集結
――これこそ緊急対策本部!
――ベスト・オブ・緊急対策本部!
――緊急対策本部の中の緊急対策本部!
そう呼ぶにふさわしい姿へ、『マミヤ』の第二会議室を生まれ変わらせてから、およそ三時間ほど……。
「みんな、よく集まってくれた……。
まずは、迅速な行動に感謝する」
早速にも集まってくれた面子を見回しながら、開口一番に俺はそう言った。
まあ、人手不足な正統ロンバルドであるので、メンバーに代わり映えというものはない。
イヴ、エンテ、オーガといった王都常駐の三人娘は当然として、辺境伯領領都から甲虫型飛翔機の二人乗りで駆けつけてくれたベルクとソアンさん。
それに、同じく甲虫型飛翔機で飛んできてくれたエルフの長フォルシャが主だったメンバーである。
それに加え、彼らの背後には、王庁舎ビルで働く職員たちが整然と立ち並んでくれていた。
番外と言えるのがサシャとジャンで、外遊チーム共々引き上げさせた彼女らもこの場に出席させている。
外遊チームはそのまま報道チームへと役割を変え、『テレビ』を通じ必要な情報を王国民たちに届けさせるつもりだ。
その際、名物リポーターであるサシャが状況を深く理解しているのと理解してないのとでは、言葉の伝わり具合に大きなちがいがあるだろう。
あとはまあ、純粋に後学のためだ。俺には、亡きビルク先生の分まで二人を導く責任があった。
さらに、別室ではモヒカンや修羅たち、及び病院勤務をしてもらっているエルフたちが待機してくれている。
こちらに関しては、治安維持などで最低限必要な人数のみをビルクに残してきた形だな。
要するに、内政・軍事両面における、俺が自前で用意できる人材のほぼ全てが『マミヤ』に乗り込んでいるわけだ。
『わたしとバンホーは、リモートで失礼させて頂きます』
『本来ならば、風林火の者たちも連れて参じるべきなのですが、状況を考えれば獣人国側の守りもおろそかにできませぬ。
どうか、ご容赦頂きたい』
絵画の隣に設置したモニターからそう声をかけてきたのは、ウルカとバンホーである。
今現在、魔物の大発生が確認されているのは旧ロンバルド王国内だけだ。
しかし、これがさらに波及した場合を考えると、指導力に優れたウルカは現地で待機していて欲しいし、『マミヤ』製装備の扱いに慣れたバンホーたちや風林火もうかつには動かせなかった。
そもそも、大陸北部では今、ワム女史がぶいぶいとやっており、魔物の件とは関係なく火種だらけな状況なのである。
「他には、皇国から引き上げさせたルジャカと辺境伯領一腕の立つ殺し屋が後から合流する手はずだ。
さて、早速だが状況を説明しよう」
俺はそう言いながら、複合機に唸りを上げさせ印刷した大地図を、ミーティングテーブルに広げた。
「現在、旧ロンバルド王国各地では史上類を見ないほど大規模な魔物の発生が確認されている。
各地へ配された、おびただしい数の赤い点がカミヤの確認した魔物だ。
しかも、まだまだ増加傾向にあるらしい。
そもそもとして、ここまでカミヤにキャッチされてなかったからには、なんらかの方法で隠れ潜んでいる連中もいると見るべきだろうな」
ひと息に終えた俺の説明を聞いて、集まったメンバー全員が重苦しい溜め息を吐く。
「これじゃあ、オレたちの森を襲った大発生の再来だな」
「いや、エンテよ。そんなものではない。
各地域のそれぞれが、あれと同等かそれ以上の規模を持つ群れであると考えるべきだ」
エンテの言葉を、父親である長フォルシャがそう言って否定する。
「信じられぬのは、アスルが言っていたようにカミヤがこれを察知できなかったということだ」
「ヒャア! まるでダララワニの時みたいだぜ!」
オーガが珍しく思慮深げな仕草を見せると、クッキングモヒカンがいつも通りヒャッハーとかつての出来事を口に出した。
お前いたんだ? とツッコミたいところであるが、このモヒカンが言ったことは何気に重要である。
「確かに、あの時もトクが察知できていなかった……。
あれだけ巨大で、強力な魔物をだ。
オーガ、実際に戦ってどうだった? もし、あれが知られぬまま人里に進行していたならば……?」
「うむ……」
俺の質問に、オーガが腕組みしてみせた。
「奴は鼻も利き、巨体の割に馬とそん色ないほどの足を見せていた。
まず、一人残らず食い尽くされるだろう」
「そうか……強さの方はどうだ?」
「ブラスターやプラズマボムとやらを用いたとして、一軍を動員する必要があるだろうな。
無論、相応の被害が出ることを覚悟の上でだ」
「そういった装備を用いてない、通常戦力が立ち向かった場合は?」
「立ち向かうな。逃げろ」
「そうか、ありがとう」
覇王の忌憚なき意見を頂き、俺は残る皆に向き合う。
「聞いた通り、槍、弓、魔術で武装した通常の王国兵では対処できない魔物が出現するおそれもある。
いや、出現すると断じていこう。
そもそも、カミヤから送られたデータを見る限りじゃ、奴が対処してる魔物もかなり強力みたいだしな」
「となると、どうする?」
「知れたことだろう?」
皆の意識を一つにするためだろう……。
分かり切ったことをあえて聞くベルクに、自らの決断を口にする。
「修羅やモヒカンたちは元より、訓練中の志願兵たちに至るまで……。
全てをここに収容し、『マミヤ』そのものを移動基地として王国各地へ救援に向かう。
甲虫型飛翔機は数が足りないし、車両は速度が足りない上、旧ロンバルド側の国境といさかいになるだろうからな。
ベルク、お前のとこの騎士たちも借りるぞ?」
「ここまで秘匿してきたこちら側の戦力が丸裸となるが、それでも構わんのだな?」
「そもそも、『マミヤ』を探し出したのは王国民たちのためだ。
その命に代えられるものなど、何一つない。
で、あるからだ――」
そこで一旦、言葉を区切り、赤毛の妹弟子と弟弟子を見やった。
「いっそ、『テレビ』を通じて義勇軍の活躍ぶりを派手に宣伝するつもりだ。
二人にも、忙しくしてもらうぞ?」
「――はい!」
「――任せといてよ!」
サシャは緊張しながら、ジャンは力強くそう答えてくれる。
頼もしい奴らだ。
満足感を抱きながら、パアンと両手を打ち鳴らした。
「それだけの人数を動員する以上、兵糧から靴下の枚数に至るまで、算出しなければならない数字は莫大なものになる!
王庁舎の職員たちには、これを担当してもらうぞ! 無論、通常業務と並行しながらな!
ブラスターこそ握らないが、この緊急対策本部こそ真に過酷な戦場であると知れ!」
――はい!
職員たちの返事にうなずき、兄弟子たるソアンさんに向き合う。
「その過程で、様々な折衝が必要になると思われます……。
ソアンさんには、恐縮なのですが……」
「我らが師は、このような時にこそ蓄えた知識と経験を活かせとおっしゃられるお方……。
私ごときを兄弟子として敬ってくれるのは嬉しく思いますが、どうぞ、一人のしもべとして思うままお使いください」
禿頭の兄弟子は、頭を下げようとする俺を手で制しながらそう言ってくれた。
「アスル殿、エルフ自治区からも可能な限り動員しよう。
かつてブラスターを使った戦いも経験した者たちだ。きっと役に立つだろう」
「それに、エルフの回復魔術があれば何かと安心だろう?
ま、オレは久しぶりにブラスター使った戦いを楽しませてもらうけどな!」
「長フォルシャ、エンテ……助かる!」
アスル・ロンバルドは周囲の人に恵まれたな……。
そのことをつくづく実感しながら、俺は号令を発した。
「ようし! まずは戦士の平原で訓練中の兵たちやベルクの騎士らを収容し、しかる後にエルフ自治区で志願者たちを集う!
――『マミヤ』、発進だ!」
「イエス。
発進シーケンスに移行します」
俺の命を受け、イヴが虹色に髪を輝かせ……。
ロンバルド王国を救うための行動は、開始されたのであった。




