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皇国視察団 修羅編

 元々、オーガを始めとするモヒカンたちは農業に従事させていたのだが……。

 王都(ビルク)やブームタウンの人口が増えるにつれ、どうしても自警組織というものが必要となり……彼女らには、その任へ就いてもらっていた。

 どんなお題目を掲げようとも、そういった組織の本質は暴力装置に他ならず……。

 我が国において、暴力と言えばオーガを置いて他になかったからである。


 その差配そのものは、適材適所というか他に誰を任じるんだ? というものであったのだが……。

 これを他国の人間に見せるとなると、とても恥ずかしい。

 そのため、苦肉の策として魔物の出現をでっち上げ、倒すまで帰って来るなと命じておいたのだが……。


「おい、あれを見ろ!?」


「土煙に隠れてよく見えなかったが、何か巨大なものを引きずっているようだぞ!?」


 俺が絶望と共にうずくまっている中、何やらそんな話し声が聞こえてきたので顔を上げる。

 すると……なるほど。

 ギルモアたちが言っているように、オーガの愛馬ゴルフェラニを初め、モヒカンたちの搭乗するバイクは何かをロープで引きずっているようであり……。

 『マミヤ』由来の舗装技術を用いたビルクの街でもうもうと土煙が巻き起こっているのは、どうやらそれが原因のようであった。


 オーガたちが近づくと共に、引きずられているものの正体も徐々に明らかとなっていき……。

 これには、視察団のみならず俺さえもド肝を抜かれることになった。


 全長は、およそ20メートルほどもあるだろうか……。

 小山と称して差し支えのない巨体は赤い鱗に覆われており、全体的な印象としてはワニに似ている。

 もっとも、八本足のワニというものがいればの話であるが……。


「何これ……魔物だよな?

 どっから連れて来たの……?」


 視察団の人間たちに聞かれないよう、小声でそうつぶやく。

 そうこうしている内に、オーガたちは俺たちの目前にまで迫り……。

 彼女やモヒカンたちの迫力と、引きずってきた死骸の巨大さにイヴ以外の人間はおののくこととなった。


「アスルよ! 今、帰還したぞ!」


 ゴルフェラニの巨体にまたがったオーガが、遥か頭上から俺にそう声をかける。


「あー……うん……早かったね……。

 それで、どうしたの? 背後の……魔物? は?」


「うむ……」


 俺の言葉に、オーガは(いわお)のような顔をしかめてみせた。


「貴様の言うように沿岸部まで行ってみれば、よもやだ……。

 まさか、トクの索敵網すらかいくぐってこのように巨大な魔物が上陸を果たしていたとはな。

 おそらく300歳は越していようこの巨体……それに見合う貪欲(どんよく)な食欲を有していよう。

 もし、発見が遅れていたならば、獲物を求めてブームタウンやこのビルク……あるいは獣人国などを目指していたにちがいあるまい」


「ヒャッハー! 特に情報もなしに存在を見抜くとは、さすが俺たちのアスルだぜ!」


「ヒャッハー! ちなみにだが、こいつは便宜(べんぎ)上ダララワニと名付けたぜ!」


「魔物の肉なんざ外道と言われているが、これだけ熟成された肉なら話は別だ!

 このクッキングモヒカン様が美味しく調理してやるぜ! ヒャッハー!」


「ああ……そう……うん……すごいね、俺……。

 ダララワニでもドララワニでも、好きに名付けたらいいよ……。

 楽しみだね、今日のディナー……」


 ロープを切り離し、バイクに乗りながら俺たちの周囲をヒャッハーするモヒカン共に讃えられ、頭を抱える。


「ところで、アスルよ?

 そちらにいる者共はなんだ?」


 そんな風にしていると、当然ながらオーガが視察団の人々に目線を向けそう問いかけてきた。


「あー……その……」


「我らは皇国よりの視察団!

 あたしはそれを預かるワム・ノイテビルク・ファインである!」


「同じく、獣人国よりの視察団でございます!」


 俺がためらっている間に、ワム女史とタスケが名乗りを上げてしまい……。

 なし崩し的に、予定外の警察署兼消防署ツアーが始まってしまったのだった。




--




 ブラスターしかり……。

 瞬時に装着可能な鎧しかり……。

 携帯端末という道具しかり……。


 正統ロンバルドの強みというものは、古代文明の技術を用いた道具類を置いて他にない。

 で、あるから、自警組織に関してもそういった品々を潤沢(じゅんたく)に支給しているものと思っていたワムである。


 だが、あの覇王率いる一団はといえば、どうか……。

 騎乗している乗り物こそ古代文明の技術を用いているが、身に着けているのは申し訳程度の皮装具であり、一部の者が手にしている武器も粗雑な作りのこん棒や手斧であった。

 そこには、古代文明の技術などどこにも見受けられず、どころか蛮族の装いにしか思えぬ。


 しかし、その実力が本物であることは、あのダララワニなる魔物の死体を見れば明らかだ。

 あれだけの大物となると、ワムの手勢にいる魔法騎士全てを動員しても勝てるか、どうか……。


 空想の戦いを脳裏で描きつつ、警察署兼消防署なる塔に一歩足を踏み入れてみると……。


「……陛下はああ言っておられたが、予備兵力の(たぐい)は残されていたようだな?」


「予備兵力? ちがうな。

 こやつらは、仮面を外し名を持つことも許されぬ半人前よ!」


 なぜかとても恥ずかしそうに両手で顔を覆っているアスル王に代わり、覇王がそう説明する。


「これが……半人前だというのか?」


 背後でギルモアが驚きの声を上げるが、それも当然のことだろう。

 警察署兼消防署……その一階は、全面積を使用した砂敷きの闘技場となっており……。

 そこでは、仮面を被った闘士たちが血で血を洗う闘争に明け暮れていたのである。


 二本のこん棒を支えに宙を舞いつつ、華麗な足技で攻撃する者がいる……。

 獣人国との(いくさ)でも見かけたシュリケンを、無数に投てきする者がいる……。

 中には、砂蜘蛛のように独特な動きで地を這う闘術の使い手も見受けられた。


 いずれもが、恐るべき威力を秘めた殺法に外ならず……。

 しかも、戦う者たちは寸止めを用いず、どころか必殺の意思を込めてこれを放っているのだ。


 ――修羅!


 ……まさしく修羅である。

 ここにいるのは、闘争のみを生きる道と見定めた修羅たちなのだ。


「こやつらには、闘争を繰り返し百回勝利することを課しておる!

 その上で、さらに戦績を積んだ者のみが仮面を外して名を名乗り、人間としての権利を得ることができるのだ!」


 覇王がそう説明する間も、修羅たちは決して闘争をやめることがない。

 次の戦いのために……次の次の戦いのために……。

 眼前にある相手を喰らい、その強さを己が物にせんと励んでいるのだ。


「あたしは……勘違いしていた」


 ぼう然としながら、ワムはそうつぶやく。


「正統ロンバルドの強さというのは、古代文明の技術にあるのではない……。

 人の心を捨て、ただ闘争のみを求める修羅たち……。

 それこそが、正統ロンバルドの強さであり、あれだけ巨大な魔物を打ち倒すことすら可能としているのだ」


 ワムの言葉に、皇国の魔法騎士たちのみならず、獣人のサムライたちも深々とうなずいてみせた。

 自分たちがいかに生(ぬる)い存在であったのか……武芸者として、それを感じずにはいられなかったのである。


「ああ……はい……もうそれでいいです……」


 感銘を受けるワムたちをよそに、アスル王はずっと恥ずかしそうなままであった。

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