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真(チェンジ!!)下駄 貧乳最後の日 2

 エンテとオーガに散々愚痴を聞いてもらった(のち)……。

 ウルカが目指したのは、ビルク郊外に停泊している『マミヤ』であった。

 特に深い理由があるわけではなく、単純に着替えるためである。


「はあ……」


 艦内を歩く足は重く、定期的に溜め息をこぼしてしまう。

 日々の激務による、疲れもあるだろう。

 しかし、それ以上に少女を苦しめているのは、先程抱いた疑念であった。


 ――まさか。


 ――アスル様に限って浮気なんて。


 そのようなこと、考えてすらいけないと首を振る。

 だが……。


 ――ヒャハ! やっぱり男が女に求めるのはオッパイだぜ!


 その(たび)に脳裏をよぎるのは、クッキングモヒカンが口にしたあの言葉であった。

 立ち止まり、再び自分の胸を見やる。

 豊満であるとは、口が裂けても言えまい。

 自らの戦力を見誤るほど、ウルカは愚かな女ではなかった。


 だが、ここにはまだ希望がある。

 形には自信があるし、年齢的に考えてもここから大きくなる可能性は十分だ。

 そもそも、自分の発育が不十分なのは潜伏生活中の質素極まりない生活が原因だと見て間違いない。

 アスルと出会ってからは食事に困ったことなど一度としてなく、どころか献立の組み立てに悩まされることの方が多いくらいなのだから、日々得られる滋養が胸に行く未来は確定していると見てよいだろう。


 そうだ……未来は無限大であり、恐れることなど何一つない。

 今日、アスルがそっけなかったのも何かしら深い理由があったからだろう。


 そんな風に自分を納得させながら、人気(ひとけ)のない艦内通路を歩いていた時だ。


「……人影?」


 目前の十字路を何者かが横切り、再び足を止める。


「……今、この『マミヤ』に住んでいるのはわたしとアスル様を除けば、イヴさんとカミヤさんたちロボットだけのはず」


 以前は『マミヤ』内部のファクトリーを使用して様々な品を生産していた正統ロンバルドであるが、王都ビルクが整備されるに従って同等の能力を持つ各種設備も建設され、今では余人が足を踏み入れることはなかった。

 この船は正統ロンバルドの心臓部であり、象徴であり、内部は機密の固まりであるのだから、これは当然の施策である。


 で、あるのだから、アスルが出かけている以上はイヴであると考えるのが妥当であるのだが……。


「あの人影は、どう考えても人間の男性だった……。

 しかも、わたしの耳で足音を捉えることができなかったなんて」


 頭頂部のキツネ耳をぴくりと動かしながら、ひとりごちた。

 横切ったのはほんの一瞬であったが、それでイヴと他の人間とを見違えるはずもない。

 そして、他のいかなる種族よりも優れた獣人の聴覚で足音を察知できなかったのだから、これはもう不審と言う他にない。


 ――賊。


 そのような考えが脳裏をよぎり、背筋をひやりとさせる。

 今、ウルカの手元に武器らしい武器はない。

 ならば、大急ぎで来た道を引き返すのが常道であったが……。


「でも、もしそうならイヴさんも『マミヤ』を通じて察知し、何かの手を打っているはず……。

 そもそも、ここに入れる賊がいるはずはない……」


 ここは『マミヤ』艦内であり、外の常識が通用する場所ではない。

 また、内部に入れるのはアスル、ウルカ、イヴの三人とロボットたちだけであり、他の人間は近づいただけで警告されるのである。

 それを無視すれば、先に待つのは死だけだ。

 その事実を踏まえ……。


「……確認するだけならば」


 ウルカが選んだのは、人影の後を追う道であった。

 それは、若者らしい好奇心の発露であったかもしれない。

 しかし、それ以上に……何か抗えぬ運命的な力が少女の背中を後押ししていたのである。




--




 ――まるで、誘われているような。


 ……いや、まるで、ではない。


 ――誘っているのだ。


 見失ってしまうか否かという、ぎりぎりの(しお)……。

 謎の人影はそれを見計らうかのように、曲がり角や階段の向こうへ姿を消していくのである。

 ここまでの追跡行でかろうじて確認できたのは、その人物がなかなか恰幅の良い体格をした男性らしいということ……。

 そして、病院に勤務するエルフたちと同様、白衣に身を包んでおり……。


 ――何故か、下駄を履いているということだ。


 そのような履き物でありながら、ウルカのキツネ耳が足音を捉えられないというのはますますもって不可解なことである。

 不可解なことは、もう一つ存在した。


 ――ここがどこなのか、分からない。


 古代の技術で内部空間を操っている『マミヤ』艦内は外観を遥かに上回る広大さであるが、それにしても、ここに居を置くウルカが道に迷うというのはおかしな話だ。


 気がつけば、常に昼間のような明るさを保たれているはずの通路は、非常灯のみが点灯する薄暗い空間へ変じており……。

 いまだかつて足を踏み入れたことのない区画へ入り込んでしまったらしいというのは、明らかであった。

 しかも、背後を見やればそれまで点灯していた非常灯の光が消え去り、漆黒の闇と称する他にない光景が広がっているのである。


 こうなってしまえば、他の選択肢など存在しない。

 『マミヤ』艦内を歩いているというよりは、冥府をさまよい歩いているような気分になりながら、謎の人影を追い続ける。

 その先に、何が待っていようとも……。


「これは……ドア……?」


 そのような追跡行の果て……。

 辿り着いたのは、一枚の自動ドアであった。

 表面には部屋の用途を示すのだろうプレートを掲げているが、これは古代文字なのかウルカには判別することができない。

 周囲を見回しても、他に通路は存在せず……。

 背後には、漆黒の闇。

 ここが終着点であることは、明らかだ。


「――よし」


 決意と共に、自動ドアへ手をかざす。

 すると、他のドアと同様にそれはするりと開いてくれた。

 そのまま、室内へ足を踏み入れる。


「ここは……何かを研究する場所でしょうか?」


 見たこともない機械や機材が雑多に並べられた室内を見てそうつぶやいたのは、各所のモニタに表示された文字や数字の羅列から、学問への深い情熱を汲み取れたからであった。


「左様……ここは私の研究室だ」


「――っ!?」


 背後の言葉に驚き、振り向く。

 すると、ウルカが入ってきたばかりの入口には、白衣をまとった中年男が立っていたのである。

 年齢は、四十から五十……種族は通常の人間だ。

 ぼさぼさの黒髪といい、極太の眉といい、外見への無頓着さを感じさせるが、口ヒゲだけは形を整えていた。

 腹は見事に突き出しており、下にはステテコを履いている。

 そして、足元には――下駄。


「ようこそ、私の研究室へ。

 まずは名乗ろう……。

 私の名は、潮留(シオトメ)博士。

 この『マミヤ』や、カミヤたちを開発した科学者だ」


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― 新着の感想 ―
[一言] やはり早乙○博士か…
[一言] で、出たあああああ~~~~! 死乙女博士じゃなくて良かった。
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