にさらせやオラア!」
困惑する魔物らをよそに、半裸の男たちは次から次へと魔物たちを屠り去って行く……。
瞠目すべきは、その武装だ。
共通しているのは、半裸に――肩当て!
手にした武器は棍棒や手斧などで、人間たちが騎士と呼ぶそれに比べても、明らかな貧弱さである。
だが――強い!
なんだがよく分からんが、とにかく――強い!
「ヒャッハー!」
一ヒャハ一殺!
こいつらがヒャハりながら武器を振るうたびに、必ず同胞らが致命傷を受け倒れ伏すのだ。
――バカな!?
――我らの爪も牙も通用しないだと!?
「正統ロンバルドでは魔物の爪牙など知らぬ! 通じぬ!
ましてや拳法すら使えぬ相手など笑止!」
――おい! なんかこっちの言葉分かってる奴いるぞ!?
怯んだ魔物たちに、奇怪な集団は次々とヒャハっていく。
そのせん滅速度たるや、光放つ筒を手にした連中の倍近いのだから、苦労してあれを用立てた者は泣いていい。
これは果たして、現実の光景なのか……?
自分たちはいつの間に、ふざけた世界へようこそしてしまったのか……?
――人間たちは、いつの間にこんな気が触れちまったんだ!?
――どいつもこいつもタフボーイでタフボーイでタフボーイでタフボーイじゃねえか!?
ツッコミたいけど、それがかなわない。
だって魔物だから! 人語を話せないから!
「ヒャッハー!」
鋼の乗り物に乗ったトサカ頭たちが、すれ違いざまに同胞らの頭をかち割って行き……。
「――ハイ!」
「――ホアッ!」
仮面で顔を隠した者たちが、時に投てき武器を用い、時に土蜘蛛のごとき地を這う動作で同胞を打ち倒していく……。
自分たちは、間違っていた……。
この地上において、ただ殺戮のみを求めるのは、己らを置いて他にないと思っていた……。
しかし、真実は異なっていた。
目の前にいるこいつらこそが、全身の細胞全てを闘争本能に支配された誠の強者たちだったのである。
かくして、三分の一くらいは奇妙な光によって……。
残る三分の二は、ヒャハられて……。
その魔物たちは、余さずせん滅されたのであった。




