シン・緊急対策本部
これまで、『マミヤ』において会議室といえば、アスルたちが利用してきた第一会議室を意味していた。
多機能型ラウンドテーブルを有するこの部屋は、ミーティングを進行する上で必要とされる様々な機能が存在するのだが……せいぜい、詰めて十人前後という室内面積だけはいかんともしがたい。
今回、アスルが決断した緊急対策本部の設立というのは、要するに王庁舎ビルの機能と人材をそのまま『マミヤ』内に持ち込むというものであり……。
当然ながら第一会議室では収容しきれるものではなく、そこでピックアップされたのが、かつての時代より放置されてきた第二会議室であった。
――第二会議室。
会議室と銘打ってはいるが、その実は体育館のごとき広大なホールである。
銀河帝国時代の『マミヤ』は極端なまでのトップダウン体質であり、一応は大人数用の会議室として用意されていたものの、使用する機会がこれまで存在しなかったのだ。
その第二会議室に、今こそ必要とされる機能を与えるべく、入船許可を与えられた王庁舎ビルの職員たちがひっきりなしに物資を運び込んでいた。
まず、あまりに殺風景な壁にはなんとなく選んだ数枚の絵画が飾られ……。
『マミヤ』製の制服に身を包んだ職員たちが、倉庫に放置されていたオフィスチェアを早歩きで運び込む。
車輪付きのそれを、一人当たり最低でも二つずつ押していくその姿は、まるで何かのレースをしているようであった。
壁際にはいくつものホワイトボードが並べられ、折り畳み式のミーティングテーブルが次々と組み上げられると共に、これを接続されていく……。
テーブルの片隅に置かれたプラ箱から取り出されているのはノートパソコンであり、これらはテーブル上に整然と並べられていき、さらにその上へバッテリーとマウスが一組ずつ置かれていった。
そして、忘れてはならぬ――複合機!
どれだけ時代が進もうとも紙の呪縛からは逃れられなかったのがオフィスという名の戦場であり、二十一世紀のそれと変わらぬ形状をした大型機が、『マミヤ』の倉庫には多数保管されている。
これを……次から次へと、ホワイトボードが並べられたのとは別の壁際へ配置していく!
複合機の隣には複合機! さらにその隣にも複合機! そのまた隣にも複合機! その隣には、これをおろそかにできぬ……追い複合機!
こんなに複合機ばかり並べて、一体何がしたいのか……?
どれだけコピーしたり印刷したりスキャンしたりファックスを送るつもりでいるのか……。
それは誰にも、分からない。
ただ、誰もが取りつかれたように複合機を運び込んでいた。
最後に、王庁舎ビルがら運び込まれた書類入りのダンボール箱が、台車ごと片隅に設置され……。
そんなこんなでついに――第二会議室が、本来求められていた機能を手に入れたのである!
「よっしゃあ!」
「ついに出来上がったぞ!」
「これが俺たちの緊急対策本部だ!」
人手不足なため、自ら先頭に立ってこれを行っていたアスルと職員たちが、快哉を叫びながら互いの手を叩き合う!
一つ、大きな仕事をやり終えた……。
そんな心地良さが、全職員を包み込んでいたのである。
「形だけ整えることへ一生懸命になっていても仕方がありません。
さっさとなすべきことをなしましょう」
「……うす」
そして、イヴの無情なツッコミに我へ返ったのであった。




