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遺物

狂気王子(ルナティック)、か……」


 あれから五年……。

 大地からは常に熱気が立ち昇り、生物と言えばこの環境に適応した昆虫くらいしか見受けられぬ『死の大地』で、俺は恒例となった独り言を口にしていた。


「その汚名、必ず返上してみせる……!」


 この五年、水は魔術で生み出し昆虫食で飢えを癒してきたが……。

 すでに持ち込んだ塩は尽きつつあり、肉体的な限界はとうに超えている。

 この上、精神的にまで限界を迎えるわけにはいかず……。

 俺はこうして、自分を励ますための言葉を口にし続けてきたのであった。


「ここだ、な……」


 これも塩と同様に持ち込んだ研究資料……現地へ来てから改訂に改訂を重ねたそれを見やりながら、なんの変哲もない岩の一つへと向き合う。

 乾き、ひび割れた荒野がどこまでも続く『死の大地』において、こんな岩はありふれている。

 だが、俺は確信を持ってそれに手を伸ばす。


 かつては、星々の世界ですら自由に行き交い支配していたという、超古代文明……。

 その指導者の血を引く人物……すなわち俺がこの岩へ触れることによって、遺物が眠る場所へと誘われるはずだ。


 まあ、この五年間、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も同じことをしては、落胆の溜め息をついてきたわけであるが……。

 そもそも、国一つ分はあろうかという広大な『死の大地』に遺物が存在していることは分かっていても、具体的にそのどこに眠っているかは絞り切れていなかったのである。

 そこを精査するためにも、予算と人員が欲しかったのだ。


 ――大丈夫!


 ――今度こそいけるから!


 ――流れを感じるんだ!


 心中、そんなことを自分に言い聞かせる。

 うん、ハマッたのが古文書で本当に良かった。

 もし、賭博にハマッていたならば、おれは追放どころか処刑されていたことだろう。

 その場合、一切の文句が言えないな……。


 まあ、そんなわけで……。

 ()()()()()()()()()()という確信を持ちながら岩に触れた、その時である。


「――へ?」


 突然、足元の感触が消え去り……。

 不可思議な光に包まれた俺は、乾いた大地の中へと飲み込まれたのである。




--




「ここは……?」


 不可思議な光も消え去り……。

 『死の大地』地下に広がっているのだろう大空洞へ降ろされた俺は、すかさず魔術で光を灯し周囲を見渡した。

 一体、どれほどの広さがあるのか……。

 とにかく、途方もなく大きな空間だ。

 空気はひんやりとしており、地上との落差がひどい。

 ぶるり、と身を震わせていると……。

 突如として天井部から光が降り注ぎ、空洞の中を照らし出した。


「明かりを灯してくれるのか……面倒見がいいな」


 魔術の光を消し去りながら、俺はにやりと笑う。

 寒さなど、吹き飛んでいた。

 ちゃちな魔術の光では、全容を照らし出せなかったモノ……。

 眼前にそびえる、壁だと思っていたモノ……。

 それを、目にしたからだ。


「やった……!

 ――やったぞー!」


 今まで、何度となくこの瞬間を夢想してきたはずなのに……。

 いざ、実際にそれを迎えてみると語彙力(ごいりょく)を失ってしまうものである。

 だが、それも致し方あるまい……。


 今、目の前にあるモノ……。

 それは、王家に伝わる古文書をもとに俺が探し求めてきた――超古代文明の遺物なのだから。


 一見するならばこれは、船舶……のように見える。

 だが、ガレー船のような(かい)も、帆船のようなマストも存在しない……。

 鉄とも銀とも異なる、神秘的な金属で形作られた船体は両舷部を翼のように緩く湾曲させており、およそこれを動かす仕組みのようなものは見当たらなかった。


 それに何より……でかい!

 自分の腕などをもとに計算してみるが、全長はおよそ260メートル。全高は30メートルほどもあるだろう。

 浮遊術で浮き上がり確認したところ、甲板は存在せず、船体上部は美しい曲線を描く装甲で覆われていた。

 こうして俯瞰(ふかん)してみると、巨大な鳥類のようにも見えなくはないな……もっとも、竜種でさえここまでの巨体は確認されてないが。


 そのようにしながら、観察していた時だ。


『マスターと同様の遺伝子情報を確認……。

 遺言に従い、あなたを新たなマスターとして設定することが可能です』


 果たして、どこからそれを発しているのか……。

 透き通るような女性の声が、眼下の船舶から発せられた。

 驚き、浮遊術の制御を誤ってしまいそうになるが……どうにか気を取り直し、つぶやく。


「驚いたな……文字は違うのに、言葉は同じものを使っていたのか……」


『ノー。

 私を生み出した文明の言語と、あなたの言語は異なるものです。

 今回は特事法にのっとり、あなたの脳をスキャンして言語情報を得ました』


 ……言葉の意味は分からんが、何か恐ろしいことをしてないか? こいつ。

 ともかく、意思疎通が可能というのはありがたい。

 俺はこほりと咳を吐いてから、訊ねる。


「さっきの質問だが、マスターとやらになれば……これから先、俺の望む通りにお前の力を使えるということか?」


『イエス。マスターとして登録して下さるなら』


 間髪を入れず、質問への答えが返ってくる。

 それに満足しながら、続く質問をぶつけた。


「では……お前の力を使って、どんなことができる?」


『質問内容が漠然(ばくぜん)としています。

 もう少し、範囲を絞ってご質問ください』


「そうだな……」


 そう言われて、質問内容を変えることにする。


「この空洞の上……地上では不毛な大地が広がっている。

 それを、緑あふれる大地に変え、豊かな国を作ることはできるか?」


『イエス。可能です』


 遺物の返事は、俺を大いに満足させるものであった。

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