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くれないの? ブタ 4

 ここで一度、かの貴族家についておさらいしておこう。


 ――ラフィン侯爵家。


 ロンバルド王家とも血の繋がりが存在する、大貴族中の大貴族である。

 要するに、俺の親戚だな。

 当然ながらその所領も広大であるが、その広さ以上に重要なのは、かの地が旧ロンバルド王国における交通の要衝であることだろう。


 侯爵領の北にはハーキン辺境伯領……ひいてはそれと地続きの正統ロンバルドが存在し、東はロンバルド王家直轄領と隣接。そして、西には弱小貴族家が群立する中部地帯――ジャンとサシャの出身地が存在する。

 しかも、南にはこれも名だたる貴族家の所領が連なっているわけであるから、これはもう、ロンバルド王国を人体とみなした場合の心臓部に位置していると言って過言ではなかった。


 で、あるから、俺としても当然接触を持ちたい貴族家ナンバーワンである。

 そこさえ押さえてしまえば、旧ロンバルド王国との戦いは勝ったも同然。しかも、父上たちが仕掛けてきている封鎖作戦にも巨大な風穴を開けることが可能なのだ。


 風林火(ふうりんか)を指揮した際、真っ先に獣人国地方における交通の要衝を機能不全にしたことからも分かる通り、俺は(いくさ)において人と物との行き来を最重要視している。

 それがつつがなく行われているということは、すなわち、兵站(へいたん)が健全に機能し兵たちへ不自由させなくて済む状態だからだ。

 『マミヤ』のテクノロジーを駆使すれば何事にも無理は効くものであるが、そんなものは効かさないに越したことがないのである。


 ……まあ、そういった損得勘定抜きにしても、親戚とやり合いたくはないしな。できればだけど。


 だが、ラフィン侯爵家を押さえることに関しては、最初から検討すらせず諦めていた。

 その理由は簡単、親戚だからである。

 ラフィン侯爵家当主、スオムス・ラフィンとは知らぬ間柄ではない。

 で、あるから山賊爵という見た目のいかつさしか見ていない異名とは裏腹に、彼が身内に対していかに優しく、暖かい人柄であるかはよく承知していた。

 それはそのまま、最も重要な身内――ロンバルド王家に対する忠誠心の厚さとしても表れている。


 俺が建国宣言をするや否や、素早く王家と連携し、至ハーキン辺境伯領への封鎖線を敷いたことからもそれは分かるだろう。

 幼い頃、スオムスからもらった言葉を思い出す。


 ――我がラフィン侯爵家は王家の盾であり、槍!


 ――殿下も何か困ったことがあった際は、遠慮なくこのスオムスを頼るのですぞ!


 ……ごめんよ、スオムス。俺、王家の盾と槍を向けられる立場になっちゃったわ。


 ま、そんなわけで粉砕すべき盾と槍であるラフィン侯爵家であるが……。

 それが、『テレビ』を通じて伝えている接触の意思を表すメッセージ――三点同時ののろしを上げている。

 王家直轄領と同様、民草から『テレビ』を取り上げているらしい侯爵家ではあるが、こちらの情報とついでにお天気情報を知るためにこれはしっかり視聴していることだろう。


 だから、知らぬまま偶然のろしを上げたということはあり得ない。

 なんらかの事情があって接触を求めているはずなのだが、果たして――。


「一体、どういうことなんだろう?」


『貴様の期待に沿えなくてすまんが、私にも心当たりがないな……。

 配下の者たちから入ってくる情報を見ても、依然としてかの地は我らへの強硬路線を貫いている』


 携帯端末を通じて相談した我が友、ベルク・ハーキンは事情を聞くなりにべもない言葉を返した。


『むしろ、貴様の方がかの侯爵殿に関しては詳しかろう?

 何しろ、親戚筋に当たるわけだからな』


「親戚で人柄をよく知ってるからこそ、不可解なんだよ。

 あのおじさん、一回敵認定したらぜってーそれを解除するようなことはねえぞ」


『まあ、私も知らぬ人物ではないが、そういう空気は感じるな……』


 うーむ……。

 と、二人揃って携帯端末越しに唸り声を上げる。

 分からん。誰かと相談すれば糸口が見い出せるかと思ったが、さっぱり分からん。


『だとするならば……』


 と、そんな風に悩んでいたところでベルクが口を開く。


『こちらと敵対する姿勢は変えぬままに、接触を持ちたいのではないか?』


「と、いうと?」


『知っての通り、我が辺境伯領は王国の材木供給を一手に担っている。

 ゆえに、貴様よりは少しばかり商売というものに鼻が利くのだが……。

 その経験を基に考えると、向こうとしても人と物の行き来を制限して困っているのは変わらぬはずなのだ』


「ふむ……」


 アゴに手を当て、少しばかり考える。

 『マミヤ』の恩恵を受けて暮らしていると、どうにも感覚がマヒしてしまって困るが……。

 木材というものは、生活の(いしずえ)である。


 建材や各種家具の材料になるのは当然として、何より大きいのは燃料としての需要だ。

 調理をするにしても、暖を取るにしても、(たきぎ)がなければ話にならないからな。

 しかも、季節は冬の真っ只中だ。

 (たきぎ)のやりくりにはさぞかし苦労していることであろう。


『王家直轄領に関しては、ある程度自力で木材を賄うことが可能だ。

 だが、侯爵領は異なる。

 何しろ、あそこは東西南北へ至る四つもの大街道が集結する開けた土地だ。

 森林資源というものに欠けている』


「なるほど、な……」


 言わんとすることを察した俺は、アゴから手を放した。


「いずれは必ず激突する宿命……。

 だが、向こうはこちらがブタ不足であることを察していて、その上で、こちらが保有する木材を欲している」


『あくまで、保有しているのは私であり我が領土の商人たちだがな』


「分かってる。分かってる。せいぜい儲けてくれればいいさ。

 この封鎖網で商人たちの懐を痛めさせてしまっているのは、俺も心苦しく思っているからな。

 話を戻すが、そういうわけだから実際に激突するその前に、双方部分的に和解し互いの生活を守りましょうと、そういう考えを持っているかもしれないわけか」


『私はそう思うが、貴様はどうだ?』


「そうさなあ……」


 スオムスの立場と性格を踏まえ、その思考を逆算する。


 ――山賊爵スオムス。


 かつての飢饉(ききん)に対し、義がなきことを承知の上で自領の民を食わせるべく辺境伯領攻めを画策した男……。

 確かに、奴の王家に対する忠誠心は厚い。

 だが、それ以上に重要視しているのは己が守る民たちの生活だ。

 広大な侯爵領を束ねる領父(りょうふ)として、かくあるべきと言ったところだろう。


「まだ、何か引っかかるところはあるが……。

 おおむね、お前の言う通りなんじゃないかと思う」


『うむ……。

 いずれにせよ、会わぬという選択肢はあるまい。

 例え罠だったとしても、その場にいるのは人形でありお前自身ではないのだからな』


随伴(ずいはん)するスタッフも他に代えがたい人材だ。

 特に、ジャンとサシャは何に代えても守り抜かねばならん。

 まあ、罠だとしても女子供を手にかけるスオムスじゃないから、そこは安心だが……」


 最悪、メタルアスルを自爆させてでもスタッフは守ってやらないとな……。

 ともかく、結論は出たか。

 いや、最初から結論は出ていたが、心構えができたというところだな。


「よし! 行くか! 侯爵領!」


『うむ、吉報を期待しているぞ』


 ベルクとの通話を切り、携帯端末をしまう。


「外遊チームにも事情を伝えました。

 いつでも行けるとのことです」


 おそらくは、発光型情報処理頭髪(リライズ・ヘア)を通じて直接向こうの携帯端末とやり取りしたのだろう……。

 傍らでじっと控えていたイヴから、メタルアスル用のヘッドセットを渡される。

 俺は、それを勢いよく装着するのだった。

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